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13-16(P150)




                ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇        




 魂喰らいが再生しないことを確認した俺は抱きかかえていたアリスをいったん床に横たわらせた。酷い怪我だ。四肢の骨を砕かれている。かろうじて生きているのがやっとの状態ではないか。スキルが使用できない以上、ここでは応急処置しかできないだろう。

 結界が解けたことで司馬さんと宗谷捜査官が駆け寄ってきた。


「大丈夫か、晴彦」

「俺は何とか。それよりアリスはすぐに治療した方がいいです」

「そうだな、頼めるか」


 司馬さんの言葉に俺が無言で頷いていると宗谷捜査官は困惑した様子で話しかけてきた。


「何を言ってるんだ、どう見ても再起不能だろう」

「…あんた、何を言ってるんですか」

「スキルも根こそぎ奪い取られている。そいつはもう使い物にならない。治療自体が無意味だと言ってるんだ」


 軽はずみな発言に俺はぶち切れそうになった。仮にも自分の部下だろう。再起不能だからどうした。治療自体を行う意味がないとでもいうのか。だいたいあんたがアリスのメンタルケアを怠らなければこんな事態にはならなかったんだぞ。宗谷捜査官の発言にキレかけて立ち上がった俺を制したのは司馬さんだった。

 今回ばかりは司馬さんがいくら制しても無理だ。先ほどの戦闘で感情が高ぶっているせいもなく抑えが効きそうにない。

 だが、次に起こした司馬さんの行動に俺は言葉を失った。何と司馬さんは宗谷捜査官の頬を渾身の力で殴り飛ばしていたのだ。殴られた宗谷捜査官は派手に床に転んだ。そのまま起き上がらない様子から完全に気絶していることが伺えた。


「いい加減にしろよ。自分の間違った采配のせいで部下をこんな目に遭わせておいて治療の意味がないだと。てめえ、今日という今日は完全にブチ切れたぞ」


 司馬さんが代わりに怒ってくれたことで俺は完全に毒気を抜かれてしまった。恐らくは芝さんもこの捜査官には積み重なる怒りを感じていたのだろう。だけど同じ組織の人間を殴ってしまって大丈夫なのだろうか。

 宗谷捜査官が気絶したことで彼から興味を失った司馬さんは俺の視線に気づいて苦笑いした。


「ついカッとなっちまった。今日ばかりはお前のことを言えないな」

「いえ、見事なパンチでした」

「褒めるんじゃねえよ、バカ」


 そう言いながらも司馬さんはすっきりした表情をしていた。

 ふとアリスの方に視線をやると彼女の仲間であろう少年が彼女に駆け寄っていた。呼びかけても返事がないのを死んだとでも勘違いしたのか目に涙を浮かべている。


「どうしよう、雛木、俺を庇ったせいで…」

「大丈夫だよ、心配いらない。アリスは助かるよ」


 俺は少年の肩に手を添えて安心するように言った。不安そうな表情を見せた少年についてくるように言った後にアリスを抱きかかえた俺はその場から立ち去ることにした。




             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




 アリスが目覚めた時、そこは病院のベッドだった。自分がいるのが見慣れない部屋であることに困惑した彼女は周囲を見渡した。ベッドの傍らのパイプ椅子に座りながら眠っているのは彼女の同僚のマサトシだった。いったい自分はどうなったのか。確か魂喰らいとの戦いで再起不能レベルの負傷をしたはずだ。なのに怪我が奇麗に治っている。

 自分の手足に傷一つないことに驚いた彼女は困惑した。その物音に気付いたマサトシが目を覚ます。


「…雛木。良かった、目を覚ましたのか」

「マサトシ君、私、いったいどうして」

「藤堂さんだよ、あの人がお前のことを助けてくれたんだ」

「藤堂さんが…」


 うっすらと思い出した。薄れゆく意識の中で傷ついた自分を救いに来てくれた藤堂晴彦の勇姿を。あの人が魂喰らいを倒したということなのだろう。


「…あの人がリノちゃんの敵を取ってくれたんだね」

「ああ、そうだ。あの人がリノの敵を取ってくれたんだ」


 死んでしまった仲間の事を想い、自然と二人とも口数も少なくなった。晴彦のおかげとはいえ仇を取ることができたことのだ。


 敵は取ったよ、リノちゃん、ゆっくりと眠ってね。


 亡くなった友人の事を思い出しながらアリスは涙を流した。流れ出した涙は嗚咽となって止めどなく彼女の頬を流れ続けた。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇          





 こうして魂喰らいによる連続殺人事件は幕を閉じた。総勢21名の能力者を殺した異常者である魂喰らいはイレギュラーな存在『藤堂晴彦』によって打ち滅ぼされた。

 事件を担当していた宗谷捜査官は貴重な貴重な勇者候補達を喪失しかけた責任を取らされて地方へと転属となった。残された勇者候補は■■市にそのまま残る形になり、その指導はベテランである司馬捜査官が引き継ぐ形となった。

 なお、魂喰らいの残骸の解剖分析を行ったところ、興味深いデータが入手されている。魂喰らいのスキルを奪う能力は先天的なものではなく、後天的なもの。つまりは何者かに与えられた能力であることが分かったのだ。

 魂喰らいに能力を与えた何者かは現在も潜伏している可能性が高いと思われる。




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




教育担当捜査官が宗谷から司馬になったことは勇者候補生にとって幸いであったと言えた。なぜならば効率と個人のスキルを重視する宗谷と違って司馬は人間性やチームワークを重要視するからだ。

宗谷の元で学んでいる間、他者は追い落とすものと教わっていたマサトシにとって司馬の考えは生易しいものに感じられた。同じ課で話をした時もそんな生易しいことで何ができるものかと侮っていたくらいである。だが、藤堂晴彦の強さを目の当たりにして、彼が司馬の教えを受けていたことを知ってからはその考え方を完全に改めた。

晴彦はスキルのハンデを鍛え上げた能力によって補うという凄まじい力技を見せつけた。晴彦の強さを見てからは同僚である雛木アリスのスキルに嫉妬していた自分が人間として小さいと反省させられた。

マサトシにとって晴彦は目指すべき存在になったのだ。そしてそれは雛木アリスも同様だった。

こうして藤堂晴彦宅に二人の姿が頻繁に目撃されるようになったのだった。




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






魂喰らいを倒してから我が家に新たに訪問者が増えた。雛木アリスとその仲間である柊マサトシの二人である。アリスはともかくマサトシの奴に懐かれたのは意外だった。なんでも俺のスキルに頼らない戦闘スタイルに憧れを持ったらしく、事あるごとにトレーニングのやり方などを聞いてくるようになったのだ。俺としては後輩ができて嬉しい反面、奴が俺の事を兄貴呼ばわりすることに照れくささを覚える今日この頃である。

ただ、残念なこともある。魂喰らいに奪われたスキルを戻すことができなかったことだ。そのことを聞いてみるとマサトシはあっけらかんと笑った。


「別にいいっすよ。スキルがなくなったって兄貴のように強くなれれば問題ないんですから」

「そうです。藤堂さんに鍛えてもらえば大丈夫です」


二人してそんなことを言われると鍛えないわけにはいかないではないか。そんなわけで俺は二人を弟子のようにかわいがるようになったのである。               






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