第十五話-11
次の日、シュタリオン王に会いに行ったら凄く感謝された。どうやら思惑通りに目が治ったようだ。眼球自体を潰された訳ではなかったために克服経験値も少なめで済んだという事だろう。目が見えるようになって改めて思ったのはシェーラとやっぱり親子なのだなという事だった。目元がよく似ている。
「ありがとう、君には本当に感謝している」
「礼はいいです。代わりにお願いがあるのですが」
「なんだね」
「シュタリオン王国を取り戻すために力を貸してくれませんか」
「こちらこそお願いするよ、勇者ハルヒコ君!」
王様は感激したのか俺に握手を求めてきた。思ったよりも力強い手だった。握り返す手に力を込めながら俺はこの人となら協力できると確信した。ただしその後に言われたことに冷や汗が出てきたが。
「てっきりシェーラとの結婚を許してほしいという話かと思ったよ。まあ、君になら喜んで娘をやろうと思う。どうだね、君さえよければ娘をめとって次のシュタリオン王国の王にならないか」
「いやいやいや、いきなり何を言い出すんですか」
シェーラの事を気に入っている内心がバレたようでドキドキした。王様は俺のリアクションを笑いながら「冗談だよ」と誤魔化したが、どこまで本気でどこまでが冗談なのか図りづらかった。とりあえず王国の奪還については王の体力が本調子に戻るのを待って、まずは軍備を整えようと結論づけて俺は部屋を後にした。
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ブタノ助の部屋に行くと彼の姿はなかった。ベッドに置かれていたのは彼の使っていたであろう包帯だけだった。どこに行ったのだろうと思って城の中を探し回ってみると城の訓練場で槍の練習をしているブタノ助の姿を確認できた。俺の姿を見るなり、ブタノ助は嬉しそうな声をあげた。
「おお!神様!」
「こんな所にいたのか、ブタノ助。まだ無理をしては駄目じゃないか」
「申し訳ありません、ですが、なくなった腕が再生したのが嬉しくなってしまいましてな。これも全て神様のおかげです」
そう言いながら汗をかいているブタノ助は闘気に満ち溢れていた。何となく悪戯心で俺は彼に尋ねた。
「そんなに体力が余っているなら一度、俺と戦ってみるか」
「よろしいのですか」
「もちろん刃のついた武器は使わない。要は模擬戦ってやつだ」
「願ってもない!」
はしゃぐブタノ助を見ながら俺は思った。今後の戦いを生き抜くためにもブタノ助を鍛えておく必要がある。前回の反省点は仲間モンスターを鍛えていなかったことだからな。そのためには力の差はしっかりと見せておく必要があると感じた。
まずは【鬼神化】を使って筋肉を膨張させた。だが、その次の瞬間に驚いた。ブタノ助も俺と同じように見よう見まねで【鬼神化】を使用したのだ。俺の肉体操作なしにスキルを使用していることに驚かされた。
『何度も【鬼神化】を使用したことでスキルが定着したものと考えられます』
「面白い!」
俺は鬼神化を使用して突進した。重力級の突進はレンガの壁くらいならば容易に貫通する威力を持っている。その突進にブタノ助は正面から受け止めてきた。分厚い筋肉の壁に阻まれた瞬間に思い知った。想像以上に凄まじいパワーをしているな。
「やるな、ブタノ助!」
「か、神様こそ流石です」
パワーは合格点だ。だが、まだ甘い。俺はクロックアップを使用してブタノ助の背後に回り込んだ。一瞬にして俺の姿が消えたことに戸惑ったブタノ助の腰に両手を回すと同時に力任せにバックドロップを放った。凄まじい重量ではあったが、【鬼神化】による影響で問題はない。石畳に脳天から叩きつけられたブタノ助は物言う前に気絶した。
ぐるぐると目を回しているブタノ助を見ながら俺は思った。まだスキルに頼った戦い方しかできていないようだ。確かにパワーは凄いが、駆け引き上手な敵と戦った時には間違いなく負けるだろう。もっと鍛えてやる必要がある。
そんなことを思っているとインフィニティが提案してきた。
『マスター!このオーク、私に鍛えさせていただけませんか』
「え、何をする気だよ。魔改造とかしないでくれよ」
『大丈夫です。マスターの配下として恥ずかしくない者に仕上げて見せます』
いつになくやる気のインフィニティの言葉に釣られて俺はブタノ助の修行をインフィニティにまかせることにした。
だがそれが失策だったのだ。このスキルがやる気を出している時はたいていは大惨事になる。さんざん痛い目に遭ってきたのに俺はまるで学習していなかったのだ。