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12-8(P131)

それからも俺たちはできうる限りマルコシアス爺さんの仕事を手伝いに行った。玄関先や近所の清掃から始まって鶏の餌やりや使われていない農地の開墾、珍しいものでは風呂に使うための薪割りまでも行った。最初は司馬さんを助ける一心で行っていたのだが、普段やっていなかった農村の手伝いというのもやってみると面白いものである。

不慣れな手つきで斧を持ち上げては薪を割っているとマルコシアス爺さんがやってきた。


「腰が入っとらんわ、貸してみろ」


そう言って爺さんは俺から斧を奪うようにひったくると目線で下がるように言った。数歩下がって見ていると爺さんはしっかりした下半身で斧を持ち上げると鋭い振り下ろしで薪を両断した。


「すげえ…」

「凄いものか。このくらいは慣れていればできるものだ」

「はあ…勉強になります」

「全く…変な人間どもじゃな」


爺さんは俺に苦笑した後に斧の切っ先を反対に向けると俺に突っ返してきた。そしてそのまま尋ねた。


「なぜ、ここまでする。石像にされた男はお前たちのなんなのだ」

「恩人、ですよ」

「恩人?」

「ええ。あの人は俺が間違った道に行かないように見守ってくれる保護者のような人です。俺はお調子者だから何かあるといつも調子に乗ってしまいます。あの人はそんな俺に苦言を呈して天狗の鼻をへし折ってくれます。俺はそれに凄く感謝している。だから困っているなら助けるのは当たり前です」

「…慕われているのだな、その男は」


爺さんはそう言って背後をチラ見した。後ろではシェーラとワンコさんが竹ぼうきを使って庭先の清掃を行っている。爺さんはそれを見てしばし考えた後に切り出した。


「…ならばお前にチャンスをやろう」

「本当ですか!」

「このまま周りで騒がれたら敵わんからな」


そう言って爺さんは俺に後についてくるように告げて歩き出した。




             ◆◇◆◇◆◇      




俺が爺さんに命じられたのはポチの餌やりだった。犬の餌やりかよと内心では思ったのだが、ふと嫌な予感がした。この村で普通の犬を飼っているのだろうか。首が三つくらいあるケルベロスくらいは出現を覚悟するべきかもしれない。そう思いながらも俺は爺さんの家の物置の地下にある長い階段を下りていた。洞窟の壁にはたいまつが照らされており、冷たい岩肌を照らしているのだが、ここだけ見ると田舎というよりはどこかのRPGの洞窟にしか思えなかった。ふいに遠くの方で何者かが吠える声がした。身がすくみあがる思いをしていると脳内で聞き慣れた声がした。


『マスタ―、なんですか、今の不気味な咆哮は。どこですか、ここは』


俺の身体の中で眠っていたインフィニティが目を覚ます。魔王村が怖すぎて俺の体内に入っていたんだよな、こいつ。ようやくお目覚めかよとツッコミを入れながら俺は状況を説明した。インフィニティは話を聞くなり逃げようとした。なので俺は脳内で奴が逃げ出すのを禁止した。


「俺が死んだらスキルであるお前も活動できなくなるぞ、それでもいいのか」

『うう、絶対ヤバいですって。魔王のペットですよ』

「まあ、普通の犬ではないだろうな」


洞窟を下りていくと次第に岩肌が湿っているようになった。どのくらい深く降りたのかよくわからないくらいだ。ようやく階段を下り切った後には大空洞が広がっているようだった。ただし、ろくな光源などないためにどのくらいの広さで奥行きなのか判断することができない。

魔法を使えないかな、そう思って持続光を使ってみると普段のものとは比べ物にならないくらいに弱弱しい光を放ちながらも明かりをつけることができた。


「スキル、使えるじゃないか…」

『村の本拠地から距離が離れた影響かと…』

「千手観音とかは使えるか」

『使えることは使えますが複数のスキルを同時に使用することはできなさそうです』

「一個使えれば上等だ」


俺は頷いて周辺の魔力感知を行った。いる。洞窟深くにでかい魔力の塊がいる。この質量はなんだ。しかも複雑に蠢いている。犬ではないのは確実なようだ。


「明らかに『ぽち』なんて名前つけてはあかん生物だろう」

『魔王にとっては可愛らしいペットなんですよ』

「うう、やだなあ」


俺達は仮称『ぽち』に気づかれないように気配を殺しながら洞窟の奥へ進んでいった。明かりで周囲を照らすとどうやら天然の鍾乳洞のような作りのようだった。水の音もすることから地下水脈もあるのかもしれない。魔力感知で察知できた気配まで近づいてきた後に俺は恐る恐る奥を眺めた。いた。俺の身体くらいはありそうな巨大な頭の蛇が一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十、十一、十二、十三、十四…。


数えきれない。


ヒュドラにしてもやり過ぎだろう。八又の大蛇よりも首の数が多いとかあり得ない。蛇たちは目を瞑って休んでいるようだった。目を覚ましてないで良かった。これならば足元に餌を置いて帰れば食べてくれるはずだ。そう思いながらこっそり近づこうと画策していると、ふいに背後からシュルシュルとおかしな声がして肩を叩かれた。


「インフィニティ、悪戯やめろって」

『へ?私は何もしてませんよ…マ、マスター、後ろ、後ろ向いてください』


一体何だというのか。背後を振り返った俺はその場で固まった。蛇の首の一つが鎌首をあげながら俺たちを睨みつけていたからだ。鬼灯のように真っ赤な目が凄まじく不気味だった。その瞬間、ほかの蛇の首たちが一斉に目を見開いた。



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