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13-11(P145)




             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇          




 司馬さんからの電話連絡によって呼び出されたのはその日の深夜だった。こんな時間に何事かと思ったが、電話先の声の様子が普通でないことに不安を覚えた俺は着替えもそこそこに外へ飛び出すと魔剣を召喚した。そして剣の飛翔能力を使用して目的地へと向かった。駅から少し離れた雑居ビルの上空からパトカーのサイレンが集まっている地点を確認した後で少し離れた地点に静かに降り立った俺は警察官たちから少し離れたところに佇んでいた司馬さんに声をかけた。

 司馬さんは少しだけ疲れたような表情で俺に頷いた。


「すまんな。どうしても頼みたいことがあってな」

「一体どうしたんです」

「WMDの捜査官が殺された。アリスの仲間の勇者候補生だ」

「アリスの?嘘でしょう」

「犯人を割り出すために殺人現場の情景の再生を頼みたい。頼めるか」


 司馬さんの言葉に俺は言葉を失った。黙ってしまったのは思ったよりもショックがでかかったからに他ならない。自分の心のどこかに勇者というものは死なないものだという勝手な考えがあったのだ。アリスの仲間の死はそんな俺の甘い考えを見事に消し去ってくれた。このまま放置しておくわけにもいかない。 そう思った俺は司馬さんに案内されて封鎖された事件現場の中に入り込んだ。

 現場の周囲は何かの焼けた焦げ臭い臭いが充満していた。臭気に顔をしかめながら臭いの発生源に目をやると布を被された何かが横たわっているのが分かった。布越しに確認できるそのシルエットからそれがアリスの仲間の変わり果てた姿だという事を理解した。その布の前で佇んでいる少女の姿に俺は言葉を失った。

 それはアリスだった。彼女は完全に放心した様子で仲間の遺体の前に佇んでいた。その瞳には光が灯っていない。一目見ただけで普通の状態でないことは理解できた。


「アリス、大丈夫か」

「…藤堂、さん?」

「大丈夫か」

「私は大丈夫ですよ、でもリノちゃんが…」


 そこまで言った後に彼女は一息置いた。その後に困ったように微笑んだ。


「いくら呼びかけても起きてくれないんですよ」


 その言葉を聞いて俺はゾッとなった。彼女の心は壊れかけている。仲間の死を理解したくないのだ。だから困ったように笑うしかないのだ。俺はその顔がとても危なげなものに思えた。言い出すべきなのか迷ったが、隠してもいいことなどないと躊躇いがちに事実を告げることにした。


「アリス、彼女はもう…死んでるんだ」


 彼女は俺の言葉が理解できなかったかのように小首を傾げた。必死に事実を認めようとしない様子に俺は心が痛んだ。同時にこうも思った。もし自分が逆の立場だったら認められるだろうか。シェーラやワンコさん、クリスさんやインフィニティといった仲間の死を突き付けられた時に心が壊れない自信があるか。答えはNOだ。

 俺は司馬さんに目くばせしてアリスを遺体の側から離してもらった。これから行うことは彼女に見せるには余りにも酷な場面であるからだ。俺は遺体に被せた布に手を触れると万能スキルに命じた。


「インフィニティ、この子の死まで遡れ。殺した人間を特定する」

『了解しました。これよりサイコメトリングを開始します』


 瞬間、周囲の光景が早送りで逆回転し始める。頭上の空は夜から昼へ、そして横たわった遺体は燃え盛る少女へと変わった。少女が火の中で悶え苦しむ様子は見るに堪えないほど残酷なものだったが、彼女の前に立っている幻影の男はそうではなかった。少女が燃えていく様子を楽しそうに眺めながら薄笑みを浮かべていた。こいつがこの子を殺したのだ。少し痩せ気味の血色の悪い男だった。ただ、その髪は血のように紅かった。

 俺は奴の顔を忘れないように心に刻みつけようとした。その時だった。俺の背後から凄まじいスピードの何かが赤い髪の男に飛び掛かっていった。アリスだ。彼女は泣き叫びながら幻影を殴りつけていた。


「やめろぉ!リノちゃんを燃やすなっ!燃やすな!」


 アリスの気持ちは痛いほど分かった。だが、これは幻影だ。彼女がいくら力を持っていたとしても起こってしまった出来事は変えられない。薄笑みを浮かべる幻影に対して彼女は傷一つ負わせることはできない。どころか男の背後にあるコンクリートに拳を打ち付け続けるものだから拳が血まみれになっていた。見るに見かねた俺は高速移動して彼女の拳を掌で受け止めた。


「アリス、もうよせ」

「だって、藤堂さん、私のせいだ、私のせいでリノちゃんが…リノちゃんが―――っ!!」


 目の前で号泣したまま泣き崩れる少女を俺は慰めることもできずに立ち尽くすしかなかった。



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