第十五話-4
服を買って自分の部屋に戻った後に考えたのはブタノ助の体内にいた時に思っていた反省点である。それは多くの敵と戦う場合の遠距離攻撃手段と広域範囲の回復手段を持っていないことである。元々、魔力は5000という異常値まで育て上げたものの近接戦闘の方が手っ取り早いと今まで魔法を開発するという事は行っていなかった。
ファンタジー世界なんだからインフィニティの力を使ってあらかじめ魔法を考え出しておけば楽に戦えるに決まっている。ゆえに俺は広域範囲の回復魔法と攻撃魔法を開発するように命じた。おおざっぱすぎる指示が悪かったのか、鑑定スキルからは案の定の反論が出た。
『広範囲の回復にせよ攻撃にせよ、範囲が大きいと敵味方関係なく対象になります。ゆえに対象のマーキングを行う方法をまずは開発した方がいいですよ』
なるほど、マーキングか。そう言われて思いついたのは前に見たロボットアニメでレーダーに映った沢山の標的に一気にマーキングしてビーム砲をぶっ放す主人公のイメージだった。
そのイメージをインフィニティに見せると彼女は何か納得したようだった。
『この魔法ならば半日もあれば開発できます』
「では頼む」
『攻撃魔法に関してですが、開発よりは既存の魔法を覚えたほうがよろしいかと思います』
「どうしてだ」
『ディーファスで長く使われた魔法は新たに作成したものよりノウハウが優れていますから』
インフィニティに言わせると長年使われたものの方が技術革新は進んでいるらしい。それは現地の魔法使いたちが実地で効率化や威力の増大を求めていったからだ。インフィニティに言わせると俺達が新たに生み出す魔法はざっくりなイメージで作り上げるために大味で改善の余地しかないらしい。
『前に水作成を使って酷い目にも遭いました。いい機会ですからディーファスの魔法について学んでみてはいかがでしょう』
インフィニティの言葉は一理ある。というわけで俺は先生に魔法を教えてもらうことにした。
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魔法を教えてもらう講師として選んだのはシェーラとクリスさんだった。元々、治癒術の心得を持っていて基礎を学んでいたシェーラと、古代の勇者として活躍したクリスさんならば色々なことを知っていると思ったからだ。
事情を聞いて納得した二人は快く協力してくれた。持つべきものは頼りになる仲間だ。
「晴彦君、魔法を覚えるにあたって得意属性が大事になってくるんだが、君は自分の得意な属性が分かるか」
「いえ、すみません。分かっていないです。シェーラは自分の属性って把握しているか」
「いえ、考えたことがなかったです」
「ふむ、今の子たちはこれを使わないのかな」
クリスさんはそう言って何やら呪文を唱え出した。詠唱が終わると地面に光り輝く魔法陣が浮かび上がった。
「これは選定の魔法陣と呼ばれている。この中で精神集中を行うと得意属性の魔力が色となって現れるんだ。僕だったら風の魔法を現す緑色になる。まずはシェーラ姫がやってみるといい」
クリスさんに促されてシェーラは魔法陣の中に入って精神集中を始めた。暫くすると彼女の身体の周囲を紅い光が覆い始めた。
「なるほど、彼女は火の魔法が得意のようだね。フェニックスに好かれるわけだ」
「色で見れるっていうのは面白いもんですね」
「属性は分かった。次は晴彦君と交代したまえ」
言われるままに俺はシェーラと交代して魔法陣の中に入った。精神集中しろとは言われたが、魔法を使う時のような形でいいのだろうか。いまいちどうやればいいか分からないままに目を瞑って俺は精神集中を始めた。暫くするとクリスさんとシェーラのざわつく声が聞こえ始めた。
「馬鹿な!こんな色の魔法使いなど見たことがない」
「これは…どういうことなんでしょう」
一体どんな色をしているというのか。気になった俺は目を開けてみて仰天した。俺の身体の周囲から七色の光が溢れ出していたからだ。一色ではないというのはどういうことなのだろう。困惑した俺はターゲット魔法の開発に忙しいインフィニティに尋ねてみた。彼女の答えは淡々としたものだった。
『七色が指し示しているのはおそらくはマスターの魔法適正が全ての属性に対応しているという事です』
「マジで!?」
『魔法の才能の欠如を克服した際に習得したのですが…どうやら表示されていなかったようですね』
恐ろしいことを淡々というものだ。ふと魔法陣の外にいる二人を見てみると青ざめた顔をしてこちらを見ていた。
「普通は三つも属性を持っていたら化け物扱いなんだが。僕がいた時代にもそんな奴は一人もいなかった」
「改めてハルが普通じゃないのが分かりました」
酷いな、人を人外みたいに言うなんて。しかし考えようによっては大きな武器になるはずだ。
選択肢の幅が広いという事になるからな。俺はどんな魔法を使おうかとワクワクしながら魔法陣から外に出た。