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12-10(P133)




                  ◆◇◆◇◆◇        




無事にポチの元から抜け出した俺は階段を上って地上を目指した。そうは言っても足元がおぼつかない。凄まじく酔った気がする。流石というか手加減できていないというかインフィニティの作った【酒雲作成】の威力は凄まじいもので酔い方も半端なかった。元々酒が強くないから余計に酔ってしまったではないか。

ヒック、ヒックとしゃっくりが止まらない。視界二重くらいにぼやけて見える。何とか階段を上り切った後で外に出ていくと爺さんが待ち構えていた。


「力技で行くかと思ったが、なかなか面白い方法でポチを無力化したものだな」

「うい~、ヒック、酷いじゃないですか…ポチがあんな生き物なんて聞いてないですよ」

「言ってなかったからのう」


そう言って爺さんはからからと笑った。怒りというよりは吐き気がこみ上げてしまったのですぐさま横の草むらに吐きに行った。そんな俺に爺さんが後ろから語り掛ける。


「まあ、心配はしておらんかったぞ。ワシの支配する【迷宮】の中じゃったから、ポチにやられて死んだ瞬間にリセットされて洞窟の外に出るような仕組みになっておったからのう」

「死ぬのが前提だったとは…なんて酷い話だ」


その話を聞かされてあらためて相手がただの老人ではなく魔王であったことを理解した。俺は話を理不尽だと思いながらも事前の情報収集が足りていなかったことを反省した。だが、そんなことよりも今は自分の体調不良との戦いが先決だ。


「まあ、課程はともかくおぬしはワシとの賭けに勝ったのだ。約束通りにあの石像は元に戻してやろう」


俺が戻している間に爺さんはそう言って笑いながら立ち去っていった。




                  ◆◇◆◇◆◇        




結局、酔いが抜けるまで半日かかった。途中、体温が下がって凄まじく寒くなったり、水が欲しくてがぶ飲みした後でトイレに駆け込んだりと散々な目に遭った。酒はこりごりだ。仲間たちに酔った経緯を話したら皆が怒り出したので反省した。シェーラとワンコさんは分かるのだが、クリスさんまでが真顔で「あまり心配かけるな」と言ってくれたことは嬉しかった。

その後、俺たちは村を後にして司馬さんの元に向かった。辿り着いた時には司馬さんはいまだ石像のままだったが、帰りがけに爺さんに渡された液体を頭からかけると光を放って石化が解けだした。同時に途中だった司馬さんの変身が再開される。あっという間に黒い鎧を身に纏った騎士となった司馬さんはいきなり殴りかかってきた。すんでのところでかわしたが、衝撃波で木の幹が拳の形に大きくえぐれている。危うく直撃を喰らうところだった。


(あれ?俺はどうしてこんなところに…)


周囲を見渡して敵がいないことに気づいた司馬さんは俺達の姿を見つけるなり変身を解いて元の姿に戻った。元に戻るなり元気なおっさんだな。司馬さんの様子に苦笑いしながらも俺は事情を説明することにした。




                  ◆◇◆◇◆◇       




藤堂晴彦が仲間と共に街を離れている間に彼の街では一つの事件が起こっていた。

廃ビルの前に数台のパトカーが止まっている中で一台の車が停車した。中から出てきたのは壮年の神経質そうな男と一人の気の強そうな少年、そして二人の少女だった。彼らのいずれもが腕にWMDと書かれた腕章をしている辺り、司馬たちの組織の関係者であることを察することができた。廃ビルの入り口に貼られた立ち入り禁止のテープを潜って中に入りながら神経質そうな男がぼやいた。


「全く…今月に入って三件目だぞ」

「今回の一件も『例の奴』の仕業なんですかね」

「恐らくはそうだろうな」


少年の言葉に神経質そうな男は頷きながらビルの奥へ向かっていった。夥しい数の血痕が残された部屋の中には首をもがれた死体があった。鋭利な刃物の切り口でない辺り、力任せに引きちぎられたのだろう。床に転がった死体の表情は苦悶に歪んでいた。神経質そうな男と少年は一瞬眉をしかめただけだったが、少女二人は青ざめていた。そのうちの気弱そうな少女は耐え切れなくなったのか、口元を抑えてその場から走り去った。


「あの馬鹿、精神訓練くらいしておけよ」


呆れたような声で少年が少女の事をなじる。神経質そうな男はそれを咎めるでもなく、死体を眺めていた。というより、少年や少女の所作に大した興味を示していないようだった。男は暫く死体を眺めた後に死体のステータスを確認した後に少年に告げた。


「間違いない。魂喰らい(スキルイーター)の仕業だ。スキルを一つ残らずに取られている」

「ということはこの凶行も奪ったスキルで、ですか」

「おそらくはな」


魂喰らい(スキルイーター)。それは最近になって街を騒がせている連続殺人犯だ。一般には単なる猟奇殺人となっているが、それは全て人間のスキルを奪う殺人鬼の仕業だ。その手口は何らかの方法でスキルを奪い、その奪ったスキルを見せつけるようにして相手を惨殺するという非情なものだ。その殺人鬼が最近になって頻繁に凶行に及ぶようになった。以前では考えられなかった派手な殺し方をしている事からも次第に人の目を気にしないようになっていることが分かった。このまま奴を放置しておけばさらに凶行に及ぶのも時間の問題だ。

魂喰らい(スキルイーター)。その凶暴なる殺人者が晴彦達の街を脅かそうとしていた。




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