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10-3(P105)

彼女の名前は氷川湊といった。本人曰く特殊な能力などない普通の女子高生だそうである。たまたま男たちによって拉致されたところに居合わせた俺に救われたことで礼を探していたらしい。酷いことを言ったにも関わらず助けてくれた俺に男気を感じたという事だが、こちらとしては彼女だから助けたというわけではない。あくまで成り行きに過ぎないのだが、そのことについては上手く分かってもらえなかったために説明するのを諦めた。

それはいいのだが、非常に不味いのは彼女が俺の正体が普通のニートでないと気づいたことである。仕方がないので本当のことを話してしまったわけだが、司馬さんに怒られないかが非常に怖い。

そういった経緯ののちに何故か彼女は俺の部屋に遊びに来ていた。部の中には俺、シェーラ、湊という非常に理解不能の組み合わせのメンツが揃っていた。何故か緊迫感すら感じるのは気のせいだろうか。シェーラは非常にニコニコしているのだが内心は凄まじく怒っていることが分かった。というのも一緒に暮らしている影響でこの笑顔の時が一番やばいことを知っているからだ。俺の服の袖をずっと握っているのだが、何故か二の腕の肉までつまんでいることに嫌な予感が止まらなかった。


「貴方がシェーラ姫なんだ。美人―。本当に晴彦のいう通りに異世界の人なんだね」

「ハル、これは一体どういうことでしょう」


シェーラの俺をつねる指に力が増す。地味に痛い。おかしい。これって修羅場ってやつなのか。おかしいだろう。湊はうちに遊びに来ただけなのに。なんだか不穏なものしか感じないぞ。


「湊さんでしたっけ。貴方は何故ここに来たんですか」

「命を救われた御礼言うためだけど。なんでそんなこと聞くのかな。あー、ごめんね。お邪魔だったんだ。でも晴彦っていい奴だからさ、私が彼と仲良くなってもいいよね。別に付き合ってないんだもんね」

「…ほう」


シェーラの笑顔が深まるのに比例するようにギリギリギリと俺の二の腕をひねる力が強くなっていく。やめてくれよ、マジで怖いから。ちょうどトイレから出てきたクリスさんと俺の視線が交差する。助けてくれよと目で合図するのだが、奴は気まずそうに視線を逸らした後に外に遊びに行くと告げて出ていった。この薄情もの!!

このままではまずいと思った俺はインフィニティに助けを求めた。


(インフィニティ、助けてくれ!)

『この女を排除すればいいんですね。任せてください。一年もアイテムボックスの中に入れておけば忘れ去られますよ』

(…なるべく犯罪はなしの方向で頼む)

『仕方がありませんね。体の制御を少しだけ貸してください』


一抹の不安が残ったのだが、このままではらちが明かないと俺は鑑定スキル:∞に任せる賭けに出た。俺の意識が隅の方に追いやられてインフィニティが体の制御をし始めた。

そのすぐ後に俺の腕をつねっていたシェーラの腕を俺の腕から生えた腕が掴んだ。何を言っているのかよく分からないだろうが、まさしくつねられていた右腕の二の腕からさらに二本の腕が登場していたのである。このポンコツスキル。よりにもよってこの緊急事態に欠陥スキルである【千手観音】を使いやがった。あまりの不気味さにシェーラの顔が蒼白になる。勿論それだけでは千手観音は止まらない。腕から生えた副腕はまるで触手のように俺の上半身をゾワゾワゾワと覆っていく。肌色のイソギンチャク、いや、ホヤといった方がいいだろうか。目の前でクリーチャーと化した俺に対する恐怖に耐え切れなくなった二人の少女は悲鳴をあげる暇もなく、その場に卒倒した。当たり前のことだが完全に意識を失っているようである。


『マスター、完全に目標は沈黙しました』

(またやらかしてくれたな、インフィニティ)


眩暈がした俺に追い討ちをかけたのは部屋の外から聞こえた呼び鈴だった。こんな時間に誰だ。


「おーい、晴彦。いるんだろ、近くまで寄ったから遊びに来たぞ。」


まずいまずいまずい。よりにもよって司馬さんだ。こんなカオスを見られたら絶対に駆除される。慌てふためいた俺はインフィニティ先生から体の制御を奪い返すとドアを開けられないようにするために玄関に走った。慌てていたせいでそのままの格好だったことをすっかり失念していた。

玄関にはすでに靴を脱ぎかけた司馬さんがいた。俺を見た瞬間に司馬さんも無言で卒倒した。玄関先に肌色のイソギンチャクが出迎えに来るとは流石の司馬さんも予想していなかったに違いない。恐怖で完全に白目を剥いたまま泡を吹いている。

こうして氷川湊の初来襲は大混乱のうちに幕を閉じたのだった。



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