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14-1(P152)

 魂喰らいとの激闘から数日が過ぎたある日のことだった。珍しく神妙な顔をしてインフィニティは重要な話があるといってきた。こいつがこういう顔をするときはロクなことがない。若干の嫌な予感がしながらも俺は何事かと尋ねた。すると奴はとんでもないことを言い始めた。


「マスタ―、非常に申し上げにくいのですが。シュミュレーションの結果、現在の体型ではこれ以上のダイエットでの目標体重への到達は不可能ということが分かりました」

「な、何を言ってるのかよく分からないんだけど」

「ご自分の筋肉に手を当ててよく考えてください」


 そう言われて俺は自分の胸に手を当てた。鍛え抜かれた筋肉は分厚い鉄板のように強固であり、これ自体が敵の攻撃から身を守る鎧の役割を果たしている。筋肉とは力だ。力とは筋肉だ。鍛えれば鍛えるほど『POWER』は俺に力を与えてくれる。俺はインフィニティの話を聞きながらも日課になったプロテインジュースをごくごく飲みながらプロテインバーを貪り食った。うむ。プロテインの味に俺の筋肉が喜んでいる。もっと育てよ、筋肉ども。

インフィニティは俺の様子に頭痛がしたのか、両目の間を指で押さえながら溜息をついた。


「マスタ―、今のご自分の姿を鏡で見たことがありますか」

「ん?大胸筋と三角筋、上腕二頭筋ならば毎日確認しているぞ。なんならお前も見てみるか」


 俺はTシャツを脱いで上半身裸になると筋肉を見せつけるポーズを取った。筋肉がはち切れんばかりに膨張する。インフィニティは若干引きつった表情をした後に俺に尋ねてきた。


「あの、マスター、現在のご自分の体重はご存知ですか」

「いや、確認してないが。これだけ鍛えてるんだ。もう70kgくらいになっているんじゃないのか、あっはっはっは!!」


 インフィニティは静かにステータスオープンと口ずさむと俺のステータスを表示した。



藤堂晴彦

肥満体質【90/58】➡【390/58】

年齢:32

Lv.43

種族:筋肉お化け

職業:筋肉お化け


体力: 341/341➡841/841

魔力:5003/5003➡5037/5037

筋力: 272➡804

耐久: 246➡778

器用: 217➡250

敏捷: 273➡805

智慧: 118➡131

精神: 258➡790

魔法耐性: 258➡778


【スキル表記は一時省略】



 肥満体質【390/58】という表示を目の当たりにして冷水を被せられたようなショックを受けた。どう考えてもおかしい。何故これほどまでに体重が激増しているのだ。これではダイエットどころではない。冷や汗がとめどなく流れる様子の俺にインフィニティは気の毒そうな表情をした。


「インフィニティさん」

「なんでしょう」

「誤表示だよね」

「現実です」

「いやいや、まさか」

「しっかりと現実を直視してください。間違いなくこれが現在のマスターの姿なんです」


 冗談ではない。確かに最近廊下を歩くときにギシギシときしむ気はしたが、ここまで酷いことになっているとは想定外すぎるぞ。


「脂肪体質を鍛えたことで筋肉に変わりました。しかし雛木アリスを救うことために限度を超えたトレーニングを行った結果、マスターの筋肉密度は常人とは比べものにならないものとなってしまったのです」

「ど、どうにかならないか」

「本当はオススメしないのですが、事態が事態です。現在の筋肉体質を一種の変身スキルに変えることを提案します」

「そんなことができるのか」

「理論上は可能です。戦闘スキル:∞が使用した【闘神化】と同じような要領です。【鬼神化】とでも名付けましょうか。明らかに今のマスターの姿は本来の姿からは逸脱したイレギュラーな状態ですから。現在の姿を一種の変身と捉えることによってスキル発動までは筋肉が縮小して元の形になる形になることができます」

「イ、インフィニティ様、よろしくお願いします」

「今回だけですよ。本来は肉体のバランスが崩れるので多用してはいけないものなんですから」


 インフィニティはそう言って俺の体内に入り込むと俺の筋肉をスキルに変換していく作業に移り始めた。作業が始まった瞬間に凄まじい眠気が襲って俺はその場に倒れこんだ。


藤堂晴彦

肥満体質【90/58】

年齢:32

Lv.43

種族:筋肉お化け

職業:筋肉お化け


体力: 341/341

魔力: 5037/5037

筋力: 272➡304

耐久: 246➡278

器用: 217➡250

敏捷: 273➡305

智慧: 118➡131

精神: 258➡290

魔法耐性: 258➡278


NEW!!【鬼神化】

秘められた筋肉を解放する。体力、筋力、耐久、敏捷、精神、魔法耐性が500増加する代わりに体重も激増する。




              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




 意識を取り戻した俺は自分の姿を確認した。先ほどの筋肉ダルマではない小太りの男に戻っていたことにホッとした。冷静になって考えてみると筋肉に魅入られていたような気がする。アリスを助けるためとはいえ、ダイエットからほど遠い真似をしていたものだ。考えてみたらゾッとする。わざわざ手間のかかることをしてくれたインフィニティに礼を言わないとな。


「ありがとな、インフィニティ。今回は本当に助かったよ」

『いえ、お気になさらず。これで私も鬼神化が使えますから』


 何かとんでもないことを口走った気がするが、とにかく感謝しよう。そんなことを考えながらも俺は再び初心に帰ってダイエットを行うことにした。




                 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              




次の日、アパートに訪問してきたアリスとマサトシに仰天された。それはそうだろう。いきなり体格が変わっているのだ。特にマサトシのショック具合は半端なかった。


「なんでいきなり太ってるんですか、藤堂のアニキ!あのカッコいい筋肉はどこにいったんですか」

「誤解するな、スキルで引っ込めているだけだから。ちゃんと元の体格に戻れるぞ。ほら、【鬼神化】!!」


いきなりムキムキの状態になったためにシャツが破けて上半身が裸になったのはご愛敬だ。


「すげえ!流石は兄貴だ!」

「兄貴呼ばわりはそろそろやめてくれないか、マサトシ」

「いいえ、誰がなんと言おうと兄貴は兄貴です」

「アリスからも何とか言ってくれ」

「藤堂さんが困っているのを見るのも珍しいからこのまま見てたいです」

「お、お前、前より性格悪くなってないか」


俺の反論にアリスは微笑むばかりである。牧瀬リノの敵を討つことができてから思いつめた執念のようなものが抜け落ちたようによく笑うようになったと思う。元々が整った顔をしているから嗤えば可愛い顔しているもんだな。

何度言ってもマサトシは兄貴呼ばわりをやめなかったので若干は腹が立った俺は筋肉トレーニングと称してマサトシに腕立て伏せをやらせ始めた。ただやるのでは意味がないので鬼神化の状態で上に乗っかってやった。400㎏近い体重の巨漢に乗っかられて全く身動きが取れなくなったマサトシが音をあげたのはそれからすぐのことであった。



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