2-6(P12)
それからさらに二週間が過ぎた。最初の一週間に比べて体重の減り具合が若干減りはしたものの2kgの減量に成功した。トータルにして10㎏の減量に成功したわけである。今までのダイエットではこうはいかなかった。気のせいだろうか。お腹周りが若干すっきりしたような感じがする。
そんな俺が最近になって気になっていることがあった。
同じく食事制限をしているにも関わらずシェーラが全く痩せる気配を見せないのだ。あまりにも見た目が変わらないことに不安を覚えた俺はシェーラに内緒でステータス確認を行ってみた。結果として分かったのは彼女のもともとのステータスの肥満体質【70/48】から全く変わっていなかったことだった。幾らなんでもあり得ないだろう。不審に思った俺は原因が何かインフィニティさんに尋ねてみた。
『おそらく何らかの形で栄養を補給している可能性があります』
何らかの形ってなんだよ!インフィニティさんの言葉に俺はツッコミを入れずにはいられなかった。このアパートから出ていない以上、栄養補給の手段は三食の食事以外にないはずだったからだ。四六時中を一緒に過ごしている以上、俺の目を盗んで外出しているとも思えないしなあ。疑問が多すぎることを口にするとインフィニティさんはしばし思案の沈黙を行った後にこう提言してきた。
『気になるのであれば彼女に鑑定スキルを使用することを進言します』
「いや、黙ってやるのは卑怯じゃないか」
『ステータスオープンさせることも裸を見ることも公衆道徳という面では大差ないと思われますが』
う、うるさいなあ。反論できなくなった俺は赤面しながら自らの行動を顧みた。確かに対象者の承認のない状況でステータスを確認することは覗きをやっていることと何ら変わりがない。仮に自分がステータスを盗み見られて体重の事を馬鹿にされたら烈火のごとく怒り狂うに決まっている。そう考えると自らの行動の下種さに辟易した。
だけどシェーラが心配であるのも確かである。数週間を一緒に過ごして分かったが、彼女は決して自分の肥満体質に引け目を抱いていないわけではない。むしろ大変に気にしているのだ。だから原因を究明して改善につなげることは彼女のためになるのだと自らに言い聞かせて行動に移ることにした。
◆◇◆◇◆◇
数週間をディーファスという住み慣れた世界から日本という異国で過ごすことになったシェーラも順応していた。その最たる例がテレビである。最初こそ薄い板に映像が映ることに驚いていた彼女も仕組みが分からないものの地球ではテレビを見ることが普通だと慣れてしまったようである。そんな彼女のお気に入りはお昼前にやっている時代劇だった。
暴れん坊代官と名付けられた一昔前に流行った時代劇は勧善懲悪という観点の元で物語が進んでいく。見慣れ散る俺などは主人公が絶対に死なないことが分かっているために冷めた目でみてしまうのだが、その点でシェーラの反応は新鮮だった。いつもクライマックスの殺陣のシーンになると呼吸も忘れるほどに夢中になるのだ。日本語こそ理解していないものの俺に注釈されることで話の内容が分かっているシェーラはこの殺陣のシーンで主役が斬り殺されるのではないかと気が気でないのである。俺はこの殺陣のシーンが鑑定スキル:∞を行使する好機であると判断した。だからシェーラが殺陣のシーンに夢中になる様子を横目で眺めながら小声で鑑定スキルを呼び出したのである。
瞬間出てきた彼女の首元の装飾品に俺の目は釘付けになった。その首飾りには黒い背景に白抜きの文字でこう書かれていた。
『【肥満の呪い】の首飾り。
シェーラ姫が母親の形見として受け継いだ首飾り。別名『守護の首飾り』。元は多くの加護の呪文が込められていたが何者かの策略によって加護の呪文を書き換えられてしまっている。この首飾りをしている限り痩せることはできず、食べれば食べるほど体の脂肪に変換される』
なにこれ、酷すぎるにもほどがあるだろう。大事だった母親の形見を身に着けることで肥満体質になるなどあり得ない。下手をすれば加護が書き換えられていることも知らないんじゃないか。一刻も早く首飾りを取らせるべきである。そう思った俺は計画を練ることにした。