表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/296

14-11(P162)

 転移した先は石の中でした。

 緊急事態だったので慌てて【鬼神化】を使用させて壁を突き破った。

恐るべし、ゴブえもん。無意識の事とはいえ殺意が強すぎる。最初の宝箱で初見殺しのトラップが組まれているとは恐ろしい洞窟だ。

 ブタノ助は勿論の事、紅カブトもゴブえもんもガクガク震えていた。それはそうだろう。鬼神化がなければ死んでいたのだからな。俺はブタノ助に命じてゴブえもんに注意を促した。ブタノ助が迂闊に宝箱を開けないように注意するとゴブえもんは神妙そうな顔で頷いた。頷いたのはいいが、どこまで理解しているか怪しいものだ。そんなことを思いながら俺はダンジョン内部の様子を観察した。先ほどの岩肌の洞窟から石畳の通路に変わっている。随分と温度が下がっているように感じられた。通路自体は3メートル四方の大きさだ。通路自体に明かりの魔法がかかっているのか、たいまつなしでも歩けるようになっていた。

 警戒しながら歩いていくと三叉路の所で何者かの気配を感じた。壁伝いに様子を見ると見るからに凶暴そうな人型モンスターの集団がこちらに向かって歩いてきていた。同じような角が生えているからゴブえもんの進化形だろうか。ゴブえもんと違う点は筋骨隆々で狡猾そうな印象の顔をしている点である。黒目がなくて白目しかないように見えるのはゴブえもんと同じようだ。

 皆が赤い帽子を被っている特徴から俺は奴らをレッドキャップと名付けた。奴との距離は10メートルほどなのでこのまま歩いてくれば接敵する。幸いなことにまだ気づかれてはいないようだ。俺はブタノ助に命じていつでも応戦できるように戦闘準備を行った。

 そんな矢先に不可思議な音がレッドキャップのいる反対側の通路から聞こえ始めてきた。モンスターのいるダンジョンには不似合いなピョンピョンというコミカルな音だ。例えるならばアニメのマスコットが歩くときのような音である。何だろうと見てみると身の丈20cmにも満たない小さな兎らしき生物が近づいて来ていた。何故か毛の色が白ではなく真っ赤だった。どこから迷い込んだのだろう。子兎は俺達には目も暮れずにピョンピョンとレッドキャップ達の方に近づいていった。

 どうやらレッドキャップ達も兎の存在に気づいたようだった。馬鹿にしたかのように兎に向かってしゃがみ込んで何事かを話している。夕飯にでもしようかとでも話しているに違いない。首を傾げながら眺めている様子だった。

 突然に「シャキーン!」という刀を抜いた時のような音が響き渡った。音と共に繰り広げられている光景に目を疑った。しゃがみこんでいたレッドキャップの首が突然に胴体から切り離されて宙を舞ったのだ。何が起こったのか一瞬分からなかった。その凶行を行ったのが赤い兎だと分かったのは次の犠牲者が出てからだった。

草か何かを刈り取るように悪夢のウサギは首刈りを続けていく。

次々と舞っていく仲間の首にレッドキャップ達は恐慌状態となった。ドン引きなのは当事者である奴らだけではない。第三者である俺達もパニックになっていた。青ざめながら惨劇を眺めているとふいに肩を乱暴に叩かれた。何事かと背後を見るとゴブえもんが震えながら兎がやってきた通路の方を指さした。

 指し示した先の光景を見て俺は言葉を失った。そこには夥しい数の兎がピョンピョン跳ねながらこちらに向かって進んできていたからだ。その全てがあの兎だと理解した時、俺たちは悲鳴をあげながら我先に逃げ出した。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇            





 手近な部屋の中に逃げ込み、扉を閉めた後に兎が去っていくのを待った。扉の向こうからピョンピョンというコミカルな音が聞こえて、それが遠ざかっていくまで生きた心地がしなかった。初見殺しにも程がある。レッドキャップ達がやられるのを見ていなかったら俺達も同じ運命を辿っていたに違いない。肝が冷える思いをしながら俺たちは部屋を出た。勿論警戒は怠らない。レッドキャップ達がいた地点を見に行くときれいさっぱり何も無くなっていた。血の一滴も残っていない。青ざめながらブタノ助が尋ねてきた。


「神様、先ほどの小鬼たちはどこに…」

『考えたくはないが、兎たちのご飯になったんじゃないかな』


 俺がそう言うとブタノ助は絶句した。場を重い沈黙が包み込む。かろうじて装備品だけが残っている点からレッドキャップは兎たちの食料になったとしか考えられない。兎たちの赤い色は襲った獲物の返り血ということなのだろう。全く笑えない冗談だ。

 次はわが身なのかな、そう考えたら身震いがした。一刻も早くこの悪夢の洞窟から出ないといけない。俺の焦りがブタノ助にも伝わったらしい。彼は仲間たちに一刻も早く出口へ向かうように告げると歩き始めた。

 暫く道なりに歩いていくと上に昇るための階段が見えてきた。ホッとした俺たちの後ろからコミカルな音が響いてくる。ぴょん、ぴょん、ぴょん。暗がりに光る鬼灯のような瞳をした赤い悪魔の群れを見た瞬間、俺たちは半狂乱になりながら階段に向かって走り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ