第十五話-13
沢山の手の生えた肉の塊から元に戻らなかったらどうしようかと思ったが、無事に三匹は元の姿に戻ることができた。もっともトラウマを植え付けてしまったようでインフィニティの顔を見るたびに逃げ惑うようになった。まるでナマハゲから逃げ惑う子供のようである。
悪い事しかないように見えた肉の芽であったが、思いもしない副産物を生むことができた。大熊のモンスターである紅カブトの前足が二本から六本に増えて戻らなくなったことで6回攻撃が可能になったことである。単なる奇形かと思ったが、どうもビッグベアの上位種にグレートベアという八本足の熊がいるらしく、偶然にもその進化を促したようなのである。
毛並みも以前の黒いものから金属のように光沢のあるものに変わっている。驚いたのは口から火を噴けるようにもなっていたことだ。連続攻撃に火炎攻撃など殺意が高すぎる。
ゴブえもんにも変化が見られた。見た目は変わっていなかったが、何と分身体を作成できるようになっていた。最初は無意識でスキルを発動させたために全く同じ姿のゴブリンが向かい合って「お前は誰だ」という様子で怒鳴り合うという奇妙な光景が見られたが、それが自分の能力によるものと分かってからは便利に使いこなす様になっていた。斥候などに向いている能力であるが、こいつ自身はポンコツのためにスキルによるサポートが必要になってくる。
そこでインフィニティに命じてスキル【思考補助】を開発した。このスキルはインフィニティのように自我があるわけではないが、ゴブえもんと俺達が意思の疎通をする際に通訳となってくれる。簡単な鑑定機能もついているので毒草と薬草を間違えて摘んでくることもなくなるだろう。種族的にもゴブリンの上位種であるホブゴブリンに進化していた。
ブタノ助にも大きな変化が見られた。肉の芽という異物が体内を刺激したことにより、奴は魔法が使えるようになっていた。鑑定で素養を調べたところ、回復魔法と地属性の魔法が最も適していることが分かった。種族的にもオークからハイオークに進化したらしい。一回り大きな体躯となったブタノ助は以前よりも頼もしく見えた。
期せずして仲間モンスターの強化ができたわけだが、肉の芽は何が起きるか分からずに危険すぎるので封印することにした。種族的には強化された仲間達だったが、身体機能は鍛えれば伸び代がある。そう思った俺はブタノ助達に近隣のモンスターの討伐することで身体能力を鍛え上げるように指示を出した。近隣の危険な動物を駆除できるうえにブタノ助の力で仲間モンスターが増えれば一石二鳥である。
だが、いきなり戦いに行かせるのでは無謀すぎる。まずは準備が必要だ。魔法で装備一式を作ってやろうかとも思ったが、魔王城の城下町ならばよい武具が手に入るのではないかと考えた俺はブタノ助を誘って街に繰り出すことにした。
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城下街のメインストリートは穏やかな様子だった。活気があるかといえばそうでもない。行き交う亜人の中にはブタノ助達の集落で見たような連中もいれば見たことがない亜人も結構いた。珍しいなと思ったのはドラゴンと人間が合わさったような種族だ。インフィニティに彼らは何者かと尋ねるとドラゴニュートという種族だという答えが返ってきた。
「神様はドラゴニュートに興味があるのですね」
「いや、ドラゴンの亜人なんて強そうだと思ってな」
「かなりの戦闘能力を持っていますよ。彼らの多くは腕利きの傭兵です」
なるほど。あいつらを仲間に引き入れるという手もあるな。そんなことを思いながらも、まずは金を手に入れるために大通りにある大きな道具屋に入った。事前に魔王城のメイドのハンナからどの道具屋が一番金を持っているかは聞き取り済みだ。薬草やポーションなどいくつかのアイテムの値段を見ていると店の主人らしき男が近づいてきた。
「いらっしゃい、何かお探しですか」
「実は買い取ってもらいたいものがある」
俺はそう言った後にアイテムボックスから空のペットボトルを取り出した。
「凄まじい軽さを誇る水筒だ」
「むう、これは珍しい」
「いくらで買い取るか聞きたい」
「そうですね…50ゴルドほどでいかがでしょうか」
「もう少し高くならないか」
一応は値上げ交渉をしてみるが、店主は首を横に振った。
薬草が8ゴルド、普通の水筒が20ゴルドくらいなので普通の品よりも高めに見てもらえているのは間違いがない。特に断る理由もないために承諾しようかと考えているとインフィニティが脳内で語り掛けてきた。この世界はペットボトルが手に入らないのだから、もっと高めでも買い取ってもらえるだろうという助言だった。恐らくは買い叩かれているのだろうが、値段はそこまで気にしない。要はこちらの持っている在庫を全て買い取ってくれるかが問題なのだ。そもそも、地球でウォーキングの際にゴミ拾いしながら少しずつ調達した品物なので、それに金を出してくれるだけでもありがたい。
「分かった。買い取りを頼みたい。ただし数が多いぞ」
「へ?いったいそれはどういうことで」
店主がキョトンとした顔をしている間に俺はアイテムボックスと繋がる【ブラックウインドウ】から大量のペットボトルを取り出した。足元が見る間にペットボトルの山になっていくのを見て笑顔だった店主も次第に顔色が青ざめていく。
「全部でざっと2000本ほどある。買い取ってもらえるな」
「は、はい、喜んで!」
こうして俺たちは装備を手に入れる軍資金10万ゴルドを手に入れた。