「受難の日々」の幕開け?!
ドアの前に立つ。
中を覗くと、もう半数以上の生徒が来ている。
八時十二分──────
やっぱり。中に入らないわけにはいかない、のよね……
覚悟を決めると、思い切ってドアを開けた。
「ああーっ、純、おはよう!一昨日、大丈夫だったあ?」
まったく……! 初っ端からこれだ!
教室中の視線を意識しながら、席に着く。
「ちょっとぉ、純! この前はまあ、よくも浩太郎君、とってくれちゃって!」
ゆうが来た。
「まーったくもう、この娘は! 私も浩太郎君がいい!なんて、言ってぇ」
「ごめん、ごめん。だって」
「だっても何もありません! 反論あるなら言ってご覧?!」
そう言うゆうの目は笑っている。
どこまでも「冗句」という調子で。
助かった……!
それ以上のツッコミは入らない様子だ。
守屋君のことばかり気にしていたけれど、よくよく考えてみればあの時の有様もかなり……だったはず。
けれど、ゆうがこの調子なら一安心。
よしんば突っ込まれても、お酒の席での戯れということで押し通せそうだ。
ところが、そう思った矢先、
「何? 純と浩太郎君がどうしたって?!」
と、舞と一緒に圭が大層な声を出しながらやってきたのだ。
「ちょっと、聞いてよ! 純ったらねえ……」
「ちょ、ゆう!!」
顔色を変えた私に構わず、ゆうは喋る。
「きゃあ! 純ちゃん。守屋君はどうするのぉ?」
そして、ゆうが喋り終わるや否や舞が開口一番、可愛い声を出した。
「何? 純と守屋君って、何かあったの?!」
「あっ、そうかあ。ゆうちゃん、二次会行かずに帰ったものね」
純ちゃん、守屋君とね……なんていう風に、今度は舞が喋り始めた。
私は頭痛すら起こってきそうなこめかみに手を当てながら、息を吐く。
この調子では打ち上げに参加しなかったクラスメートにまで「事」が広がるのも時間の問題だろう。
それも恐らくはきっと面白おかしく「脚色」されて……
もう、いいわよ。
勝手にやって頂戴!
……なんて、そっぽを向いていたら、いつの間にか話の輪に加わっていた美結妃が、
「でも、純……一昨日、あれから大丈夫だったの?」
と、素で私に尋ねてきた。
「え、うん。「HEVEN」出るまでには完全に酔い、醒めてた」
「うそぉーーー?!」
私の答えに、美結妃ばかりか皆が信じられない!という顔で私を見た。
「……何? 私、そんなにヒドイように、見えたの?」
「ヒドイも何も、あの時はねえ……。純、今夜帰れるの?て、みんな心配してたんだから」
美結妃が言うと、そうそう!と、圭に舞が相槌を打つ。
やっぱり……醜態、だったのね……!
今更ながらショックに打ちひしがれ、モノも言えずにいるところに、
「やっぱり、それは。守屋君のおかげだったんじゃなくて?」
と、人の気も知らずに舞が悪戯っぽく笑った。
「なあに、純。それなのに私から浩太郎君、盗ったわけえ?!」
「ちょっと、待ってよ! そんなんじゃないんだってば!!」
放っておいたら、話がどこまでエスカレートするか、わかったもんじゃない。
もっとも、今は何を言っても無駄だろうけど。
その時、始業のベルが鳴った。
八時二十分。皆がそそくさと席に着く。
助かった!……ううん。これで済むなんて思っては、甘し!よねえ。やっぱり。
覚悟はしていたものの、予想以上の皆のリアクションにはただ閉口するばかり。
これから当分は続くだろう「受難」を思う私は、やはり頭を抱えずにはいられない……