10-4(P106)
次の日、俺は朝のウォーキングを終えた後に部屋でスキルの確認をしていた。実は昨日の湊が帰った後にインフィニティさんから新たなスキルが得られたとアナウンスがあったからだ。ちなみにアナウンス内容は以下のとおりである。
『人に嫌われる才能を克服しました!マイナススキルの克服により新たに【カリスマ】【聖者の行進】【ニコポ】【リア充爆発】【御神体モード】を獲得しました』
カリスマは分かるのだが、ほかの4つのスキルは意味不明であった。聖者の行進とは一体いかなるものなのか想像もつかない。ニコポに至っては言葉の意味が分からなかったためにネットで調べてみると微笑んだだけで女の子が顔を真っ赤にさせるというものであった。何だ、この特殊能力は。変なものがあるものだな。少々びっくりしてしまった俺はインフィニティにニコポの内容が本当にそれなのか尋ねてみた。
『マスター、使ってみれば分かりますよ』
そう言われると若干どころではない不安が残るのだが。こいつが自信満々にしている時にはたいてい恐ろしいことになるというのは今までの出来事で経験済みである。まあ、試してみないことには仕方ないか。そう思っていると洗濯物を取り込み終えたシェーラの姿を見かけたために早速試してみることにした。シェーラがこちらを見るように仕向けた後にスキルを発動する。
「【ニコポ】発動!」
瞬間、シェーラの顔が真っ赤になった。だが、それだけでは止まらなかった。何とシェーラの顔面から本当に火が出始めた。というか火炎放射器のように顔から火が出続けている。
「きゃああああっ!!!火が、火がついてます!!」
見ている方もドン引きである。まさか俺のスキルで顔から火が付くとは思わないではないか。仰天のあまりに慌てて水魔法をシェーラの顔面にぶっかけると水浸しの状態になったシェーラが恨めしそうにこちらを見ていた。
「ハル、これは一体どういうことでしょうか」
「あ、あはは、違うんだ、シェーラ」
昨日の事も手伝ってか、その場で正座させられた後にこってりとお説教された。シェーラいわく下手をすればトラウマになっていたのでスキルを使用する際は慎重に使うようにと言い含められた。ニコポで燃え盛った顔面が火傷一つ負っていないことだけが不幸中の幸いである。
お説教が終わってしょんぼりした俺は外に出ることにした。今回は失敗したのだが、今後のために新スキルを確認する必要があると思ったからだ。ニコポなどという怪しいスキルを使用したから不味かったのだろう。ならばまともそうなスキルを使用するのが一番だ。そう思った俺は【聖者の行進】というスキルを使用してみることにした。とはいっても誰かがいると先ほどのように巻き添えを食う恐れがある。人気のないところを選んで俺はスキルを使用した。
「【聖者の行進】発動っ!」
瞬間、体の表面が薄く発光したのだが、特別には何も起こらなかった。どういう事だろう。疑問を感じたが、とりあえずは歩いてみることにした。
10分ほど歩いたところで俺は違和感を覚えた。何やら俺の後ろで動物の気配がするのである。おかしいと思って振り返るとやけに野良犬や野良猫の数が多いことが分かった。え、どういうことだ。これではまるで俺に付き従って歩いているようではないか。怖くなった俺は振り返るのをやめて再び歩き出した。
それから10分後。何やら先ほどよりも動物たちの気配が増えたような気がする。背後を振り返って仰天した。そこには先ほどの犬猫だけでなく雀や鳩、そして何故か馬や鹿の姿まであったからだ。流石に怖くなった俺は動物たちを引き離すために速足で歩き始めた。駄目だ、全然引き離せない。
5分程度経ってから振り返ると動物たちの群れは後ろが見えないくらいに増えていた。さらに怖かったのは通りすがる老人たちがなにやら俺に対して手を合わせて拝んでいる姿である。皆、口々に「ありがたや、ありがたや」「長生きしてみるものじゃて」「生き神様じゃ」と言っていた。中には目に涙を浮かべるご老人まで現れる始末である。本当に申し訳ないのだが、俺は仏様ではない。一体どうすればいいんだろう。そうだ、スキルを解除すればいいと思ってインフィニティにそれを伝えるとどうも一度発動すると一時間はこの状態のままで神速なども使用不能になってしまうらしい。困り果てた俺はそのまま歩き続けるしかなかった。
頭が痛いな、そう思ったのは俺が歩く道筋の側面の道路が警察によって閉鎖されていたことである。何を思ったのか、すれ違いざまに「ご苦労様です」と言われる始末である。何がご苦労様なものか。出来ることならパトカーで連行してもらえた方がこの騒ぎを収拾できるというのに。司馬さん、助けてくれ。
ようやくスキルの発動が終わった頃には気疲れでへとへとになっていた。
◆◇◆◇◆◇
聖者の行進によって引き起こされた大惨事の翌日、新スキルを使用することが怖くなった俺はしばしの間スキルを試すのを控えることにした。まあ、内容は気になったので効果を聞いてみると【ご神体モード】は使用者自身の身体が眩く発光するらしい。目くらましにでも使えるのだろうか。聞き捨てならなかったのは【リア充爆発】である。使用効果はどうなるのかと聞いてみるとインフィニティは即座にこう言い放った。
『周辺一帯のリア充がもれなく爆発します』
ツッコミ疲れた俺は即座に使用禁止棚にスキルを放り込んだ。残念そうなインフィニティの声などガン無視である。このポンコツ、俺に恋人専用のテロリストにでもなれというのだろうか。そんなわけで俺はスキルの事は忘れてダイエットに勤しむことにした。