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13-13(P147)

宗谷たちの懸命な捜索の結果、魂喰らいが潜伏するという廃ビルをすぐに突き止めることができた。ビルの外側で襲撃のタイミングを見計らう宗谷の指示を待っていると最近は話しかけてくることさえなかったマサトシが話しかけてきた。


「なあ、雛木」

「…何、かな」


罵声ばかり浴びせられていたものだから内心でアリスは驚いていた。どう答えていいかも正直なところ、よく分かっていない。そんな彼女にマサトシは言いにくそうにしながらも続けた。


「悪かったな…色々」

「何のこと?」


「俺、お前の力に嫉妬してたんだ」


マサトシの独白にアリスは目を見開いた。そこからマサトシはこれまでの自分の感情を話し始めた。最初はアリスの事を守ろうとするために強くなろうと思っていたこと、アリスが戦闘スキル:∞の能力に目覚めてからは次第に嫉妬するようになっていったこと。

その苛立ちをぶつけてしまっていたこと。全てを話し終えてからマサトシは大きく息を吐いた。突然にそんなことを言い出したものだからアリスは困惑した。


「なんで突然にそんなことを言うの」

「…これが最後になるかもしれないからさ。相手はあのリノでさえあっさりと殺してしまうような奴だからな」

「最後なんて怖いことを言わないで」


本当にそうなりそうでアリスは不安を感じた。その時だった。インカムから宗谷の指示が入った。合図の後に突入する。その言葉にアリスとマサトシは短く承諾の意を伝えた。




              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




剥き出しのコンクリートの床の上で魂喰らいは肉を貪っていた。彼にとって食事である肉の塊の残骸は床に無残に転がっていた。かろうじて残っている残骸はどう見ても人間の足としか思えなかった。通常の食事では満たされない飢餓を満たすために彼は定期的に街の住人を攫ってはこの捕食を行う。最初はそんなことなどする必要はなかったが、スキルを奪っていくうちに強い飢餓を覚えるようになった。詳しくは確認していないが、恐らくは何らかのスキルの副作用によるものだろう。

そんなことを考えていたら、突然に音もなく自分の頭に何かがめり込んだ。狙撃されたことにようやく気づいたのは衝撃で床に転がった後のことだった。

痛みはほとんどなかった。『痛覚鈍化』の力によって死に至る苦痛も蚊に刺された程度にしか感じたことはない。痛みに悶える必要もないため、放っておいても体が勝手に再生してくれる。だが、魂喰らいを狙撃した人間達は再生の隙を与えないように襲い掛かってきた。まず数人の銃を持った男たちが乱入してきた。彼らはこちらに銃を向けながら警戒しているが、全く持って動きが遅い。すでにこちらの再生は完了している。

返礼とばかりに昨日に生意気な女から奪った炎の力で焼き払ってやった。人間の身体が一瞬にして炭化するほどの炎を眺めながら魂喰らいは思った。なかなかいい力だ。雑魚を一掃するのには使えそうだ。あの女はクソ生意気だったが、能力だけは評価してやろう。そう思った矢先、背後から何者かが襲ってきたのが分かった。自分の胸から剣の先端が生えているのを眺めながら、やってくれるものだと苦笑いした。せっかくの一張羅が台無しだ。

魂喰らいは剣先を無造作に掴むと胸元から一気に引き抜いた。剣の柄が多少は肉でつっかえたがお構いなしだ。胸の傷など巻き戻ししたかのように即座に戻っていく。

剣で刺してきたのは一人の少年だった。まさか一瞬で再生したとは思っていなかったようで予備の剣を構えながらも怯えた目をしている。日本人離れしたその金色の目を眺めながら少年がスキル所有者であることに気づいた魂喰らいはこいつからもスキルを奪ってやろうと決意した。瞬時にして少年の懐まで接近すると乱暴に首筋を掴んだ。もがいたところでもう遅い。掌からスキルが譲渡されていく感覚が伝わってきた。それと同時にそれまでは黒かった魂喰らいの目が金色へと変貌していく。彼は自らの見る景色が未来を示すものに変わっていくのを感じながら嗤った。嗤いながら首筋を掴む手の力をさらに籠めていく。

その次の瞬間、魂喰らいは力任せに殴り飛ばされた。それを行ったのはアリスだった。彼女は魂喰らいを殴り飛ばしたことで自由となった少年に目で逃げるように目配せした。それでも少年が逃げようとしないことに焦りながら怒鳴った。


「早く逃げて!」


その声に弾かれるように少年は走った。その姿に内心でホッとした後にアリスは敵を見据える。


「たいして効いてないのは分かっていますよ」

「少しは骨のありそうな姉ちゃんだな。食いごたえがありそうだ。…なんだ、お前、レアものじゃねえか」


男の不気味すぎる表情に悪寒を感じながらもアリスは攻撃を仕掛け出した。




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         



その頃、ゼロスペースから帰還した後に疲労から爆睡していた晴彦は飛び起きた。大きな見た目は全く変わらないが、凄まじく髪と髭が伸びていた。かろうじて髪の間から見える眼光は以前のものとは全く違うくらいに鋭いものとなっていた。どのくらい身体を洗っていないのか臭気も凄まじいことになっている。体全体を覆うのは野生の獣が持っているかのような禍々しい殺気である。元気になった主の姿を確認しながらインフィニティが微笑む。


「マスタ―、戻られたんですね」

「時間内にやれることはやってきたつもりだ」

「間に合いますか」

「間に合わせるんだよ。詳しい作戦説明は脳内で指示する」

「それにしても臭いますね」

「そうかな、自分では気づかないんだが。まぁいいか。行ってくるわ」


そう言って晴彦はクロックアップと神速を使った。その動きは同じくクロックアップのスキルを使用したインフィニティであっても全く見切れないスピードだった。


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