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10-2(P104)

翌日、俺はいつもと変わらない様子を装って一人でウォーキングに出かけた。もっともしっかりとギャル子用の対策は忘れない。俺以外の人間には不可視の魔力レーダーを張って半径500m以内の人間の動きを視覚できるようにしてあるのだ。ギャル子の魔力の波動はすでにインフィニティさんが把握済みだ。後は俺の姿を見つけさせて尾行させるだけである。歩きはじめて15分ほど経った所でギャル子らしき反応がレーダーに映り始めた。間違いなく俺を追ってきている。彼女にしてみれば気づかれていないと思っているかも知れないが、こちらから見てみればバレバレである。

俺を追っている理由を聞くにしてもどこかに誘い込むのが一番だ。そう思った俺は近所の工事現場に奴を誘いこむことにした。幸いなことにその工事現場は地主と建設会社がもめているのか工事が途中で延期していることもすでに把握済みだ。今ならば人の気配もない。そんなわけで俺はあくまでもウォーキングの途中を装って工事現場の敷地内に入っていった。




             ◆◇◆◇◆◇       




氷川湊は例の豚男を追っていた。かれこれ一週間にもなる。傍から見れば完全にストーカーなのだが、ここまで毎回煙に巻かれると不甲斐ない自分に腹を立てていた。話しかけるまでは絶対に諦めない。そう決意していた。そんなわけで今日も彼女は豚男を追っていた。彼のおおまかなライフサイクルはすでに把握済みである。一時間のウォーキングを一人、ないし友人であろうと少女の二人で行うのだ。ご近所でも有名人らしく、近所のおじさんやおばさんに声をかけられたりもしている。気さくな人なのだろう。

仕事をしている様子もない自由人っぽいのでひょっとしたら資産家なのかもしれない。今日こそは礼を言うのだと思って豚男の行方を必死に追っていくと、いつもとは少しコースが違う曲がり角を曲がっていくのが見えた。

見失わないように慌てて追いつくと工事途中の建設現場の敷地の中に入っていくのが分かった。どういうことだろう。そんなことを思いながら工事現場の壁の影に隠れて敷地の中を覗くと制止している豚男の後姿が見えた。ついに追いついた。そう思って湊は走って豚男の肩を掴んだ。その瞬間、豚男の肩に触れようとしていた手がすり抜けた。


「悪いがそれは幻影だ」


瞬間、豚男の姿が掻き消えて背後から声がした。恐る恐る湊が背後を振り返るとそこにいたのは眼前にいたはずの豚男だった。彼は訝し気に湊の方を眺めていた。とっさのことで混乱した湊は言うべきことが頭の中から全て吹き飛んでしまった。あれだけ色々と言おうと知っていたのに頭の中は真っ白である。そんな彼女に対して豚男は警戒した様子で行動に移った。

何を思ったのか湊を囲むようにして高速移動による分身をし始めたのである。

豚男が増えた!現実性のない悪夢のような光景に湊の恐怖判定は見事に失敗した。


「「何が目的だ」」

「「身代金か」」

「「金ならばないぞ」」

「「手荒な真似はしたくはないが真実を言わないのならば…」」

「「こちらにも考えがある!!!」」


そう言う豚男はすでに視認できるだけでも50人近くに分身した状態で身がまえた。不気味に複数の声が響き渡る中で湊は迫りくる恐怖に耐え切れずに失神した。豚男こと晴彦はその有様を見て自分がやり過ぎたことに気づいたのだった。




              ◆◇◆◇◆◇




ギャル子がその場で気絶したことによって俺はようやく自分がやり過ぎたことを自覚した。よくよく考えれば相手は一般人なのだ。こんな妖怪変化のような所業を見せられたら気絶するのは当然だろう。参った。完全に気を失っている。助け起こしたところで俺は現在の状況を冷静に分析した。普通にあかん奴だ。年端もいかない少女を自らの異能によって気絶させた不審者にしか見えないだろう。このまま逃げうという手もあるがそれはあまりに人の道に外れているように思えて俺は彼女が目を覚ますまで待つことにした。

どうしようなあ。起きた瞬間に罵声をぶつけられたら俺の豆腐メンタルは持たないぞ。

そんなことを思っていると暫くしてから彼女は目を覚ました。目を開けた瞬間に俺と目が合った彼女は仰天して後ずさった。


「ひいっ!!」


そりゃそうだよな。怖がるのも無理はないよな。我ながらとんでもないことをしたと自覚しているのでまずは謝ることにする。


「驚かせてごめん。やり過ぎたよ」


彼女は暫く警戒したものの危害を加えられることがないと分かったのか恐る恐る口を開いた。



「…さっきのってどうやったの。もしかしてあなたは忍者か何かの末裔?」

「いや、ただの元ヒキニートです」

「ただのニートは分身しないわよっ!」


ひいい、いきなり怒鳴られた。やっぱりこの子は怖い。そう思っていると強気な彼女は弱気な俺に主導権を握れると思ったのか詰め寄ってきた。


「なんであんなことができたのか教えてよ。そうじゃないと貴方が普通じゃないことをバラすから」

「気絶したから介抱したのに…」

「その前に気絶させたでしょう!」


困り果てた俺にインフィニティが声をかけてくる。


『マスター。アイテムボックスの中なら痕跡を残さずに証拠隠滅できますが』


怖すぎるわ!何する気だよ、万能スキル!

そんなやり取りをしているとはつゆ知らずに少女はさんざん質問攻目にしてきた。こちらとしてはどう答えていいものか分からずに戸惑うばかりだった。彼女はひとしきり質問を終えた後に急に改まって恥ずかしそうに言った。


「あー…、そうじゃない、こんなことを聞くために付けてきたんじゃないのよ。」

「他に用があったのか」

「…うん。二回も助けてくれてありがとうね」



そう言って彼女は顔を赤らめながら微笑んだ。少しだけ可愛いと思ったのは俺の気のせいだろうか。怖いだけかと思ったが、しおらしい一面も持っているのだな。俺は少女の評価を改めることにした。



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