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第十五話-3

 次の日、俺は何故かワンコさんと共に街を歩いていた。彼女が訪問した際に例の痩せた姿を見せたところ、痩せた姿用のファッションをいくつか準備した方がいいアドバイスを受けたからだ。基本的に引きこもりになってから服装というものに無頓着になっていたが、確かに今の体型ならば様々なファッションを楽しめるに違いない。とはいっても自分で選ぶのは億劫だったので彼女に見立ててもらうことにしたわけだ。


「スーツを何着か購入した方がいいよ。後は私服か。うーん、ラフな格好の方がいいかな。ハル君は欲しい服とかあるかな」

「そういうのよく分からないんですよ。動きすい服装ならジャージが一番いいんですが」

「駄目だよ、そういうのは良くない。もっと身だしなみには気を使わないと女の子に嫌われるよ」

「あはは、俺なんて好かれるとは思えないんですが」


 実際、今着ているこの服もサイズがぶかぶかのジャージだからな。そんな会話をしながらも行き交う人の目線がなんだか気になった。何だか色んな人に見られている気がする。主に若い女性だな。ひょっとして変な格好をしているように見えるだろうか。気になった俺はインフィニティに命じて俺の方を見ながら通り過ぎていった女の子二人が何を話しているか鑑定してもらった。


『ねえ、今の二人、お似合いだったよね』

『うん、彼氏の方はジャージ姿だったけど美男美女のカップルだったよね』


 思わず自分の耳を疑った。美男美女ってどういうことだ。阿保面をしながらワンコさんに尋ねてみると、彼女は溜息をついた。


「当然だが君と私の事だろう。痩せた姿のハル君はひいき目抜きでカッコいいんだ。だからもう少し身なりには気をつけた方がいい」

「そういうもんですかね…へっくしょん!」


 瞬間、ボワンという音と白い煙が上がったかと思うと俺は元のデブ体型に戻っていた。自分でもしまったと思ったが、もう遅い。ワンコさんがぎょっとなった顔をしていた。くしゃみくらいで擬態が解除されるとは思っていなかったようだ。


「くしゃみをしただけで変身が解除されるのか」

「あはは、見ての通りです」

「不便を通り越しているな」


 こうなると最早笑うしかない。唯一の救いは服が破れなかったことだけだ。お腹の紐だけは食い込んでいて痛いので慌てて緩めてやる。一部始終を見ていた人もいたようで辺りがざわついていた。人目が気になったので慌てて俺たちはその場を去った。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇        





 裏通りで擬態を使って痩せた姿に戻った後、俺はワンコさんについていく形で裏通りに入った。こんな所に店屋などあったかな。首を傾げながらもついていくと路地を抜けたところに小さな店が建っていた。ショーウインドウに紳士用のスーツが飾られているところを見るとスーツ屋だろうか。


「ここはね、WMDに支給される特別製のスーツを仕立ててくれる店なんだ。私が普段着ているのもここのスーツだよ。簡単な銃弾くらいなら難なくはじき返すから。ここでサイズに合ったスーツを仕立ててもらうといい」

「いいんですか、俺はWMDに所属していないんですが」

「大丈夫、司馬さん経由で上司の許可ももらっているから。これまでの貢献を考えた報酬としてWMDの予算で購入していいんだって」


 ワンコさんはそう言ってニッコリ笑うと俺を誘って中に入っていった。店の中はウッドベースの洗練された空間となっていた。仕立て屋らしき老人がちらりとこちらを見た後に奥へと行くように促した。すでにワンコさんと話がついているのか、彼女は老人に会釈をした後に俺を奥の試着室へと誘った。


「カーテンを閉めたらジャージを脱いで。後は試着室がやってくれるから」


 試着室がやってくれるとはどういう意味だ。俺は首を傾げながらも言われるままにジャージを脱いで下着姿になった。

 瞬間、どこから出てきたのか沢山の布地が俺の身体に巻き付いていった。あまりのことにぎょっとなった。シュルシュルと巻き付いた布地は俺の体をぴったりと覆うとそのままスーツの形となって形成された。あっという間に俺は紺色の紳士用のスーツを身につけていた。この間、十秒もかかっていない。何が起きたのか混乱しているとインフィニティが説明してくれた。


『どうやら特殊な魔法のかかったスーツのようです。防弾機能だけではなく、魔法もある程度弾く仕様のようですね。体温調節機能もあるようです。見た目はスーツの形をしていますが、ミスリル鋼程の硬度を所持していると推測されます』

「へえ、凄いんだな…へ、へっくしょん!」


 しまった、思わずくしゃみが出てしまった。だが、このスーツは優秀だった。俺の体型が変わるのに合わせてそのサイズを変えたのだ。太った体型も苦にならない魔法のスーツ。それを知った瞬間、俺はこのスーツが一発で気に入った。興奮したまま、俺はカーテンを開け放った。


「ワンコさん、このスーツ凄いね!」

「ああ、よかったね、ハル君。でもどうして太ってるんだ」

「あ、いや、またくしゃみが出てしまいまして」

「難儀な体質だね。花粉症とか風邪になったら辛そうだ」


 全くおっしゃるとおりである。風邪になった時は擬態をやめた方がいいな、俺はそう思った。





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