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13-1(P135)

 殺人事件が起きた廃ビルでは引き続き、WMDのメンバーによる現場検証が行われていた。

 死体を見たことで気分が悪くなって中座した挙げ句に蒼い顔をして戻ってきた少女を神経質そうな男は睨みつけた。その視線に射竦められそうになりながら少女は謝罪の意味を込めて会釈した。気の弱そうな少女だった。そんな彼女を一瞥した後に男は興味をなくしたように少女を見ることをやめた。その所作には小言を言うのも無駄である、そんな冷たい様子が見受けられた。

 彼の名は宗谷慶一郎。WMDの本部から配属されたエリート捜査官である。そして彼に付き従う三人の少年少女はWMDの中でも優良株とされる勇者候補たちだ。彼らは異世界に召喚される前に組織の保護を受けたが、その異能の力だけは保持したまま地球に残った稀有な存在『稀人』である。宗谷は死体の周囲を調べている少年に声をかけた。


「どうだ、マサトシ、残留思念は追えそうか」


 宗谷に声をかけられた少年は振り返って首を横に振った。髪の毛は黒髪だったが、その眼は金色に輝いていた。


「駄目ですね。残留思念どころか痕跡を奇麗に消し去っています。これだけの真似をして指紋一つついていないなんて不審を通り越して異常ですよ」


 マサトシと呼ばれた少年はそう言った後に額の汗を拭った。宗谷の方に視線を移す際に金色だった目が元の黒い色に戻る。恐らくは死体に痕跡が残っていないかを確認する際に何らかのスキルを使用していたのだろう。マサトシの言葉に宗谷は怪訝な顔をした。


「指紋一つないだと。だったら奴はどうやって首をねじ切られたんだ」

「さあ…、超能力かなんかですかね」

「こんな辺鄙な田舎町にESPがそこまで発達している人間がいるものか」


 宗谷はそう言って舌打ちをした。全く使えない部下達だ。未来と不可視のものが見通せる魔眼がありながらレベルが足りないボンクラに危険というものの感覚がマヒしている魔法バカ、そして優れた能力を持ちながら気弱すぎて戦力としては期待できない足手まとい。正直なところ、ガキの面倒を任されている時点でうんざりしているのである。


「ねえねえ、なんかこいつの額に書いてあるよ」


 そう言って男二人を呼びつけたのは活発そうな少女だった。ふわっとした質感の肩までかかるパーマした髪をなびかせている彼女もれっきとした宗谷の部下の一人である。名を『牧瀬リノ』という。強大過ぎる魔力を制御できずに立ちはだかる敵を全て消し炭にしてしまう事から『核弾頭』という不名誉なあだ名をつけられている。リノの言葉に宗谷は嫌な予感がした。好奇心旺盛な彼女が見つけたものを放っておくとは思わなかったからである。案の定、リノは死体の頭を指でツンツンと突き始めた。瞬間、死体の周囲を中心に血のように真っ赤な魔法陣が形成される。

 触れたものに対して発動するタイプの魔術トラップだ。瞬間、死体の首から染み出す様に闇が纏わりつき始めた。


「なんかさー、黒いの出てきたよー」

「なんで現場をそっとしとかないんだ、あの馬鹿は」


 宗谷は慌ててリノがいるほうに走り寄ろうとした。だが、それよりも闇の動きは速かった。首だけではなく闇は引きちぎられたはずの胴体からも染み出してお互いを求めるように地を這いながら走った。闇と闇が結ばれた瞬間に胴体はそれに引っ張られるような形で地面を走った後に首にくっついた。そして何事もなかったかのように立ち上がると唖然としているリノの胸倉を右腕で思い切り締め始めた。

 驚いたリノが恐怖のあまりに至近距離で爆炎を暴発させる。あまりの威力に怯むはずが死体には全く効いていないようだった。もがき苦しむリノの顔が窒息のあまりに真っ赤に変化する。か弱い腕で幾ら殴ったところで死体は微動だにしなかった。このままでは死ぬのは時間の問題だろう。

 そんな彼女を救ったのは宗谷の放った一発の銃弾だった。銃口から銃弾は正確に死体の眉間にめり込んだ。彼が放ったのは普通の弾丸ではなくアンデッドに特効をもたらす銀の弾丸だ。眉間の真ん中に正確にめり込んだ銃弾は死体をのけ反らせるのに十分な威力を持っていた。

 宗谷はそのまま表情を変えることなく二発目、三発目の銃弾を放った。命中するたびにのけ反った死体の力が一瞬緩んだ瞬間に剣で切り掛かったものがいた。

 マサトシだ。彼は思い切り振りかぶった剣で死体の腕を切り落とした。同時に自由になったリノを抱えてその場を離脱しようとした。だが、そんなマサトシの頬を切り落とされていない死体の左腕が思い切り殴りつけた。人間離れした力によって宙を舞ったマサトシは床に投げ出された後に気を失った。

 共に床に投げ出されたリノを歩み寄った死体が見下ろす。その口からはとめどなく涎が垂れており、目の焦点は定まっていなかった。リノは助けを求めるように宗谷を見た。宗谷は舌打ちした後で銃の引き金を数回引いた。リボルバー式の拳銃から放たれた銃弾は死体の肉に埋まりこんだもののその動きを止めるまでには至らなかった。歩みを止めない死体にリノが恐怖の叫びを上げる。


 瞬間、二人の前に立ち塞がった人影があった。それは先ほど死体を見て吐きに行った少女だった。


彼女は先ほどの気弱な表情からは豹変した機械のような表情で死体を睨みつけた後に死体の胴体目がけて蹴りを放った。少女の足から放たれたとは思えない鈍く重い音が周囲に響き渡る。蹴りが決まった一瞬ののちに一瞬遅れて空気の振動が爆発的に広がり、死体の身体を大きく突き飛ばした。だが、少女は全く警戒を解くことなく視線を死体に向けた。


そして大きく息を吸った後に宣言した。


「ヌアザ、【闘神モード】を解放して」

『了解。通常戦闘形態から闘神状態に移行』


 少女の周囲から機械的な男性の音声が響いた後にその身体の内側から金色の闘気の焔が燃え上がる。そのまま彼女はゆっくりと前進しだした。一歩一歩を踏みしめるように死体の元へゆっくりと。だが、確実に。態勢を戻した死体は牙を剥きながら少女に襲い掛かった。

 だが、彼女の身体を引き裂こうとした爪はその体に届くことはなかった。焦った死体は再度少女を殴りつけようとした。だが、全く傷一つつけるどころか彼女が怯むことはなかった。絶句する死体に向けて少女はその拳を握りしめる。渾身の力で放たれた拳は死体のみぞうちに深々とめり込んだ。そして、その後に生じた衝撃波は一瞬にして死体をこの世から消し去った。



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