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12-9(P132)

俺の不意を突いた蛇は奇襲攻撃を行うように俺に襲い掛かった。鋭い牙による噛みつき攻撃をなんとか避けた俺はふいに右足首に鈍い痛みを覚えた。噛まれてはいないが牙がかすったようである。同時に激しい眩暈と疲労感を覚えた。牙に仕掛けられていたのは何らかの神経毒に違いない。そう自覚した瞬間に自身の身体に起こる違和感を自覚した。体がいつもより重い。

そんな俺にお構いなしに蛇は執拗に俺を喰らおうとその大きな口を開いて襲ってくる。何度かバックステップで避けたものの、背後からも地面を擦る音が聞こえてきたことによって背後にも蛇の首が待ち構えていたことを自覚した。逃げ場などない。囲まれている。四方八方から襲ってくる蛇の鎌首を避けるものの、俺の身体は徐々に体の自由を奪っていった。このままでは殺される。ふらつく頭でそう思った俺は周囲を見渡した。有難いことに人間一人が入り込めそうな横穴を見つけた俺は飛び込むようにして穴に入り込んだ。穴に入り込むと同時に追ってきた蛇の首が穴の入り口に激突する。俺一人が入り込めるほどしかない穴だったせいか、蛇の頭は内部に入り込めないようだった。何度か穴の入り口の方から数匹の蛇の頭が入り込もうと試みたようだったが、中に入れないことを知って諦めて去っていった。そうこうしているうちにも倦怠感が熱と吐き気に変わろうとしていた。このままではまずい。

そう思った俺はアイテムボックスからエリクサーを取り出すと傷口に躊躇いもなくぶっかけた。煙が出るようにして瞬時に傷口が消えていく。同時に倦怠感が体の中から消えていく。一息ついた後に感じたのはポチ(仮称)に対する凄まじい恐怖の感情だった。何だあれは、殺意が高すぎるにも程があるだろう。

餌をやる前にこちらが餌になってしまう。悪い冗談だ。そんなことを考えたら嫌な考えが頭をよぎった。ひょっとしてマルコシアス爺さんは厄介払いのつもりで俺を洞窟に放り込んだのではないだろうか。


『相手は魔王ですからね。充分に考えられます』

「いや、そうは考えたくない」

『現実を見てください。事実、追い詰められているじゃないですか』


全く持ってインフィニティのいう通りなのだが、俺はそうだとは思わなかった。というより思いたくなかった。短い間柄とはいえあの爺さんが人を騙すような存在とは思えなかったのだ。レディと花売り娘との差は、どう振る舞うかにあるのではなく、どう扱われるかにあるという言葉がある。人が他者にとってどのような存在になるかは取り扱う人間次第という意味合いだったと思う。爺さんは俺を信じてくれた、ならば俺が爺さんを信じなくてどうするというのだ。


「俺は爺さんを信じるよ」

『…言い出したら聞かないのはいつものことですね』


インフィニティは長い溜息をついた後に気持ちを切り替えたように尋ねた。


『ならばどうします』


うん。問題はそれなんだよな。あれだけの数の蛇の頭を持つ相手をどうするかなんて考えもつかない。かといってこのままここにいても身動きが取れないまま時間だけが過ぎていくだけだ。何か良い方法はないものか。


「そういえばさ、八又の大蛇はどうやって退治されたんだっけ」

『日本神話によれば酒に酔った挙句に生贄の娘に変装したスサノオノミコトによって退治されたようです』

「…酒、そうか、試してみるのも一つの手か」


俺はそう思いながらインフィニティに魔法を創造するように命じた。俺がイメージしたのはアルコールの雲の作成であった。範囲魔法という事で際限なく魔力を吸い出されたが、許容範囲内だったために我慢した。出来上がるには半日かかると言われたためにその間はじっと我慢した。ずっと同じ姿勢でいることは非常に苦痛を伴ったが、ひたすらに待ち続けた。




              ◆◇◆◇◆◇ 




突如として起こり始めたピンク色の煙は洞窟内に充満し始めた。充分なアルコールを含んだ雲に洞窟内を埋め尽くすかのように存在した蛇の頭たちは静かに身悶えた後に次々とその場に倒れ伏せていった。

ややあって横穴から這いずるようにして抜け出てきた晴彦は辺りを見渡した。予想していたよりも夥しい数の蛇の頭が横たわっていたことに彼は戦慄したようだった。

静かに身を震わせた後に彼は洞窟の奥へ歩いていった。そこには蛇の本体であろうヒュドラの胴体が動きを止めた状態で寝そべっていた。恐らくはこれがポチなのであろう。胴体にはポチと書かれたプレートが埋め込まれている。彼はそれを確認した後にマルコシアス老人から与えられていた餌袋の中身を取り出して床に置いた。

そして赤ら顔の千鳥足状態で元来た場所へ戻っていった。



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