第十五話-5
クリスさんが言うには魔法にはいくつかの種類があるらしい。自身の魔力のみを使って魔力を火や水といった別の力に変換するものもあれば、人間の住む世界とは違う精霊界の精霊と契約して力を得る精霊魔術、魔界などの生物と契約して魔力を代償に契約した生物を召喚する召喚魔術などが一般に使用される魔法の代表的なものだ。
精霊魔術や召喚魔術はともかく、普通の魔法を覚える際には特殊な契約などは必要がないのだという。
精霊魔術は契約した精霊の力を借りれる分、強力ではあるが制約も多く、精霊の怒りを買うような真似をすると力を失うため、行動が制約される。具体的に何をしては駄目かというと相反する精霊と契約したり、眷属であるモンスターを倒すなどの真似をすると怒りを買ってしまうそうである。
召喚魔法は魔界の悪魔などと契約を結ぶことが多いため、強力なモンスターを呼び出せるが、反面でリスクも高く、契約の代償に魂を要求されるなどの恐ろしい代償を要求されるらしい。
その二つに比べてリスクが少ないのが自身の魔力を水や火などに変換して使用する『魔法』なのだが、自身の研鑽を積んでいないと、どうしても精霊魔術や召喚魔術に見劣りしてしまうらしい。
以前、俺が使用した『水作成』は通常の魔法の分類に入る。
そして今回行うのは攻撃魔法の習得だった。
「召喚魔法や精霊魔法を習得するには特殊な魔法陣や媒体が必要だ。だいたいはダンジョン深くに用意されているものなのでここで覚えるのは難しいだろう」
「では通常の魔法を覚えるんですね」
「そうだね、あとは自身に向いている魔法を練習するものなのだが、君の場合は少々特殊だからね」
クリスさんはそう言って苦笑いした。確かにそうだよな。全ての属性に適性があるという事は逆に言えば飛び抜けて得意な属性がないという事になる。選択肢が多いというのは逆にどれを使えばいいか悩んでしまう。
「まあ、用途に応じて考えるといいよ。火に弱いモンスター相手なら火の魔法、水に弱いモンスターなら水の魔法と使い分ければいい。試しに何かの攻撃魔法をイメージしてみるといい」
クリスさんに促されて俺は目を瞑って精神集中を行い始めた。俺の集中を手伝うためにクリスさんは横についてイメージを言葉にした。
「魔法で必要なのは使うあらかじめ魔力の量を決めておくことだ。そして後は明確なイメージを持つことが大切だ。このイメージで威力の8割は決まるといっていい。君が過去に体験した最も強い威力の魔法攻撃をイメージするといい」
そう言われて俺は想像した。一番身に染みて感じたのを覚えているのはインフィニティが俺にさんざん使用した電撃魔法である。気絶の回復と耐性の習得によって次第に洒落にならない電圧になっていったが、あれはやばかった。
無属性の魔力の塊を練り上げた俺はそれを雷の力へと変換した。掌から納まりきらない無数の放電が周囲にバチバチと奔り、荒れ狂う。その様子を見たクリスさんが青ざめる。
「晴彦君、いったいどんな威力の魔法を想像したんだ、これは普通の魔法じゃないぞ!!」
そう言われても困る。これは雷撃無効を習得するまで俺が毎日受けていた威力の電撃に過ぎない。何となく普通の環境でなかったのかなとは思っていたが、やはり自重しろというレベルの電撃だったという事か。内心で溜息をつきながら俺は具現化した雷の矢を放った。
少し先には俺たちの練習用にクリスさんが用意した魔法練習用の的があった。
準備された的にぶつかった雷の矢は的にぶつかった後に貫通して凄まじい放電を開始した。あっという間に黒焦げになった的を見てクリスさんが引きつった笑みを浮かべる。
「晴彦君、余程の相手でない限り、電撃魔法を使用するのはやめたほうがいいよ」
「え、なんでですか!?」
「あの威力を見ただろう。あの的は魔法を貫通しない特別なものなんだ。それを貫通するという事は…言わなくても分かるよね」
確実に相手が死ぬから自重しろよ。何となくそんな風に言われた気がして俺は苦笑いでクリスさんに返事をした。
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その日はそれからみっちりとクリスさんとシェーラから魔法の指導を受けた。結果として分かったことは俺が普通に全力を尽くして魔力を込めた魔法を使用すると確実にオーバーキルになるという残念な事実だった。というわけでいかに相手を殺さないようにするかが今後の課題となる。幸いなことにディーファスに出回っている普通の魔法は敵を殺さない適度の威力のものだったので、シェーラからいくつかの初級攻撃魔法と回復魔法を教えてもらった。
夕方になった頃になって依頼していた魔法を使用するターゲットを指定する魔法が完成したという知らせがインフィニティから届いた。
魔法を使うことが楽しくなっていた俺はすぐにゼロスペースに入った後に魔力で藁人形を数十体作成した。そしてスキルを試すことにした。
『スキル名は【マルチターゲット】です。使用魔力は一体につき5程度ですね』
「なるほど、藁人形は14体くらいだから使用魔力は70くらいか」
一般の魔法使いなら厳しいだろうが、こちらの魔力は膨大だ。俺がスキル名を宣言すると視界の端にレーダーのような画面が表示された。レーダーに表示された点の数は14。その全てに手を触れると赤く切り替わっていく。これでマーキングできたという事か。
『あとは魔法を使用するだけです。複数ですが可能ですか』
「任せろ」
一点集中でなければ大丈夫だ。俺は的の数と同じだけの火球を周囲に作成するとその全てを放った。様々な曲線を描いて空に走った火球の群れは的から逸れることなく命中すると爆散した。凄いな、百発百中じゃないか。
『この【マルチターゲット】には自動命中の機能が含まれています。半径は1km程度ですね』
おいおい、自重しろよ。インフィニティ。そう思いながらも俺はイメージしていた以上の出来栄えに満足した。