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意識を取り戻した俺は横並びで寝かされているアリスを見た。たいした女の子だ。まさかダブルノックアウトになってしまうとは思わなかった。彼女と戦ったことで俺はもっと自分の身体能力を上げる必要があることを理解した。どこか心の奥に物理吸収やクロックアップがあるからという気持ちがあって訓練を怠っていたのかもしれない。
最後の一撃は頼みの綱である物理吸収すら無効化されたからな。
魔王村とのヒュドラとの戦いでも力不足を感じていたが、スキルに頼らない能力のつけ方も考慮に入れる必要がある。アリスはそれを気づかせてくれた。しかし、最後に表示されたあのスキルの群れは凄かったな。闘神モードといったか。【金剛体】【弱点特攻】【明鏡止水】【剛力】【貫通】【戦闘即応】【痛覚無効】【真贋看破】【闘気操作】【未来予測】なんて全くこちらの知らないスキルばかりだ。
『ヌアザは戦闘に関するスキルを数えきれないほど所有しています。持ち主にすら把握しきれないため、闘神モードと呼ばれるAI依存の思考形態にすることでスキルの引き出しから使用スキルを引っ張り出す流れですね』
「同じようなことはできるのか」
『残念ながら答えはNOです。私自身はスキルを作り出すことはできても引き出し自体を多くは作り出せませんから。仮にあの力を作るとなると数十年の歳月を必要かと推測されます』
「そっか、残念」
羨ましさはあるのだが、ないものをねだっても仕方ないものな。納得した俺はアリスを助け起こして回復薬を使用するために彼女の服をめくって赤く腫れているお腹の部分を出した。断っておくが、いやらしい意味はない。服が濡れては駄目だろうという配慮からだ。しかし本当に白い肌だな。まじまじと見ていると司馬さんからツッコミが入った。
「晴彦~、少女にいやらしいことをしているおっさんみたいだぞ」
「司馬さん…分かって言ってますよね」
若干恥ずかしくなりながらも俺はアリスの腹部にエリクサーを染み込ませた布を被せた。彼女は一瞬顔をしかめた後に意識を取り戻した。
「藤堂…さん」
「よかった、気が付いたかい」
「そうか、私…藤堂さんに負けて…」
「いや、あれは相打ちさ」
実のところ、先にやられたのだから俺の負けともいえる。そう思いながらアリスを見ていると彼女の表情が戦う前よりもすっきりとしていることに気づいた。
「なんだかすっきりした顔をしているじゃないか」
「はい。藤堂さんと戦ったことで迷いが晴れました」
「そっか、ならよかった」
「ふふ…あれ?」
アリスは微笑みながらも起き上がって、そこで初めて服をお腹の部分までめくられていることに気づいて赤面した。若干非難めいた視線を感じながらも俺は必死に弁明した。
「違うんだ、これは。傷の手当てに仕方なくだね…」
「…藤堂さんのエッチ」
「違うんだって!」
俺達の様子をゲラゲラ笑いながら眺める司馬さんを横目で見ながら必死にアリスを説得することになったのは言うまでもない。
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アリスと司馬さんが帰宅した後に俺はインフィニティとゼロスペースに籠った。
能力をトレーニングする必要があると思ったからだ。どうせやるなら思い立ったらすぐにやるべきだ。そのためにまずは自分のステータスを再確認する必要がある。
「ステータスオープン」
藤堂晴彦
肥満体質【90/58】
年齢:32
Lv.35
種族:人間
職業:スサノオもどき
ドッグブリーダー
恐怖の豚王
恐怖を知る豚
優しさを知る豚
異界の姫の豚騎士
称号:電撃豚王
公園の怪人『豚男』
強制送還者
体力: 341/341
魔力:5003/5003
筋力: 272
耐久: 246
器用: 217
敏捷: 273
智慧: 118
精神: 258
魔法耐性: 258
ユニークスキル
〈ステータス確認〉
〈瞬眠〉
〈鑑定〉Lv.∞
〈アイテムボックス〉Lv.0
スキル
名状しがたい罵声
金切声
全魔法の才能
運動神経の欠落【62807/65000】
〈アダルトサイト探知〉Lv.10
【無詠唱】
【精霊王の加護】
【努力家】
【魔力集中】
【魔力限界突破】
【限界突破】
【インフィニティ魔法作成】
【電撃吸収】
【神速】
【二回行動】
【思考加速】
【地形効果無視】
【オーバードライブ】
【クロックアップ】
【孤狼流剣術:初級】
【物理吸収】
【暴飲暴食】
【倍返し】
【魔剣召喚】
【帝王の晩餐】
【美食家】
【味覚分析】
【オーバーリアクション】
【魔力感知】
【ルーン魔術作成】
【グングニル召喚】
【空間魔力制御】
【快適空間作成】
【千手観音】
【高速飛行※】
【カリスマ】
【聖者の行進】
【ニコポ】
【リア充爆発】
【御神体モード】
【ガリバースペース】
【分身体作成】
‹インフィニティ魔法›
魔法障壁:絶
Dボム作成
回復薬【最上質】作成
焔の蛇
酒雲作成
基礎的なトレーニングは勿論行う必要があるが、まずはこの『運動神経の欠落【62807/65000】』を克服する必要がある。このステータスは気づかないうちに上がっていく為に何をすれば上がるのか分かっていない。試しにラジオ体操をしてみたが、全く数値に変動はなかった。であれば模擬戦を行うのが一番だ。そう思った俺はインフィニティと本気に近い組み手を行った。10分程度行って数値の変化を確認したところ、【63807/65000】にまで変化していた。やはり体を動かすのが一番のようだ。確信した俺は嫌がるインフィニティを無理やり働かせながら続けて組み手を行った。二回ほど行っている途中で脳内にアナウンスが流れる。
『運動神経の欠落を克服しました。【剛力】【金剛体】【超弾道】【脊髄反射】【スタミナ即回復】【硬気術】【フィールドの覇者】を獲得しました』
何やらまた不穏なスキルがいくつも獲得できたことに俺は歓喜した。実際、前回の克服時はおかしなスキルが多かったから今回の克服報酬は純粋に嬉しい。わくわくしながらスキルを試すことにした俺はその頃のアリスの身に大変なことが起きていたことに気づきもしなかった。
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アリスがリノの死を知ったのは晴彦の家からWMDの分室に戻ってすぐのこととなった。連絡不能となったリノの所有するスマホのGPSの反応が喪失した地点を探ったところ、変わり果てた姿となった彼女を見つけることができた。アリスは泣き叫んだし、マサトシも口数こそ少ないものの壁を殴りつけるなどして怒りに震えている様子であった。
宗谷は独断専行した部下に対しての苛立ちを募らせていたが、それ以上に魂喰らいに対する怒りに震えていた。だが、他の二人とは違い、それを表には出さないように努力した。全員が魂喰らいに対する怒りに震えていた。必ず落し前をつける。そう誓った後にリノの亡骸に向けて一同は鎮魂の祈りを捧げた。