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12-4(P127)

カーナビに従って車を走らせていくと次第に山の方へ山の方へと向かっていった。雨は降りだした時よりも勢いこそなくなったものの、今だ止む気配もなく降り注いでいた。先ほどの事もあり、誰一人口を開かなかった。車は更に山の方に向かうのだが、次第に道も舗装されていない山道に近くなっていた。


「あぜ道だけど大丈夫か」

「一応4WDなので大丈夫だとは思うんですが」

「思ったより馬力あるんだな」


どのくらい馬力があるのか知らないが、下手に聞いたら10万馬力ですとか平気で言いそうなので黙っておいた。そもそもこの車がガソリンで走っているのかが非常に怪しい。怪しい腕とかついているしなあ。さっきの幽霊騒動もあったが、一番恐れるべきなのはこの車なんじゃないだろうか。

そんな物思いに耽っているといつの間にか車は停車していた。目的地に着いたのかと思ったが、どうやら道が細くなっているために車で行けるのはここまでとのことだった。


「ハル君、どうする。ここからは徒歩でしか行けないようだが…」

「雨が止むまで少し車内で待つことにしましょう。皆、長時間の移動で疲れてますよね」


皆の口数が少なくなっていることに気づいていたので、いったん気分を切り替えるために小休止を取ることにした。休憩を取ることになったのはいいが、どうにも腹が減っていることに気づいた。何か食べ物なかったかなとアイテムボックスの中を探してみたが、すぐに食べられるものなどなかった。そんな俺にシェーラがサンドイッチを差し出してきた。


「ハル、これ、良かったら食べてください」

「ありがとう、シェーラ。いつの間に作ったんだ」

「朝に早起きして作りました。壱美やクリスさんの分もありますからみんなで食べましょう」


なるほど。やけに大きな手提げ袋を持ってきているなと思ったらそういうことか。シェーラが作ってきたのはオーソドックスなハムサンドと玉子サンド、そしてツナサンドだった。俺は礼を言って玉子サンドを手に取ってかぶりついた。細かく切ったゆで卵とマヨネーズ、塩コショウの味付けだけなのになんでこんなに旨いんだろうな。


「旨い…しみじみ旨い…」

「へえ、そんなに旨いなら僕も食べようかな。あ、普通に美味しいや」

「シェーラは王女様なのにこんなこともできるんだな」

「ハルの家で鍛えられましたから」

「皆ずるい―、私も食べたいです」

「インフィニティ、お前、物を食べることができたっけ」

「できますよ、でも食べ終えてマスターの身体の中に戻るとマスターに栄養補給されて太りますが」

「当分戻ってこなくていいよ」

「ひ、ひどい!」


そんなやり取りをしていると暗くなっていた車内の雰囲気も明るくなってきた。

サンドイッチを食べ終えるころには雨も降り止んだようだった。行くなら今しかないだろう。


「さて、行きますか」


俺はそう言って皆を伴って車の外に出た。雨は止んだようだが、周囲が暗いために明かりが必要だった。家から懐中電灯を持ってくればよかったなと思ったらインフィニティが助言をしてくれた。


「マスタ―、こういう時こそスキルの出番ですよ」

「そうか。【ご神体モード】」


瞬間、俺の体内から金色の光が放たれる。明るくなったのはいいのだが、これは眩しすぎる。


「晴彦君…流石にそれは目立ちすぎるよ」

「ハル、基本的な【持続光】の魔法とか使った方がいいのでは」


クリスさんとシェーラに突っ込まれて俺は渋々【ご神体モード】を解いた。便利なんだけどお気に召さなかったようだ。俺は手ごろな木を拾うとインフィニティに命じて【持続光】の魔法を使った。木は懐中電灯のように周囲を照らしてくれた。これならば歩けるだろう。準備ができた俺たちは暗い山道を歩き始めた。




                 ◆◇◆◇◆◇         




暫く歩いて分かったことなのだが、舗装されていない山道というのは非常に歩きにくいものだった。ただでさえ雨の後でぬかるんでいるというのに道の所々に岩が突き出ているものだから歩きづらい事この上ない。クリスさんやワンコさんはともかくか弱いシェーラには少し酷な道行だったためになるべく彼女を気遣って歩くことにした。


「シェーラ、大丈夫か」

「…ハル、ありがとうございます」


一人で歩くのは困難な足場では彼女の手を取って引き上げてやる。文句の一つも言わずに気丈だな。奴とはえらい違いだ。そう思って俺は文句ばかり言うインフィニティをチラ見した。


「歩き疲れましたよ、マスター。少し休憩しましょうよ」

「いつ雨が降ってくるか分からないんだ、休んでられるか」

「全く…シェーラ姫の事は気遣うのにスキルに対する思いやりがないですよ」

「お前は俺と同等の能力を持ってるだろうが」

「…むう…あ、そうだ!空を飛べばいいじゃないですか」

「それはやめといた方が賢明だね」


インフィニティの言葉を否定したのはクリスさんだった。山道を歩き出してからやけに周囲を警戒していたようだが、どうかしたのだろうか。


「周囲の魔素が不安定になっている。それでなくとも障害物が多いからね。下手に飛ぼうとしたら墜落する可能性もある」

「うう、いい考えだと思ったのに」


下手の考え何とやらというやつだ。その場でうずくまるインフィニティに俺は声をかけた。


「全くしょうがない奴だ。そんなに疲れているなら俺の体内で休めばいい」

「やったー、マスター、男前!」


そう言ってインフィニティは俺の腹に飛び込むとブニブニと融合を果たしていった。その姿を見てクリスさんとシェーラが青ざめている。どうかしたのだろうか。


「いや、何度見ても下手なホラーより不気味な光景だなと思ってね」

「あの光景はトラウマになりますからねえ…」


そこまで不気味な光景だろうか。そんなことを思っていたら先頭を歩いていたワンコさんが青ざめた顔をして戻ってきた。


「皆、ちょっと来てくれないか。見てもらいたいものがあるんだ」

「どうしたんです、ワンコさん?」


何か様子がおかしいことに気づいた俺たちはワンコさんに言われるままについていった。そして言葉を失った。ワンコさんが案内した先には朽ちかけた地蔵尊が並んでいたからだ。地蔵尊達は俺達を見下ろすような位置で静かに佇んでいた。地蔵の数は10体並んでいたが、問題なのはその首だった。10体のうちの四体の首が首を刎ねられた状態で並んでいたのだ。残りの地蔵尊はただ穏やかな顔をして佇んでいるだけである。その穏やかな顔がこれから死に向かう殉教者のように感じられて逆に不気味だった。

嫌な気分になりながらも俺は確信した。この先に馬翁村があることを。



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