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第十五話-6

 その日の夜のことだった。

 眠っていた俺は何者かの呼びかけを受けて目を覚ました。誰かが呼んでいるのが分かった。だが、それが誰なのか分からない。インフィニティに呼びかけたが返事がない。様子がおかしいと思った俺は周囲を見渡した。そこではじめて自分が立っているのが深い闇の中であることに気づいた。

この光景には見覚えがある。はじめてクリスさんに出会った時の空間にそっくりだ。恐らくは現実の空間ではなく、夢の世界の類であろう。

 誰が呼びかけているのかは分からないが、呼びかけは次第に小さくなっている様子だった。


『……ハルヒコよ…聞こえるか…勇者ハルヒコよ…』

「誰だ、俺を呼ぶのは」


 どこかで聞いたことがある声だった。呼びかけに答えたことで相手がこの空間に姿を現す。白い髭を蓄えた老人、その姿を見て俺は驚いて声をあげた。


「魔王ラードナー!!」

「ようやくパスが繋がったか、久しいな、勇者ハルヒコよ」

「ディーファスにいるはずのあんたがどうやって俺の意識の中に入ってきたんだ」

「おぬしが宿っていたオークを媒介にした。おぬしの魂が宿ったことで魂のパスが繋がっていたからな」

「ブタノ助は無事なのか」

「安心せよ、今は安静にして休んでおる」

「よかった…」


 自分が巻き込んだせいで重傷を負ったブタノ助が助かったことに俺は安堵の溜息をついた。そんな俺に対してラードナーは静かに語り掛ける。


「ハルヒコよ、今日はお前に頼みたいことがあって来たのだ」

「頼みたいことってなんだよ」

「単刀直入に言おう。ワシと同盟を組まんか」


 ラードナーの言葉に俺は言葉を失った。沈黙した俺が不審を抱いたと思ったのかラードナーは説明を続ける。


「確かにおぬしとワシは世間一般でいえばお互いの命を懸けて殺し合う敵同士じゃ。だが、そんなワシらにとっても脅威である帝国の存在は看過できない。違うか」

「それはそうだが…」


 確かに帝国の存在はシェーラ達の国であるシュタリオンにとっても脅威だ。このまま放置しておけば亜人の迫害はさらに広がるだろう。だが、俺にはラードナーの真意は汲めなかった。そんな俺にラードナーは説明を続ける。


「実を言うとな、長い年月を経てワシの力も衰えてきている。全盛期のワシならばともかく、今は魔族領に人間が攻め込まないように結界を張るのが精一杯だ。その結界もワシの力がなくなれば消えるだろう。帝国に攻め込むほどの余力を持ってはいないのだ。ゆえにおぬしの力が必要じゃ。亜人を迫害しない真っすぐな魂を持ったお主の力がな」


力が衰えていると言ったラードナーの言葉に俺は若干の違和感を覚えた。どこか引っかかると思った。シェーラから聞いた話では魔王が率いる魔族というのは魔神獣を解き放って人間を滅ぼそうとしている連中だったはずだ。これでは話があべこべだ。自分の目で確かめる必要があると感じた俺はそのことは心に秘めたまま、返答を行った。


「…分かった。協力するよ」

「まことか」


 ラードナーの問いかけに俺は黙って頷いた。共通の敵である帝国を倒すという利害関係が一致しただけでなく、ラードナーを信用していいのではないかと思ったからだ。この老人はシェーラのお父さんやブタノ助の事を助けてくれたからな。ただ、気がかりなことが一つあった。それはどうやって俺が異世界に渡るかという事だ。

 霊体の状態で渡ってブタノ助に宿る方法は賢明ではない。またあいつを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな。俺に表情から何かを察したのかラードナーは懐から何かを取り出して俺に放った。それは光でできた球体だった。球体は俺の身体に吸い込まれた後に紋章となって俺の胸元に現れた。


「それは召喚獣の証じゃ。この世界に来るときはその紋章を媒介とした【召喚獣召喚】の魔法を使う事にする。一回の召喚での滞在時間は3日間と限られるが、それだけあればお主なら十分じゃろう」

「なるほど、俺はあんたの召喚獣というやつか。一応聞いておくが、この契約にはデメリットは存在しないだろうな」

「安心しろ、契約破棄となったらディーファスから弾き出されるだけじゃ」


 勇者としてではなく、召喚獣となることで異世界に渡る。こういう手段もあるのか。納得した俺に微笑んだラードナーの身体が次第に薄くなっていく。


「そろそろお別れじゃ、ハルヒコよ。おぬしの力が必要な場合は再び呼びかけよう」

「わかった。待ってるぜ。ラードナー」

 

俺の言葉に頷いてラードナーは消えていった。こうして世界の敵である魔王との契約は終わった。同時に俺の意識も再び夢の中へと消えていった。




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