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13-6(P140)





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




 正真正銘の化け物を見せてしまった。司馬はそう思いながら連れてきたことを早くも後悔していた。本当は晴彦と接することで雛木アリスに自分だけが特別でないことを伝えようと思ったのに凄まじく説明しにくい状況から説明する羽目になった。なんであいつはこうなんだよ。物凄く気まずいなあ。そう思いながら雛木の方を見てみると案の定に青ざめていた。


「司馬さん、今のはなんですか」

「いや、なんでもないんだ」

「女の子が化け物に捕食されているようにしか見えなかったんですが」

「目の錯覚じゃないか、そう、イソギンチャクだよ、イソギンチャク」

「イソギンチャクは肌色をしていないと思うんですが。第一、人間サイズのイソギンチャクって…」

「ちょ、ちょっと待ってろ、な」


 司馬はそれ以上誤魔化すのが面倒くさくなってアリスを後ろに下がらせるとドアを思い切り蹴って怒鳴った。


「晴彦!三分だけ待ってやる!今すぐそのふざけた奇人変人博覧会をやめないと部屋ごと消し飛ばすぞ」


 状況についていけないアリスは内心でびっくりしながらも、それ以上は話しかけずに待つことにした。




              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇         




 目の前のドアが外側から乱暴に蹴られたことに俺は恐怖した。何だよ、司馬さん、やめてくれよ。余計に開けるのが怖くなるじゃないじゃないか。豆腐メンタルの俺は今の状況を整理したうえで逃亡するのが一番ではないかと結論付けた。そんな俺に追い討ちをかけるかのように外から司馬さんの不穏な声が聞こえてくる。


『かの者の剣は七度わが身を貫かん…されどわが剣、死すれども怨敵の身を八度貫かん…この身に宿りしは…』


 聞き覚えのある物凄く不穏な呪文が聞こえてくる。それが司馬さんの固有武装である魔剣ダインスレイブの召喚の時の詠唱だと気づいた俺は観念して扉を少しだけ開けた。

 

 扉の隙間には物凄く笑顔の司馬さんの顔が見えた。


「よう、晴彦。今日も色々とやらかしてるじゃないか」

「あはは…刑事さんには敵わないなあ」

「中に入れてもらうぞ」

「はい…どうぞ入ってください」


 観念した俺は司馬さんを迎え入れることにした。先ほど見えていたので分かっていたのだが、司馬さんはワンコさんではない見慣れない女の子を連れていた。


 第一印象で目を奪われた。彼女が恐ろしく肌が白く儚げな美少女だったからだ。うちの女性陣が元気すぎるのかもしれないが、触れれば壊れてしまうようなか弱い印象を受けた。


 肩口にWMDの腕章をつけているので司馬さんと同じ組織の人間だという事は理解した。司馬さんと謎の少女を招き入れた俺は二人を居間に案内した後にお茶の準備をするために台所に向かった。若干気になったのは少女がどう見ても高校生にしか見えないことだ。WMDって高校生も雇っているのだろうか。まあ、実力が伴うのならば年は関係ないのか。うちのクリスさんだって見た目は小学生だからな。そう考えるとそこまで気にする話ではないのかもしれない。俺は自分を納得させた後に人数分のお茶を持って居間に向かった。


「珍しいですね。司馬さんがワンコさん以外とここに来るなんて」

「ああ、色々とあってな。アリス、紹介するぞ。こいつは藤堂晴彦。異世界に召喚されたが太り過ぎを理由にすぐに異世界からはじき出された勇者候補だ。勇者候補という意味ではお前の先輩にあたる」

「よろしくお願いします、藤堂先輩」

「よろしくね。今の話だと君も勇者候補なのかい」


 俺の問いに少女は静かに頷いた。そんな俺たちのやり取りを聞きながらも司馬さんは紹介を続けた。


「でな、晴彦。この子はWMDの勇者候補の一人である雛木アリスだ。本当はWMD本部に所属するらしいが、現在はうちの管轄に応援に来てもらっている」

「雛木アリスです。よろしくお願いします」


 アリスの言葉に俺は頷いて返答した。茶を勧めながらも今の状況を考える。なぜ司馬さんはこの子を家に連れてきたのだろう。そんな疑問が脳裏によぎった。そんな俺たちにアリスは聞きづらそうにしながらも尋ねてきた。


「あの、先ほどの怪物はどこにいったんでしょうか」

「怪物…ああ、千手観音のことか」

「千手…観音?」


 聞き慣れない言葉にアリスが怪訝な顔をする。俺は誤解がないように先ほどの騒ぎは化け物が暴れていたのではなく、自分のスキルを使用していただけなのだという事を説明した。アリスは若干引き気味になりながらも俺の話を真面目に聞いてくれた。この子、真面目ないい子だな。最後には納得してくれた様子だったので俺もホッとした。そんな俺の肩を叩いて司馬さんが補足を入れる。


「さっきの騒ぎみたいにこいつは色々とやらかすが、勇者としての経験はお前より積んでいる。だからお前の悩みにも答えられるんじゃないかと思って連れてきたわけだ」


 なるほど。そういうことか。何を悩んでいるのかは分からないが、俺でよければ相談に乗りたい。この子はいい子だからな。アリスは一瞬躊躇ったようだが、俺と司馬さんに促されて自分の悩みと心情を語り始めた。



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