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2-9(P15)

 話し終わってからシェーラは首飾りを俺に渡そうとした。その真意を測りかねて俺が戸惑っていると彼女は淡く微笑んだ。そんな彼女の笑顔が気になって俺は尋ねた。


「どうしてこれを俺に」

「私も感情的になりすぎました。よく冷静になって考えればハルが理由もなくあんなことを言うとは思えません。理由があるんですよね。本当に呪いがかかっているのであれば鑑定スキル:∞で調べていただけませんか」


 なんという人間の大きさか。いや、太さのことを言っているわけではない。彼女の人間性の大きさに俺は感心させられていた。母の形見を俺のようなぽっと出の人間に渡すというのは余程俺のことを信用してくれないとできないことである。俺は心の中でインフィニティに話しかけた。


【こうやって言ってる。汚名返上のチャンスじゃないのか】


インフィニティはしばし戸惑った後にこう答えた。


『まったくそうですね。マスターやシェーラ姫の心はスキルの私には学ぶことばっかりです。…彼女の手を取ってください』


 インフィニティに言われるままに俺は首飾りを差し出した彼女の手を優しく握った。その俺の所作に戸惑いを見せたのかシェーラの頬が赤く染まる。そんな俺たちの様子を眺めながらインフィニティは囁いた。


『では行きます。鑑定スキル:インフィニティ発動。目標対象:不確定形。カテゴリー:首飾り。これよりサイコメトリングを開始します』


 サイコメトリングとはなんだ。そう思った俺の脳裏に情報が入り込んでくる。サイコメトリング。物品に宿る思念や過去の経歴の風景を読み取ることでその持ち物に何が起きたのかを判別する上位鑑定スキルのひとつ。鑑定スキル:∞を持つ者だけがたどり着くことができる一種の境地。驚く俺の前で景色が目まぐるしく変わる。

 瞬間、暗闇が反転して周囲の景色が真っ白に染まった。




                  ◆◇◆◇◆◇      




 気づくと俺はセピア色の景色の中にいた。何時の間に目を開けていたのであろう。周囲を見渡すと見知らぬ城にいた。西洋風の石畳の簡素な城だな、そう思って辺りを見渡そうとすると手に何かを握っている感触がした。すぐ隣を見てみると横には手を繋いだシェーラの姿があった。一体ここはどこなんだ、俺が疑問を口にしようとする前にシェーラの思念が流れ込んできた。


『ここはシュタリオン城です』


 ここがシュタリオン城なのか。召喚された時は地下にいたので分からなかったのだが、ここがシェーラの生まれ育った城なのか。そう思っていると俺たちの横を目鼻立ちがくっきりした美しい少女が通り過ぎていく。まだ幼さが残るものの、その大きな瞳は見る者の目を奪い、さらさらに流れる髪は現実離れした妖精を思わせる美しさがあった。面影がどことなくシェーラに似ている。ひょっとして妹か誰かかな。俺がそう思っているとシェーラが申し訳ない顔をして答えた。


『…ハル、あれは幼いころの私です』

『ええっ!?全然違うじゃん!』


 目の前を通り過ぎていった美少女と今のシェーラがどうしてもイコールにならなくて俺は驚いて二、三回振り返った。そんな俺の様子にシェーラは羞恥の入り混じった表情で答える。


『自分で言うのもなんですが、11歳ごろの私は国民の皆さんからシュタリオンの妖精姫と呼ばれていたのですよ』


 その意外すぎる事実に俺は言葉を失った。嘘だろう、詐欺じゃないか。だってあそこにいる美少女が目の前のシェーラみたいになるなんて年月というものの残酷さを思い知った。


『それ以上言うと泣きますよ』

『あ…ごめん』


 今のは失言だった。シェーラだって女の子なんだから太っていることを気にしてないわけないよな。そう思って謝罪するとシェーラは「いいんです。どうせ本当のことですから。でもハルも痩せてる女の子のほうが好きですよね。」とフォローできない返しをしてきた。

うわあ、気まずいなあ。

そう思って過去の景色を見ていると先ほどの少女が再びこっちに走ってきた。瞬間、彼女の首筋にかけられていたペンダントのチェーンが外れて床に落ちる。どうやらペンダントを首にかける鎖が切れてしまったようである。泣きそうな顔をしてペンダントを拾う少女を前にして景色が切り替わっていく。



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