第十五話-15
その日の夜、眠っていた俺は意識だけの存在になって目覚めた。どうやら何者かに意識のみを呼び出されてしまったようである。肉体がない状態で深い闇の中を彷徨っていると少し離れた場所で何者かが問答しているのが見えてきた。一体何者だろうか。そう思いながら近づいていくと、そこにいたのはブタノ助とそれを取り囲むフードを被ったローブ姿の集団だった。
『『ブタノ助よ。神の祝福を受け取るがいい』』
「貴方がたは何者なのですか」
『『我らは神。お前たちを違う次元より見守る神だ。藤堂晴彦に懸命に仕えるお前に我々は感銘した。ゆえに神の武器を授けよう』』
神様だって。驚いた俺はローブ姿の集団の声に耳を澄ませた。以前、アカシックレコードと干渉した際に聞いたことのあるような声が混じっていた。間違いない。異界の神々だ。一体どうして彼らがブタノ助の夢の中に現れたというのだろうか。
神々は何故かそれぞれ違う武器を虚空から生みだしていた。
チャクラム、怪しげな装飾の剣、鬼が持っているような金棒、西遊記の猪八戒が持っていそうな鍬、苦悶の表情を浮かべたような洞がついた木の混、フライパンにナイフとフォーク、怪しいものではスコップにバット等、統一感というものがまるで見られなかった。
この中のどれかを選べというのだろうか。普通だったら内輪もめが起きる奴だぞ。若干不安になりながら見ていると案の定、神々はお互いが持っている武器を見て困惑した様子だった。
『バットだと…貴様は一体何を考えているのだ』
『ふははは、ナイフとフォークを持った者に言われる筋合いはないわ!俺にツッコミを入れる前にあそこの神の方を見てみろ、スコップを持っているではないか、相手の墓穴でも掘ろうというのか』
『うまいことを言うようだが、それが狙いではない。我が狙いはトリュフをブタに掘らせることだ』
『トリュフだと。メスのフェロモンを嗅ぎ当てるために【発情】でも付与するとか言い出さないだろうな』
『見事な看破なり!!』
『ちょっとお前ら、集合、集合な』
神々はそう言ってブタノ助に少し待つように言った後に隅の方で話し合いを始めた。
『一応聞いておくが、何かしらのステータス異常や呪いなどの忌まわしい効果を付与する武器を持ってきた奴は挙手を頼む』
『四神もいるのかよ!何考えてんだ、あいつは地球の豚野郎と違ってまだ耐性が低いんだぞ』
『いや、だって面白いかと思って。なあ、そうだよな?』
『え、みんなそういうコンセプトで持ってきたんじゃないの?』
『違うに決まってんだろ、あそこの神を見てみろ、まともな魔剣を持ってきてるだろ、ああいうやつが欲しかったんだ!』
『いや、でも俺の魔剣ナイトブリンガーって女騎士の服を脱がす目的で作られたものだぜ』
『『どうしてそんなものを!!』』
『おい、今バットを後ろに隠した奴、後ろめたいことがあるから隠したんだろう。何の効果を付与したのか聞こうか』
『大した効果はない。豚が振ると「くっ殺せ」と声が出るだけだ』
『……どうしてそんなものが存在するんだ』
暫くは喧々囂々の罵声が入り混じる話し合いが行われた後に意見が統一された。まずは呪われた武器は却下。
戦闘で役に立つものの方が今後の役に立つのでそれを優先させるという結論になった。候補として残ったのはチャクラム、かぎ爪がついている小手、金砕棒、馬鍬であった。
そして実際に使えるものかどうかを神々が実演することとなった。
『まずはチャクラムを持ってきた神よ、どのように使うか説明を頼む』
『分かった。まずはこうして投擲するフォームを取って、次に狙いを定める。そしてこのように投げつけるのだ……うへへ、ぴゃぽぽっ!!』
神はそう言って人が変わったかのような様子でチャクラムを投げつけた。飛翔していく最中で無数に分裂したチャクラムは的である金属鎧をあっさりと切り裂いていった。凄まじい威力だ。だが、その後が問題だった。ブーメランのように戻ってきたチャクラムの群れはその凄まじい速度のまま、投げつけた神目がけて襲い掛かってきたのだ。受け止めきれなかったチャクラムが神の身体を容赦なく切り裂いていく。
かみはまっぷたつになった!
絶句している他の神々の目の前で神は悲鳴をあげながら消滅していった。
『こ、これは使えないなあ』
『消滅したが大丈夫なのか、チャクラムの神は』
『依り代だから本体に影響はないから大丈夫だろ』
『では気を取り直して次の神!』
『私が勧めるのはこの小手だ。見るがいい!ロケットパーンチ!』
そう言って装着した小手をかざして叫んだ瞬間、神の腕ごと小手が飛んだ。見ている方はびっくりである。ロケットパンチとなった小手は目標である金属鎧にぶち当たった後に凄まじい爆発を引き起こした。爆発の後に残ったのはわずかな消し炭だけだった。
『あの、小手の神、腕がなくなったようですが』
『構わん、そのうち生えてくる』
『この武器も却下だな』
『次の神は誰だ』
『次は俺の金砕棒を試させてもらおう』
そう言って現れたのはローブから隠せないほど隆起した筋肉を身に纏った偉丈夫だった。闘気を身に纏った神は肩に担いでいた金砕棒を無造作に肩から下ろした。大地にめり込むほどの重量を持った金砕棒はおおよそ武器と呼ぶには躊躇われるような凶悪な様相をしていた。要は地獄の鬼が持っていそうな金棒そっくりだ。
神は猿叫に近い雄たけびを上げながら的である金属鎧に突進していった。そして大地に叩きつけるように金砕棒を下から上に振り払った。大地をえぐるようにしながら金砕棒は金属鎧を粉々にした。凄まじい威力だ。
戻ってきた金砕棒の神は唖然とする他の神に対して堂々と言い放った。
『特殊な効果は何もないが、威力は抜群だ。もっとも重量も並みのものではないがな』
『これ、俺の野生化のスキルを身につけたら凄まじく役に立つかもしれないぞ』
『用途によっては大戦斧とかに変形とかでもいいよな。形状変化できるように魔改造しとくか』
『いいね、では役に立つ繋がりで僕の作った麻薬や毒を振りまく効果も付随しようか』
『『それはやめろ!どさくさまぎれに何をしようとしている!』』
どうやら狂気の神が混じっていたようである。他の神に止められて自重した様子だったが、油断も隙もない。
『どうやら最有力候補は金砕棒だな。では最後の武器だ。馬鍬の神よ、武器の説明を頼む』
『今の武器を見てからだと気が引けますが…やりましょう!』
馬鍬の神はそう言って馬鍬を的である金属鎧に向けた後に精神集中しだした。同時に神々は騒ぎ出した。
『おい、足元から水が沸き出してきているぞ』
『御心配には及びません。水流を操るのがこの馬鍬の効果なのです』
『おいおい!もう膝まで来ているじゃねえか』
『少しだけ効果が強すぎるのが玉に傷ですが…』
そう言っている間にもすでに水は首元まで来ていた。なおも神は精神集中しているが、すでに地に足がつかなくなった他の神々は溺れていた。溺れだしている時点でこの武器を制御できていないことに気づいた神々は慌てて馬鍬の神に精神集中をやめるように促そうとした。だが、それより早く馬鍬の神は馬鍬を高くかざした。同時に他の神々を巻き込んで大洪水が起こった。
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目が覚めた俺は絶句していた。この年にしてベッドのシーツに世界地図を描いていたからだ。洪水の夢を見ていたからなのか。恥ずかしさのあまりに暫く立ち直れなかった。
シーツを片付けていると興奮した様子のブタノ助がやってきた。その手には夢で見た金砕棒と馬鍬が握られていた。昨日武器屋で買った武器の形状が思い出せない。神々の加護を受けて変化したという事なのだろうか。
シーツの大惨事の件もあり、俺は無言で馬鍬を奪い取った後でこれは戦闘に絶対に使用するなと言い含めた後でブタノ助に返した。
こうして神々からの贈り物は無事にブタノ助に授けられたのだった。
皆さん、沢山のご意見をありがとうございました。金砕棒が一番イメージと合致したので今回は金砕棒とさせていただきました。