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次に映し出されているのは豪奢なテーブルや様々な書物棚の置かれた部屋だった。シェーラが言うにはこの国の大臣の執務室のようであった。そこには先ほどの少女シェーラと見知らぬちょび髭の太った男が座っていた。そして机の上には先ほどのチェーンの壊れたペンダントが置かれていた。それを見た現代のシェーラが教えてくれる。
『あれは大臣のフッテントルクです』
『見るからに怪しい顔をしてるよなあ』
『そんな、彼はとてもいい人ですよ。この時も私の壊れたペンダントを直してあげるから暫く預かって修理してくれたんです』
『シェーラには悪いんだけどさ、普通に怪しいわ、あいつ』
俺はげんなりしながら奴を見た。まだ幼さを残す幼シェーラを見る奴の視線は配下が支配階級を見る視線というよりはロリコンが獲物を見る粘着質なものにしか感じられなかったからだ。なぜそのようなこと思ったのかといえば理由があった。
あまり大きな声では言いたくないが、俺も奴と同様で幼い女の子が可愛いと思う感性を持っているからである。というよりは同年代の女子が怖いから近寄りたくない気持ちが自然と幼女の方に行ってしまっただけなのだが、それが普通でないことは自分なりにちゃんと自覚している。だから犯罪に走らないようにこれまで自制をした安全かつ健全な自宅警備員でいることができたのだ。そんな俺の独特の嗅覚ははっきりと奴が危険であることを訴えかけていた。
幼シェーラが礼を言って部屋を出ると予想通りに奴はとんでもない行動を取り出した。シェーラのしていた首飾りに愛おしそうに頬ずりしだしたのである。もうその時点で俺はドン引きである。傍らで見ていたシェーラの方を見ると気の毒なくらい茫然とした表情をしていた。それはそうだろう。信頼して預けた首飾りにまさかこんな真似をしていたとは思っていなかったに違いない。
だが、奴の変態的な行動はそれだけでは収まらなかった。しばし頬ずりしてその後に臭いをクンクン嗅いだ後にあろうことか奴は首飾りをベロベロと舐め始めたのである。まるで犬のようだった。もうはっきり言ってドン引きのレベルを超えている。幾ら俺にもロリコンの毛があるとはいえ、人さまから預かった装飾品を舐めまわすような高尚な趣味は持っていない。シュタリオン大臣フッテントルク。あまりに奴のレベルはぶっ飛びすぎていた。
その時点で俺はもう俺はシェーラの方が気の毒で見れなくなった。考えたくないのだが、現在シェーラがしている首飾りも奴が楽しみ切った末に戻したものである可能性が大である。
視線を合わせないのだが、耳をすませてシェーラの呟きを聞いてみると、『…そんな、どうして…』から始まった呟きは次第に小さくなり、最後には消え入るような声で『…もういやぁ…やめてください。』と涙声になっていた。
だが、見られていることなど露にも思わないフッテントルクはエスカレートして興奮冷めやらぬ様子でズボンのチャックに手をかけた。いかん。流石にこの後の光景はアウトだわ。慌てて俺はインフィニティにこのシーンを省くように伝えた。俺の焦りが伝わったのか、周囲の景色は一瞬にしてホワイトアウトしていく。
次に映し出されるのはフッテントルクが薄暗い部屋で何やら細工をしている光景だった。彼の前には頭をすっぽりと覆う黒い外套に身を包んだ人間達がひたすら魔法陣に向かって詠唱を行っていた。魔法陣の中央にはシェーラから預かったあの首飾りが置かれていた。その魔法陣を見た瞬間になぜか嫌な予感がした俺はインフィニティにあれが何の魔法陣なのかを聞いてみた。するとインフィニティはとんでもないことを言い出した。
『あれは魔術をかけられた装飾品の付加魔法を上書きする一種の呪いです。詠唱の内容から察するにあの守護の首飾りの付与魔法効果を打ち消して【肥満の呪い】を込めているようですね』
『ひでえことしやがる』
自らの仕えるべき主である幼い少女から受け取った首飾りを呪いのアイテムに変貌させるフッテントルクに対して俺は激しい怒りを感じた。そんな俺の怒りに反応するかのように周囲の景色は元の世界のものに切り替わっていった。




