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10-8(P110)

次の日、俺はクリスさんとシェーラを集めて新たなスキルである【ガリバースペース】のお披露目会を始めることにした。クリスさんは当初は訝しげだったが、俺の説明を聞くうちに早く中に入れろと興奮気味にまくし立てた。なので説明もそこそこに中に入れることにした。


「【ガリバースペース】!!」


瞬間、俺たちの目の前に異空間に繫がる鋼鉄の扉が現れた。恐る恐る扉を開くと眼前にはそびえ立つほど大きな茶褐色の山があった。鼻孔をくすぐるのは仄かな紅茶の香りから、この山が俺の作ったシフォンケーキであることが分かった。ガリバースペースに入る人間の大きさはアリ程度になるのだ。中に入ってシフォンケーキの大きさを確認することにしようかと思ったが、すぐに諦めた。軽く見上げても頂上がどの辺りにあるのか簡単には分からないほどの大きさだったからである。完全にお菓子の家の世界だな。そう思いながら見上げているとクリスさんとシェーラが大興奮で詰め寄ってきた。


「ねえ、これ食べていいの!食べていいよね!食べるからね!」

「ハル!私も食べたいです!」

「…ど、どうぞ」


二人のテンションの上がり具合に若干引き気味になりながらも俺はシフォンケーキの山を食べる許可を出した。そこからの二人の勢いは凄かった。クリスさんは凄まじい勢いでトンネルを開けるように貪りだしたし、シェーラも手に抱えるほどの大きさのものを一生懸命に食べながら顔を紅潮させていた。なんとも美味しそうだな。


「シェーラ、美味しいかい」

「ハル、このケーキ、凄いフワフワで、口いっぱいに紅茶の香りと幸せが広がって、私、もう駄目になりそうです」

「うん、ちょっと落ち着こうか」


シェーラの世界にもケーキはあるそうだが、この喜びようから察するにシフォンケーキは存在しないんじゃないだろうか。あまりにも美味しそうだったので俺も少し味見することにした。とりあえずケーキの外壁の一部をちぎって食べてみる。食べてみてびっくりした。表面の一番柔らかい部分なので凄く美味しかったからだ。自分達が小さくなったことでこの部分が大量に食べれるのは意外な発見だ。無言で食べてしまいそうになって、慌てて我に帰った。これはやばい。


「シェーラ、あんまり食べると太るから自重しないといけないよ」

「ええ~、もう少しだけいいですよね」

「う~ん、もう少しだけだよ」


そんなやり取りをしているとビルの3階くらいの高さの所まで食べながら駆け上がったクリスさんがケーキの外壁から顔を出して声をかけてきた。


「ハル君!!僕は君を完全に見くびっていたよ!まさかこんな素晴らしい発明をするなんて。これならば僕でも簡単には食べきれない!僕は暫くこの空間に住むからね」

「う、うん。それは構わないよ」


まさかの居住スペース化である。どれだけ餓えてるんだよ、あんたは。そんなことを考えながらも俺はシェーラに告げた。


「シェーラ、俺たちは少ししたら戻ろうか」

「ええー…」

「冷蔵庫に昨日作ったプリンがあるからさ」

「プリン食べたいですっ!!これすぐに食べますから」


プリンに釣られたのかシェーラは持っているシフォンケーキをパクパク食べ始めた。あれだけあったのに半分くらいになっているじゃないか。そんなやり取りをしていたら上の方からクリスさんの声がした。


「ずるいっ!僕もプリン食べたい!!」

「あんたの巨大プリンはあっちにあるから!!」

「本当かい!!プリンの海で泳げるというのかっ!!!ふおおおおおっ!!」


なんとも形容しがたい雄たけびを上げているクリスさんを置いて俺とシェーラはガリバースペースを後にした。




           ◆◇◆◇◆◇        




自室に戻った俺とシェーラはなめらかプリンを堪能していた。スプーンでひとすくいして口の中に入れるたびにシェーラは幸せに身を震わせていた。作った俺の方が幸せになれるような笑顔だった。


「ハル。私、地球に来れてよかったです」

「喜んでくれて本当によかったよ」

『…マスターの料理、私も食べたい…』


シェーラがそう言ってくれたことだけでも作った甲斐があったというものだ。俺はそう思いながら自分のプリンにカラメルを絡め合わせて口の中に入れた。なめらかさなプリンの甘さにほのかに苦いカラメルがよく合う。そしてこのプリンにはブラックコーヒーが良く合うのだ。こうして俺たちは平和な昼下がりを堪能したのだった。




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