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12-3(P126)

程なくして車は高速道路に入った。てっきり料金所で止められるかと思ったが、この謎の自動運転はしっかりとETCレーンに規定速度で入っていった。というかETCをいつの間に内蔵したんだ。考えれば考えるほど謎であったが、突っ込みだしたらキリがないので敢えて気にしないことにした。運転席のワンコさんは恐怖で疲労しきった様子だったが、だいぶ落ち着いたのか俺に話しかけてきた。どうやらそのくらいの余裕は出てきたようである。


「ハル君、さっきは取り乱してしまってすまない」

「いえ、こちらこそ無茶を言いました。しかし、その腕たちの事はもう大丈夫なんですか」

「ああ、最初は怖かったが、だいぶ慣れたよ。肩をマッサージしてくれるのがちょうどいいくらいだ。ああ、そこ、気持ちいい…」


そう言った後にワンコさんは心地よさそうな顔をした。そんな彼女の肩を謎の腕たちが丹念に揉んでいる。紅潮しているワンコさんの顔を見るとなんだか卑猥だな。


「気持ち良さそうですね。流石はマスターの腕をモデルに作り上げただけはあります」


後ろからインフィニティがとんでもないことを口走ったぞ。ぎょっとなって俺は自分の手と謎の腕を見比べた。言われてみれば自分のものと酷似した形状をしているではないか。このポンコツ、なんてことをしてくれるんだ。どうやって奴を仕置きするか考えていたらワンコさんが急に色っぽい叫びを上げた。


「ふあっ!そ、そこはマッサージしなくていいから……」


おいこら!俺の腕の偽物のくせして俺でもできないことを躊躇いなくするんじゃない。じゃなかった、何をしとるんだ、貴様らは。俺が怒って注意すると腕たちはすいませんでしたと両手で拝みながら謝罪を入れてきた。意志の疎通、できてるじゃないか。


「エッチなところは晴彦君に似たのかな」

「ハル、壱美が嫌がってるからやめてください」

「俺がやってるわけじゃねえよ!!」


冤罪もいいところだ。このポンコツ腕をどうにかする手段はないものか。そう考えていると謎の腕の一つがにゅいんと伸びて俺の肩をポンポンと叩いた。何かと思って指さす方向を見てみると次のサービスエリアまで5kmという風にカーナビに表示されていた。行くべきかどうかの指示を出してほしいようである。俺がSAに向かうように指示を出すと腕の一つが親指を出して任せておけといったジェスチャーを取った。


「なんか、ポンコツさんと違って気が利くな、お前ら…」

「マスター、聞きづてならないことを言いませんでした」

「いや、正論しか言ってないよ」


インフィニティが後ろでギャーギャー騒ぎ出したが、俺は構わずに無視をした。




             ◆◇◆◇◆◇       




サービスエリアでしばしの休息を取った俺たちはその足で馬翁村方面へ向かった。暫く経って随分と山の方に来たなあと思ったら車が急に高速出口の車線に入り始めた。何というか表示されている地名がやばい。「後追峠」って洒落が効きすぎているだろう。慌てて道路地図帳を確認すると確かに馬翁村方面はこの降り口で正解のようである。カーナビの役割も大きいが、謎の腕たちの活躍が目覚ましい。ナビ役を引き受けたはいいが俺の存在意義って謎の腕より劣るんじゃないだろうか。自分の存在意義について熟考しようかどうか考えていると後部席のシェーラから声をかけられた。


「ハル、なんだかこの辺りは薄気味悪くありませんか」

「そうかな」

「魔力が不安定な気がします。落ち着きません」

「魔力の力場が安定してないんだろう。こういう場所はアンデッドが生まれやすいんだ」


よせばいいのにクリスさんが不気味なことを言うから急に怖くなってきた。確かに妙だ。周囲を山で囲まれた山岳地帯のせいか辺りには建物もまばらなのに今時見ないような木製の屋根がついたバス停だけが道の脇にぽつんと建っている。昭和にタイムスリップしたような錯覚に襲われる。バス停というよりは社に近いんじゃないか、あれは。

周囲の人の気配も全くない。嫌な雰囲気だな。そう思っていたら窓ガラスにぽつりぽつりと雨粒が落ちてきたのが分かった。雨粒は次第にその数を増して豪雨へと変わっていった。こういう時の雨って不気味さを助長させるよな。そんなことを思っていたら雷まで鳴り出す始末である。何となく皆の口数が少なくなるものだから嫌重苦しい雰囲気が車内を包み込んだ。その時だった。シェーラが急に短い悲鳴をあげたのだ。


「どうしたの、シェーラ」

「今、あの家の二階に人影が立っていたのが見えた気がして…」


シェーラが指さしたのは朽ちかけた家であった。半分焼けただれた様子から火事があって久しいことが分かった。家の周囲は長い間の手入れがされていなくて周囲一面が草まみれである。普通に考えてそんな場所に人が棲むとは思えなかった。


「さ、参考程度に聞くけどさ。どんな人影だったのかな」

「はっきりとは見えませんでしたが、子供を連れたおばあさんでした。手招きしてたんです」


聞くんじゃなかった――。凄まじい後悔の念に駆られた俺にインフィニティが補足する。


「あの場所は廃棄されて数十年は経っていると思われます。半焼している様子から察するにまともに二階には上がれないものと推測されますが…」

「いいから。解説しなくていいから」


物凄く帰りたくなってきた。だが、本当の恐怖はこんなものではなかったのだ。



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