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13-7(P141)

 話を聞き終えた俺は彼女の置かれた状況が自分の事のように思えて胸が痛んだ。同時に自分の事を化け物と蔑む必要など決してないのだと強く思った。彼女がしたことは正しい。仲間を助けるように自らの持てる全ての力を駆使した彼女を誰が責められるというのだろう。例えそれが規格外の力であっても。

 彼女との立場はそう変わらない。俺が持つ鑑定スキル:∞も言ってみれば化け物のような力だ。俺と彼女の違いがあるとしたら、それは自分の事を理解してくれた仲間がいたのかという事だ。俺にはシェーラや司馬さん、ワンコさんという理解者がいてくれた。仲間たちはありのままの俺を受け止めてくれるだけではなく、間違った方向へ進もうとすると戒めてくれる。だからこそ俺は自分の力を恐れずに発揮することができたのだ。

 そうでなかったと思ったらゾッとする。

 

 今の彼女に一番必要なのは理解者だ。俺は強くそう思った。

 

 話を終えたアリスはこちらの意見を伺うような不安そうな表情をしていた。そんな表情するなよ。お前は全く悪くないんだから。そう思ったら考えなくても言葉は自然に出ていた。


「あのさ、アリス。お前は全く悪くないと思うよ」

「藤堂さん…」

「お前はしたことは引け目を感じることじゃない。誇りを持っていいことなんだ」

「でも、私は…」

「お前は化け物なんかじゃない。化け物はそんな優しい心を持っていない」


 迷うアリスに対して俺は断言した。そんな俺に対してアリスは目を見開いた。予想外だったのはその眼から涙がぼろぼろと零れだしたことだった。泣き崩れるとは思わなかった俺はびっくりして対応に困った。そんな俺にインフィニティが冷やかしを入れる。


『いつものように抱きしめてフラグを立てなくていいのですか』

「人聞き悪いこと言うなよ…」


 女の子の心の弱みに付け込んで次々に毒牙にかけているわけではないぞ。しかし思い詰めていたんだろうな。かわいそうになってきた。

 こんな優しい子に化け物などという心無い言葉を投げつけた人間に対しては元祖化け物として仕置きをしてやる必要がありそうだ。

 俺たちはアリスが泣き止んで落ち着くまでその場で待ってあげることにした。




              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




 一方、その頃。シェーラと湊は二人きりのスイーツバイキングを楽しんでいた。湊は満足そうにティラミスやモンブランを交互にフォークで刺してはパクついているのだが、シェーラはどことなく心あらずといった様子であった。ため息交じりの様子に湊が声をかける。


「どうしたの、あんまり進んでないようだけど。美味しくなかったかな」

「いえ、そういうわけじゃないんですが。若干の心配事を残してしまったものですから」

「ああ、さっきの女の子の事か。奇麗な子だったもんね」

「ええ、ハルってああいう子に弱いから」

「妬いてんだ」


 直球で聞いてくる湊に対してシェーラは曖昧な笑顔で誤魔化した。そんな彼女の対応に湊は内心で思った。世間知らずのお姫様かと思ったら食えない子だな。

 実のところ、今回に湊がシェーラを誘ったのはその内心を聞き出すためでもあった。晴彦の事をどう思っているのか。もし恋愛対象でないならば自分にも晴彦と仲良くするチャンスがあるはずだ。そう思って色々と質問をするのだが、思うような答えが返ってこない。本当ならインフィニティにも協力してもらおうかと思ったのだが、結局来てくれなかった。

 湊自身も晴彦の事を好きかというと疑問は残る。拉致されそうなところを救われたり、老婆と共に化け物に押しつぶされそうになったところを救われたりと思うところはあるのだが、男性として好きなのかというと自分自身でも疑問は感じている。

 思わず物思いにケーキをフォークで刺しているとシェーラがこちらを見ているのに気づいた。


「あ、ごめん。なにかな」

「ミナトは…ハルのことが好きなんですか」


 意外とぶっちゃける子だな。気の弱いだけのお姫様ではない。湊はシェーラへの評価を改めた。


「あはは、直球で来るね。でも自分の気持ちを話さずに聞いてくるのはフェアじゃなくないかな」

「そう…ですね。本当にそうです」


 シェーラは暫く沈黙した後に意を決すると宣言した。


「…私はハルのことが好きです」


 自信を持った表情でそう答えたシェーラに湊は気圧された。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇           




 結局、アリスが落ち着くまで俺は側にいてあげることにした。司馬さんはにやにやしながら煙草を買いに行ってしまった。信用されているのかそれとも他の何かを期待しているのか分からないが、期待に応えるつもりはない。俺は紳士な豚男なのだ。

 そんな風に思いながら待っているとインフィニティが声をかけてきた。


『しかし、戦闘スキル:∞とは難儀なスキルを宿していますね』

(知っているのか)

『いかに敵を打ち滅ぼすかということしか頭にない戦闘狂です。ゆえに宿主の精神状態など考えもしないのでしょう』

(宿主のダイエットを阻害しようとするスキルも大概だがな)


 俺が冷たくそう言うとインフィニティは思うところがあったのか黙りこんでしまった。図星かよ、そう思いながら俺は四杯目となるお茶をすすった。



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