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13-15(P149)




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇            



 

 アリスの惨状を見た俺は怒りのままに叫んでいた。年端もいかない少女をあそこまでいたぶることができる目の前の男に対して強い怒りを感じた。魂喰らい。不気味なほどの赤い髪をした痩せぎすの男。インフィニティが再生させた記録映像で見た時にも感じたが、こうして会って改めて確信した。この男は危険だ。野放しにしておくわけにはいかない。

 壁に叩きつけられたダメージから回復したのか魂喰らいはゆっくりと起き上がった。憎々しげにこちらを睨む表情には優しさなどは欠片ほどもない。察するにこれから俺をどういたぶろうかという算段でも練っているのではないだろうか。あいにくと料理される気など全くない。

 睨み合いは一瞬で終わった。魂喰らいがその腕から巨大な火球を生み出してこちら目がけて放ってきたからだ。真っすぐに向かってきた火球はサッカーボールを蹴る要領で思い切り蹴り上げた。


 多少(・・)、熱を感じたが大した攻撃ではない。だが、相手はそうは思わなかったようだった。


「馬鹿な。普通の人間を消し炭にする炎だぞ…」

「自分が戦っている相手を普通のデブとでも思ったか。お前、楽には死ねないよ」

「やかましい!クソデブが!」


 俺の挑発に激怒した魂喰らいは先ほどの火球とはくらべものにならない大きさの火球を両手で構成させると同時にこちら目がけて放ってきた。避けることのできないほどの大きさの炎だった。


 だからどうした。避けきれないなら正面からぶち抜くだけだ。俺は心の中でそう呟いた後に迷うことなく燃え盛る炎に目がけて一直線に向かった。そして思い切り炎を殴りつけて突き抜けた。周囲の景色が歪むほどの熱だ。全くダメージがないわけではない。だが、怒りに包まれた俺をこんなこけおどしで止められると思ったら大きな間違いだ。

 爆炎を潜り抜けた俺の姿に魂喰らいは驚愕して次の炎を生成しようとした。それを待つほどお人よしではない。炎を潜り抜けた勢いのまま、俺は走った。その勢いで魂喰らい目がけて突進して思い切り顔面を殴りつけた。手の感触から顔面が陥没していくのが分かる。だが、この男はこの程度ならばすぐに再生するだろう。再生する隙を与えずに連続攻撃を行う。それがこの男を倒すために決めた方針だ。顔面が再生している隙に腰に差した小刀を抜いて魂喰らいの両手を切断した。切断した左右の腕はすぐにくっつけることのできないように遠くに放り投げる。傍から見れば凄まじく残忍なことをしているという自覚もある。だが、この男を野放しにしておけば次の犠牲者を出すことになる。それを避けるためなら俺はあえて鬼になる。

 顔面が再生した魂喰らいは自らの両腕を切り裂かれたことを見て恨みがましい目をした。


「ぎゃああ!てめえ、なんてことをしやがる、こんな残酷なこと、人間のできる所業じゃねえだろう」

「戦った相手を生きたまま火だるまにするような奴に言われたくはない」

「ははは…どうやら俺と同類らしいな、だが、だいぶ甘ちゃんだ!」


 魂喰らいはそう言って切断した両手を一瞬にして再生させた。まさかそこまでの再生能力を備えているとは思いもしなかった俺は予想外の事態にぎょっとなった。焦った俺に魂喰らいは残忍な笑みを浮かべながら俺の両腕を無造作に掴んだ。細腕のどこにこんな怪力を備えていたのか、全く腕を動かすことができない。


「さあ、捕まえたぜ」

「…何のつもりだ」

「決まってんだろ、化け物じみたお前からスキルを奪ってやるのさ、さぞかしレアなスキルの持ち主だろうからな」


 魂喰らいの掌越しに何かが吸い取られていくような感覚がしていく。恐らくアリスや犠牲になった少女もこの手にやられたのだ。接触することで相手のスキルを奪う。それがこの男の特殊能力なのだろう。

しばしスキル吸収行動を行った魂喰らいはそこでようやく異変に気付いた。


「…なんでだ、なんで吸い取れねえ」

「何かおかしなことでもあったか」


 俺は膝で思い切り魂喰らいの顎を打ち抜いた後に両腕の束縛から自由になった。

これまで行ってきた手段が通用しなかったことで相手は酷く動揺しているようだった。俺は首を回してゴキリと音を立ててから意地悪そうに笑った。


「…てめえ、スキルをどこにやった」

「スキル?お前のような出鱈目な相手とやり合うのにスキルなんぞ持ってくるわけがないだろう」

「馬鹿な…ス、ステータスオープン!!」


 俺のステータスを確認した魂喰らいは驚愕した様子だった。それはそうだろう。普通の人間ならば何かしら持っているスキルが一つも表示されていないのだ。

 手品の種明かしをしてしまえば俺のスキルは一時的に全て分身体のインフィニティに譲渡している。俺のステータスを見れば分かるが、ある一つのスキルを除いてスキルは全て使用不能となっている。その一つのスキルに関しても切り札として偽装しているために現在は■■■■としか表示されない状態となっている。


「どうした。得意技が使えなくて焦ったか」

「化け物め」

「その通り、化け物さ。お前と同じな」


 恐らくはこの男はこれまでの間、こうして相手のスキルを奪い取ることで動揺を誘い、相手をいたぶってきたのだ。だから俺のようなイレギュラーに対面したことは初めてなのだろう。その精神的な動揺を今回は逆に利用させてもらう。

 俺は相手の不安を誘うかのようにゆっくりと近づいていった。




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇          




 魂喰らいは目の前の豚男に圧倒されていた。魂喰らいが能力を得てからスキルを奪うことができなかったのは一度もない。最初は街のチンピラだった。それから次々に相手を襲って殺しては力を得ていった。裏社会に生きる凄腕の殺し屋を殺したことで『人食い』『再生能力』の力を得てからはこの街に潜みながらも享楽的に殺人と能力の向上を図っていった。彼にとって過ちがあったとすれば人から奪った能力で相手を圧倒するという戦い方が基本であったために奪い取った能力の把握や研鑽を怠ったことである。能力の組み合わせ次第でいくらでも強くなれたはずなのに彼は現状で胡坐をかいていた。

 だからこそ魂喰らいはイレギュラーである晴彦に対抗できない。

 晴彦に殴られ続けながらも魂喰らいは自らが生き残るために必死に考えた。さっき確認した奴のステータスのスキル欄に表示された■■■■のスキル。恐らくはあれが奴の強さの源に違いない。そうでなければ自分があんなデブに劣ることがあるものか。あれを引き出せば勝てる。

 そう思った魂喰らいは視界の端に一人の少女の姿を見つけた。それは先ほど彼が痛みつけたWMDの少女であった。あの女、使える。そう思った魂喰らいはサイコキネシスで少女を引き寄せると自分の盾にした。

寸前で豚男はその凶暴過ぎる拳を止めた。


「汚いぞ…」

「何とでも言え、おっと、少しでもおかしな真似をしたらこの嬢ちゃんを消し炭にするぜ。正義感を気取った甘ちゃんめ、だからお前は負けるんだよ」


 魂喰らいは少女を盾にしたまま、晴彦をサイコキネシスで拘束した。そしてその胸に手を添えて彼の中からスキルを奪い取ろうと試みた。晴彦の体内の奥深くに眠っているそのスキルを取り出すのは骨が折れたが、大きな障害はなくスキルを奪い取ることに成功した。

 力を失った晴彦が膝から崩れ落ちる様子を見て魂喰らいは自らの勝利を確信した。


「………」

「どうした、悔しくて言葉も出ないか」

「………はは、はははは」

「恐怖で気が触れたか。安心しろ、お前から奪った力でゆっくりと嬲り殺してやる」


「お前が想像通りの屑で安心したよ。おかげでそのスキルを吸収させることができた」


 晴彦が最初に何を言っているのか分からずに魂喰らいは怪訝な顔をした。だが、すぐに魂喰らいに起こり始めた異変が晴彦の言わんとすることを代弁した。傷口が塞がったというのに細胞が増殖していく。体の再生が終わらないのだ。それだけではない。体中が異常な熱を帯び出した。頭がはち切れそうな苦しみにもがき苦しむ魂喰らいは首を掴んでいたアリスの拘束を解いて身悶えた。床に崩れ落ちたアリスを抱きかかえた後に晴彦はもがき苦しむ魂喰らいを見下ろした。


「どうした。俺から奪った力で嬲り殺してくれるんじゃなかったのか」

「てめえ、…なんのスキルを吸収させた」

「【スキル暴走】。お前のために用意したとっておきのレアスキルだ。スキルを持っているものは自身の意志とは関係なく全てのスキルが暴走して自滅に向かっていく。一体どれだけのスキルを所有しているかは分からないが、その全てがお前の敵だと思え」


魂喰らいに奪い取られたスキル達が奴の体内で暴れ狂う。それぞれのスキルの力の結晶達が宿主の意思に反して暴走し続ける様子は正視できないほど残酷な光景だった。


「なんだと、嘘だ、嘘だ、嘘だ!!お、おぼっ!!!ぐぎゃあああああああ!!痛い痛い痛いいたいいいいいいっ!!助けてええええ!!」


「皮肉なものだな、お前は馬鹿にしていた人間達のスキルによって滅ぼされる。お前の言ったセリフをそのまま返そう。だからお前は負けるんだ」


 晴彦はそう言って魂喰らいから背を向けた。増殖した魂喰らいの肉の塊は限りなく膨張して全身をきしませながら破裂した。そして二度と再生することがなかった。



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