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訓練を始めてから2週間が経過した頃、俺の身体に驚くべき変化がもたらされていた。
見事なまでに体重が減っているのである。風呂上りに全裸の状態で体重を図っていた俺は驚愕していた。それはそうだろう。デジタル表示の体重計の表示には126kgあった体重が118kgになっていたのだから。表示が間違っていないならばこの2週間で8kg減ったことになる。どういう魔法だ、これは。驚いている俺にインフィニティさんの説明が入る。
『簡単な理屈です。野菜中心の生活に切り替わったことで炭水化物や糖分による備蓄がなくなりました。それによって効率のいい脂肪燃焼が行われるようになったのです。加えて言うならばマスターがこの2週間の深夜に行っていた怪しいストレッチ体操によって基礎代謝も上がっていたものと思われます。』
いやいや、簡単に言ってるけどかなり凄いことだよね、これは。インフィニティさん、いや、インフィニティ様。ここにきて俺は自分がかなり恵まれた立場にいるのではないかということに気が付いた。普通の異世界転生ものの主人公が持っているチートスキルが俺にとっての鑑定スキル:∞なんじゃないだろうか。俺の考えを読んだのか、気のせいかインフィニティさんはふふふと笑った気がした。
賞賛だけではなくツッコミも忘れない。怪しいストレッチ体操ってなんだ。必殺技の練習といいたまえ、必殺技の練習と。努力の結果を形として示すために俺は大きな声で宣言した。
「ステータスオープン!」
藤堂晴彦
年齢:32
Lv.1
種族:人間
職業:異界の姫の保護者
称号:公園の怪人『豚男』 強制送還者
体力:15/15↑
魔力:2/2↑
筋力:10↑
耐久:15↑
器用:8
敏捷:9↑
智慧:12
精神:9↑
ユニークスキル
〈ステータス確認〉
〈瞬眠〉
レアスキル
〈鑑定〉Lv.∞
〈アイテムボックス〉Lv.0
スキル
名状しがたき罵声
金切声
肥満体質【118・58】
鈍足 【1265/420000】
魔法の才能の欠如【36126/65000】
運動神経の欠落【58/65000】
人から嫌われる才能【6320/120000】
〈アダルトサイト探知〉Lv.10
あらためてステータスを確認して驚いた。地味にステータスが上がっている。無論特筆すべきは一日3000の経験値獲得を目指して訓練を行った魔法の才能の欠如【36126/65000】なのだが、筋力や敏捷、さらに魔力といったステータスまでが上がっているのは予想外だった。このままいけば魔法が使えるようになるのも夢ではないだろう。
『こけの一念 岩をも通すと言いますが、凄まじい影の努力をなさってますね。特殊な称号を獲得してますが。』
「え?」
不思議に思った俺は称号のところに書かれている【公園の怪人『豚男』】という言葉をまじまじと見た。そして全裸のまま髪をかきむしりながら大きな声をあげた。
「なんじゃあこりゃああああっ――!!」
一昔前の刑事ドラマの若い刑事の殉職シーンのような叫びをあげる俺にインフィニティさんが冷静に解説してくる。
『ご近所で噂になっているようです。最近、深夜の公園で夜な夜な不可解な動きを見せる不審人物がいるということでして…それより前を隠さなくてよろしいのですか。』
え?インフィニティさんの言葉に我に帰った俺は絶句した。俺の叫びに異変を感じて駆け付けたシェーラが俺の一物をまともに見てしまい、赤面したまま石像のように固まっていたからだ。
「…ぞうさん、ぱおんぱおん…」
口をぱくぱくさせながらそう呟くシェーラから俺はおっきしかけた息子を慌てて隠した後に大丈夫だから風呂場から出るように促した。ショックが大きかったようでしばらく放心していたシェーラはふらふらした足取りで去っていった。大丈夫だろうか。
しかし「ぱおんぱおん」て。異世界に象なんているんだろうか。そんなことを思いながら 俺は服を着始めた。
◇◇◇◇◇◇
風呂から上がった後に俺はシェーラに少し出かけてくると言い残してアパートから出た。目的は一つ、魔法の才能の欠如を克服するための訓練を行うためである。公園の怪人『豚男』なる怪しげな称号を得てしまったものの、それに怯んで訓練をしないわけにはいかない。フードサックを深々と被って顔が分からないようにした後に俺は公園に向かって歩き出した。湿気を含んだ夜の風が心地いい。前に比べれば外に出るのは苦ではないが、それでも人と会わないようにしたい。ましてやはた目から見れば怪しい体操をしているようにしか見えないことをしに行くのだ。目撃なんてされたくはない。
そんな心境で歩きながらも幸いなことに誰ともすれ違うことなく公園までたどり着くことができた。
公園の敷地内に入った俺は周囲に誰も居ないことを慎重に確認した後に訓練を始めた。
何もない空間に向けて手のひらに集中させた魔力の塊を放つイメージで撃ち出す。それを精神集中しながら繰り返す。魔力が実際に集まっているわけではないのだが、集中するとそれなりに疲れが溜まってくる。そんなことを30回ほど繰り返した時だった。視界の端に赤いものが映った。やばい、パトカーの巡回だ。やばいと思ったときには時すでに遅く、懐中電灯をかざした警察官がやってきた。
「こんな時間に何やってるんだい」
「た、体操ですよ、体操」
「最近、この辺で不審者が目撃されてるんだけどまさか君じゃないよね」
「はは、不審な人がいるんですね」
しどろもどろになりながらも、俺は何とか警察の目をごまかしながら公園から出た。あまりに焦ったあまりに立ち去るときに転げたのは言うまでもない。




