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■■県の山奥に位置する村、馬翁村。それは現在では道路地図帳から消去された存在しない村である。大正時代に口にするのも悍ましい凄惨な事件が起きて住民が皆殺しになった後は人が住み着くことはなかったと言われている。だが、最近になってその村に人が住み着いたという情報がインターネットなどで噂になっていた。夜になると誰もいないはずの集落に明かりが灯るという。地図からも消されているために正確な場所も把握できない村の目印は村の入り口に奉られた首のない地蔵尊だという。ただ奇妙なことに首のない地蔵尊の数は訪れた人間の数とピタリと一致するのだ。まるで訪れたものを決して帰すことがないとでも言うかのように地蔵尊たちは山奥でひっそりと訪問者を待ち続けるという。
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PCの動画を見終えた俺は引きつった笑いを浮かべた。冗談きつい場所だよ。この現代にそんな呪われた場所があってたまるか。怖さを打ち消そうと虚勢を張ろうとしたのだが、場の空気はとてつもなく重かった。ワンコさんは真っ青な顔をしているし、シェーラに至っては今にも泣きそうである。正直なところ、俺もこういうお化けとか呪いとかは得意ではない。普段、お化けみたいな千手観音を使っているではないかというツッコミを入れられるかもしれないが、自分が使っているのと相手に脅かされるとでは全く意味合いが違う。
司馬さんの事がなければこんな怖い場所に行きたくない。
「一応聞くけどさ。本当にあの石像が司馬さんだと思うか」
「画像解析を行ってみましたが90%の確率で司馬捜査官と一致します」
「本当に司馬君だとしたらやばいよ。石化っていうのは時間が経てば経つほど解呪が難しくなる。行くならば一刻も早く駆け付けるべきだ」
クリスさんはそう言うのだが、正直なところ行きたくない。というか怖い。
「私からも頼む。ハル君、一緒に来てくれないか。司馬さんのことは心配だが、一人で行くのはあまりに怖い…」
ワンコさんがそう言って俺の服の袖をぎゅっと掴むものだから断るに断れない。
「あの、私も同行しますね。ゴースト系の相手ならターンアンデッドの心得がありますから」
気丈にもシェーラがそう言うのだが、君はさっき泣きそうだったよね。女性陣二人にそんなことを言われたらいよいよ断れないじゃないか。そんな打ち合わせをしていたらPCの画面をキーボードでいじくっていたインフィニティが振り向きざまに元気よく挙手する。
「あ、あの、私は今回パスでいいですか。怖いの苦手なんで」
「貴様も来るんだよ、ポンコツスキル!!」
頭に来たので思い切りこめかみを両拳で締め上げてやった。まあそれはいいのだが、これだけの人数が移動するとなると移動手段が必要である。そのことを尋ねるとワンコさんが頷いた。
「犯人護送用の護送車があるからそれで行こうか」
「ちょっと待ってください、良識派代表。貴方まで錯乱したこと言い出したら収拾がつかないでしょう」
「しかしミニパトだとこの人数は載せられないぞ」
恐怖で錯乱したかと思ったがあながちそうでもないらしい。レンタカーを借りるという手もあるが、それだと金がかかり過ぎる。どうするべきかと悩んでいたらインフィニティが提案してきた。
「マスター、魔法で作りましょうか、スーパーカーを」
「そんなことできるのか」
「この万能鑑定スキルにお任せあれ」
たまには役に立つことを言うものだ。俺はその提案を信じてインフィニティに全てを任せることにした。横から話を聞いていたクリスさんがそれに突っ込む。
「おい、それはやめた方がいい。今までの反省を忘れたのか」
そう言われると途端に不安を覚えた。確かにクリスさんの言うのはもっともだ。このポンコツの事だ。放っておいたらとんでもない車を作成するに決まっている。
「…おい、インフィニティ。参考程度に聞くがどんな車を作る気なんだ」
「…えっと、こういうやつですが」
そう言って彼女が見せた画像は迷彩色のどう見ても装甲車にしか見えない車だった。普通の車はタイヤが8本くっついていたり、天井に機銃などついていないよ。というかお前、何を参考に何を作る気だ。
「えへへ、カッコいいし強いかなと思いまして」
「どこの戦場に行くつもりだ、お前は」
「そうだよ、インフィニティ。男だったらガルウイングのスポーツカー一択だろう」
「あんたもおかしいから。スピード狂か」
歯止めをかけるクリスさんまでそんなことを言い出すものだから俺は溜息をついた。