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14-12(P163)





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇          





 一方、その頃の地球では霊体が抜けた晴彦を仲間たちが心配そうに眺めていた。

囚われのシュタリオン国王の娘であるシェーラが心配そうに実体化したインフィニティに尋ねる。


「インフィニティ、伝言はうまくハルに伝わったでしょうか」

「大丈夫だと思います、向こうの世界との通信が途絶えがちのためになかなか情報を送れないのが難点ですが先ほどのシェーラ姫からの伝言は伝わったと思われます」

「よかった、あの洞窟は本当に危険と言われていますから伝わってよかったです」


 シェーラがインフィニティに伝えようとした伝言、それはシュタリオン近郊の洞窟は城の地下に繫がる抜け道だが、危険だから絶対に行ってはいけないというものだった。元々はあくまで王族専用の脱出用のものだったが、何年か前の地震によって古代の魔導士の作り出した危険なダンジョンの横穴と繋がってしまった。異変に気付いた冒険者ギルドがダンジョンへ冒険者を送り出したが、多くの冒険者は帰らぬ人となったという。

 命からがら戻ってきたシーフの話ではダンジョンの中には生き物の首を刈る紅い魔獣が大繁殖しているらしい。報告と犠牲者の数から王国と冒険者ギルドはダンジョンの危険度をSと認定。何も知らない冒険者が決して中に入らないように洞窟の入り口に警告文を刻み込んだのだ。

国王が囚われている以上、冒険者ギルドも正常に機能していない恐れがある。何も知らない晴彦達が間違って洞窟に入ることがなければいいのだが。





                ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇           





 この洞窟は何なんだ。危険すぎるにも程があるだろう。真っ赤な首狩り兎から逃げるために階段を昇った俺たちは出口を求めて彷徨った。昇った階層も時折聞こえてくるぴょこん、ぴょこんという独特の効果音が聞こえてきた時は肝が冷える思いだったが、何とか遭遇せずにやり過ごすことができた。階段を昇った後に通路を歩いていくと壁に横穴が開いていた。恐る恐る中を覗くと入ってきた時と同様の天然の岩肌の洞窟だった。

 ようやく助かった。横穴を潜った後に仲間モンスター達を見てみるとこの短期間で随分とやつれた気がする。みんなして生きて帰れた喜びを感じていた。


「神様、もう帰りましょう」


 心が折れかかっているな、ブタノ助。しかし答えはNOだ。元々の目的をまだ果たしてすらいない。シュタリオン王国の国王様を助けるまでは退くことはできないのだ。俺がそう命じるとブタノ助は引きつった笑いを浮かべた。俺が言い出したら聞かない人間だという事はすでに理解しているようだ。あんな化け物兎はもう出てこないから大丈夫だと言い聞かせて先に進むことにした。

 ごつごつとした岩肌の洞窟は足元が湿っており、水場が近いのではないかと思われた。耳を澄ませてみると微かな水の音がする。地下の水脈が近いのかもしれない。丘の方から見たシュタリオン王国は四方を水堀に囲まれていたから城に近づいてきているのではないだろうか。そんなことを思いながら歩いていくと整備された水路と石畳の通路が見えてきた。

 通路自体は行き止まりとなっているため、水路を潜っていけば先に進めるのではないかと思われる。これから先に進むぞというところでひと悶着が起こった。紅カブトとゴブえもんが水の中に入るのを嫌がったのである。鮭とか捕まえるんだから熊は水が平気だろうと言い聞かせようとしたのだが、二匹共に水には嫌な思い出があるらしくテコでも動かない様子だった。仕方なく俺はブタノ助と二人で水の流れに逆らうようにして水路の中に入っていった。首まで浸かるかどうかくらいの深さだったが、ブタノ助は器用に泳いでいく。

 泳ぎが得意なのだなと尋ねるとブタノ助は数少ない特技ですと笑って答えてくれた。





                 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇        





 水路を暫く進むと水路沿いの通路の側面に鉄格子がはめられた牢がいくつかあるフロアーに出てきた。そのまま岸に上がろうかとしたが、ふいに何者かの気配を感じて制止した。見ると見張りと思われる二人の兵士が雑談している様子だった。気づかれる恐れがあるな。


「…神様、襲撃をかけますか」


 ブタノ助が小声で尋ねてくるが、大きな騒ぎになってしまうと後々が面倒だ。俺は千手観音の応用の要領でブタノ助の手を伸縮させて兵士たちの足を掴んだ。出来るかどうか心配だったが、うまくいくものだ。足を掴まれて慌てる彼らを水の中に引きずり込んだ。暫くは暴れたが、そのうちに静かになった。おそらくは気絶したのだろう。

 静かになった彼らを水の中から出した後に身ぐるみを剥いで手近な牢獄に閉じ込めたのだが、その段階になってはじめてブタノ助が酷く動揺しているのが分かった。



「神様、それがしの腕が‼腕があああ!!」


 まあ、自分の腕がにょろにょろ伸びたのだから仕方がないだろう。これだから慣れていない素人は困る。そこまではおかしなことはしていないはずなんだが。そう思った瞬間にハッと我に帰った。こんな思考になるなんて俺もインフィニティに毒されている。

ブタノ助を驚かさないためにも少しは配慮して冷静にスキルを使用する必要がある。難しいものだな。ひょっとしてインフィニティもそういうことを考えていたのだろうか。そんなことを考えながら俺はブタノ助と城内に入り込んだ。




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