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第十五話-2

 頬に鮮やかな手形をつけながら俺は鑑定スキルさんと反省会を行った。何が悪かったかは明白なのだが、どうすれば何もつけない設定から変更できるか調整を行う必要がある。色々と確認して分かったのは【ブラックウインドウ】に詳しい設定を行えば先ほどのような不具合は起こらないということだった。

要は没収するものを武器なら『武器』、防具なら『防具』とあらかじめ設定しておけばいいのだ。それを怠ると先ほどのような大惨事になってしまうことになる。くれぐれも気をつけておかないとな。まだ叩かれた頬が痛むのに苦笑いしながら俺はそう反省した後に次の対策を考えることにした。

 次の対策というのはあの魔剣士との戦いの時に使った力、いわゆる魂そのものをエネルギー体に変換して戦闘に参加させる力をもっと使いやすくできないかと考えたことだった。

ブタノ助を助けようとしたからとはいえ、あの時の力は凄まじかった。代償として消滅しかけたという弱点こそあるため、それをどうにかしない限り戦闘では使えないが、使い方次第では切り札にすることもできるだろう。その話をするとインフィニティは難色を示した。


『魂そのものを武器にするのはリスクが高すぎます。あのフォームで戦うのは正気の沙汰ではありませんよ』

「あの姿そのものではなくていいんだ。何とかあの力を使いこなす方法はないものかな」

『…魂に似せた器の姿を作ればあるいは可能かと思われます』

「それって痩せた姿になれればいいということか」

『…そうですね』


 何という事だろう。ここでも肥満体の身体が邪魔をするのか。溜息をついたものの諦められなかった俺は姿を変える方法はないか考えてみた。【鬼神化】で筋肉質の体を変えることができるなら細マッチョの身体にすることもできるのではないか。


『理論上は可能ですが、質量が変わらないため、体重そのものは変わりませんよ』

「いや、戦うためなんだから、それで構わない。やってくれないか」

『分かりました。慣れないうちは少々痛みが伴いますがよろしいですね』

「大丈夫だ!」


 俺がそう宣言した瞬間、インフィニティは俺の身体の改造を行い始めた。やり出してびっくりした。全身がねじ切れるように痛い。筋肉だけでなく、骨や皮が無理やりに移動させられているような感覚がしている。


 待って待って待って、こんなに痛いなんて聞いていないよ!


 骨がベキベキいっているのが分かる。その上、脂肪を移動させるためなのか振動まで起こっているのだから堪らない。傍から見たらデブが冷や汗を流しながら小刻みに震えているようにしか見えないだろう。余りの激痛に耐え切れなくなり、俺はいつしか意識を失っていた。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇       





 意識を取り戻した後、俺はゆっくりと起き上がった。不思議な感覚だった。いつもなら起き上がる時につっかえるお腹の脂肪がない。それだけではない。自分の手足を見て驚いた。誰の手足だ、これは。あまりに細すぎるだろう。

 体がふらつくのを何とかバランスを取りながら俺は立ち上がった。その瞬間、ぶかぶかになっていたズボンがすとんと床に落ちてしまった。慌てて履き直したものの、まるでウエストのサイズが合っていない。

 恐る恐る鏡を見てみると見覚えのないスマートな青年がそこにいた。要所要所は見慣れたパーツで構成されているが、別人にしか思えない。脂肪がないせいか顎先がシャープになっているし、目鼻立ちもすっきりしている。頬を触りながら思わず鏡に見とれてしまった。

 俺、こんな顔をしていたんだ。


『お気に召したようでなによりです』

「今回ばかりはお前が凄い奴だって再認識したよ」

『私も驚きました。痩せた時のマスターがここまで精悍な顔つきになるとは』


 テンションが上がった俺は鏡の前でいくつかのポーズを取った。その瞬間、ズボンが再びストンと落ちた。クソ、ウエストが細すぎるせいだ。

 俺はクローゼットを開けて着れそうな服がないか確認した。駄目だ、どれも太っている時の体型に合わせたものでしかないからサイズが合っていない。そもそも、体型に合う服がなかなかないからファッションなんて気にしてもいなかったよ、ちきしょう。

 なんとか紐でウエストを縛れるジャージのズボンに着替えた後に部屋から出た。

 リビングでシェーラにぎょっとした顔をされた。何故そんな顔をしているのだろう。


「あの、どなたですか」

「何言ってるの、シェーラ、俺だよ、俺」

「その声、まさかハルなんですか」


 シェーラは信じられないといった表情をした後に両手で口を抑えた。物凄くびっくりしている様子だが、それは俺も同じことだ。齢32歳にして自分の痩せた姿がこんな風だとは思いもしなかった。シェーラは顔を赤らめたまま、俺の方を見つめていた。どうしたというのだろうか。


「どうかしたのか、シェーラ」

「いえ、ごめんなさい、つい見とれてしまって」


 おいおい、これはフラグが立ってしまったか。まあ、これは本当に痩せた姿ではなく、偽りの姿だから若干気が引けるが、痩せた時には脈ありと考えた方がいいのだろうか。

改めて痩せるべきだと決意した。そんな矢先、なんだかとてもくしゃみがしたくなった。


「へっくしょん!」


 瞬間、ボワンと全身から煙が噴き出して俺は元の肥満体型に戻っていた。締め上げたウエストが腹の肉に食い込んで痛い。シェーラが先ほど以上にショックを隠し切れない表情をしたまま、こちらを見ている。何だろう、この残念なものを見るような視線は。それ以上見ないでほしい、視線がとても痛いから。


『言い忘れましたが、擬態をしている時は何かの弾みで元の姿に戻ることがあります。ですので今のようなくしゃみなどは要注意です』


 そういうことは早く言えよ。そう思いながら俺は慌ててジャージの紐を緩め直した。腹がつっかえて中々紐までたどり着けなかった。



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