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12/26

告白

 秋も深まり、日々は穏やかに過ぎてゆく。


 済陵祭前後からの食欲不振が、相変わらず続い

ていた。

 時々感じる胃痛も最近は、慢性化したような気がする。

 体重も2㎏減った。

 と言っても、下半身の太さは何ら変わることなく、胸が薄くなり、ウエストの肉がちょっとばかり落ちた程度だ。

 そう痩せたという実感はない。

 が、しかしお杏に言わせると、頬の辺りがやつれたようですこぶる不健康に見えるのだそうだ。

 言われてみると、そんな気もする。

 特にポニーテイルにする時くっきりと出る顎のラインは、確かに尖っているというより、窪んでいるという形容の方が正しいように思える。

 神経性の胃炎なのかもしれない。

 済陵祭前はクラス参加の件で気をもみ、終われば終わったで、色々ごちゃごちゃと神経の休まる暇がない。

 その上、試験の重圧感も重なって、小心者の私はすっかり参ってしまったと見える。

 情けない話ではある。


 中間考査は終了したものの、すぐに「ST」と「進連協模試」が待っている。

 STとは、「セイリョウテスト」との略とも、「ショートテスト」の略とも言われているが、実の所その語源は、済陵に勤務して十年以上の古参の教師にもわからないらしい済陵独自の試験だ。

 主要三教科のみだが大抵は二教科行われ、国語と英語は上位者一覧が職員室前に張り出される。

 そのSTが終わっても、次は日曜日を返上しての模擬試験ときている。


 百年の歴史を誇り、元男子校のバンカラ精神と生徒自治による自由な校風が特色の済陵高生としてはしばしば、ここが進学校と呼ばれる所であるということを忘れがちだ。

 しかし教師の方は、「四年制高校」とも揶揄される汚名を返上すべく、模擬試験だ、課外授業だと躍起になっている。


 受験勉強らしいことはまだ何一つやっていない。

 まだ大学のことなんて考えたくなかった。

 私は今の生活を生きるのに精一杯なのだ。

 十七歳には十七歳の時にしか出来ないってことがあるんだ。

 高二の内から大学受験なんかに束縛されたくない。

 けれども、それを完全無視してしまう度胸は私にはないってことも、自分が一番よく知っている。

 傍目から見れば、結局私は「優等生」なんだろう。

 そんな自分は「コンプレックス」以外の何者でもない。


 自由に、飛びたい。

 色んなこと体験してみたい。


 そんな欲求を内に秘めながら、一方で胃痛に悩まされながらも、とりあえずは中間考査も大失敗を取り戻すべく努力を続けている頃。

 それは起こった─────── 




***


「ねえ、純。ちょっと顔色悪いわよ」


 六時限目の数学が始まる前、女子更衣室から教室へと戻る途中にお杏がそう言った。

「う、ん……。気分悪いの、何だか」


 五時限目のロングホームルームの時間、久しぶりにレクリエーションで、男子も女子も屋外コートでバレーボールをやった。 

朝から何となく調子の悪い日で見学していれば良かったのかもしれないが、最近体育の授業でやるバレーボールが異常に盛り上がるものだから、つい参加してしまった。

 けれど、終わってみるとどっと疲労感が出てきて、何だか気分がとにかく悪い。


「保健室行った方がいいんじゃない?」

「ううん、いい。次、数学だもの。後からノート借りて写すの面倒だし。それにその後、体育でしょ。バレーボールせずに帰れるもんですか」


 まあ、後二時間。

 なんとかなるだろう。

 軽い吐き気すら感じながらも、笑ってみせた。




***


「次、問題当たってる人。前へ出て解いて」

 先生の解説が一通り済むと、今度は生徒が黒板で問題を解く。

 数学は席順で公平に当たっていくから、誰が何の問いを解くかは前もってわかっている。

私もノートを持ってすぐに席を立とうとした。


 え、何……


 立った瞬間、くらっときた。

 周りがモノクロ。

 目を凝らすけど、ぼやけて、曲がって……


 ガタン!!


あ、倒れちゃったんだ、私……


 ああ、みんな騒いでる。

 大丈夫よ、そんな……私……


 それきり意識が遠のいていった。

───────────




 純…… 純……

 誰? 私を呼ぶのは


「あ、純…気がついた?」

「お杏……」


 目を開くとお杏の顔。

 気がつけば、保健室のベッドの上。

 あれから、私……


「まーったくもう!ビックリしたわよ。静かな授業中、突然何の音かと思ったら「純が倒れた!」だもんね。だからあの時、保健室に行っておけば……」

「ごめん、ごめん。でも、私だってこんなことになるなんて、思わなかったもの」

「あ、神崎さん。気がついた?」

 その時、保健の先生が入ってきた。

「もう、気分はいいの?」

「ええ。もう、大体」


 熟睡していたんだろうか。

 体のだるさも取れて、気分はいい。

 吐き気も失せていた。

 睡眠不足だったんだろう。

 最近、帰宅して食事を済ませると、仮眠を取って夜九時頃起き出し、深夜の二時三時まで起きて勉強しているという生活パターンだ。

 数字の上では睡眠時間も帳尻が合っているかもしれないが、こういう変則的な生活はやはり効率が悪いとみえる。


「よく眠っていたようだけど、睡眠時間は足りているの? 勉強も大切だけど、睡眠はちゃんと取ること。あなた最近少し顔色が悪いようだけど、無理なダイエットなんかしてるんじゃないでしょうね。最近は拒食症の生徒も増えてきて……」

と、先生は眉をひそめる。

 まあ、あまり無理をしないようにと言い残して、先生は再び部屋を出て行った。


「お杏。今日、ピアノのレッスン日じゃなかったっけ?」

「そうなのよ。純が起きなかったら、LINEしようと思ってたとこ。ほんとはちょっと話したいことあるんだけど、時間ないから。夜、電話するわ」

「何よ、話したいことって?」

「それは今夜のお楽しみ! じゃ、お先に」

 そう言って、お杏は足早に帰って行った。


 外を見ると、どんよりと重い雲が立ちこめている。

 空が暗い。

 今にも雨が降り出しそうな気配だ。

 早く、私も帰ろう。

 一人保健室を出て、教室へと急ぐ。

 誰も残っていないといいんだけど。

 何だか、気恥ずかしいもんね。

 それにしても。

 私、どうやって保健室まで歩いていったんだろう。

 そんなことを考えながら、教室のドアを開けた。


「あ、神崎さん。もういいの?」

 薄暗い教室に一人だけ残っている。

 佐田さた君……?

「うん。もう、大丈夫」

 鞄にノートを入れながら、答えた。

「さっきは一体どうしたの。ビックリしたよ。本当にもう大丈夫かい?」

「平気。保健室で充分休んだから」

 その時。

 私は、普段とはちょっと違う彼の視線を感じていた。

 何。どうしてそんな()で私を見るの。

佐田君……


「──────ああっ! もしかして。あれっ? でもそうだっけ……」


突然、頓狂な声を出して最後は、顔色を伺うように佐田君を見つめた。

「あの、まさかとは思うけど。もしかして……保健室まで連れて行ってくれたのは、佐田君?」

「何、やっぱり覚えてなかったの?」

 夢とも(うつつ)ともつかない状態で、誰かに支えられながら歩いたような気がしたけれど、それにしても、手を貸してくれたのが佐田君だったなんて。


「まったく、君は勉強のし過ぎだよ。もっと体は大事にしなきゃ」

 彼は女子と話す時、相手のことを「キミ」と言う。

 一種独特の響きを持っていて悪くはないが、彼の言い方はあまり好きじゃない。

 ついでに言えば、彼の妙に気障(きざ)っぽい所も。


「じゃ、雨も降り出しそうだし……お先に」

 本当は御礼を言うべき所なのかもしれなかったが、そう言って背を向けようとした。

「あ、神崎さん。俺、送るよ」

「えっ?! でも……」

 なに、何で……どうして、佐田君が?

「だって一人で帰るの、危ないよ。またバスの中で倒れたりしたら」

「わ、私。お杏と一緒に帰るから」

 口からでまかせを言うと、踵を返し、ドアへと急ぐ。


 その時。


「待てよ。野瀬さんとは、帰る方向が違うだろ」

 後ろから右腕を掴まれた。

 ぎょっとして振り返る。


 な、何。どういうこと!? 一体!?

佐田君……?!

 心臓の音、どくっ、どくって……

 そんな目をして私を見ないで。


「……痛い。手、離してよ」 


 掠れた声を出した。

 ぱっと目を逸らす。


「離して」


 強く振り切り、再びドアへと向かった。

 その時だった。


「好きだ。神崎さん」


 耳元で彼の声を聞いた。

 後ろから抱きすくめられて……


「好きだったんだ。俺、ずっと前から、君のこと」


私の手から鞄が音を立てて、落ちた。


 何、何……

 何なの、これは……!

 がんがんと頭の中で鳴っている。体が熱い。


 い……や、いやよ。

 離して。

 どうして……

 声が、声が出ない。

 動けない……


「離して」

 ようやく振り絞るように発した言葉と同時に、金縛りが解けたように躰が動き始めた。

 けれど、逃げようとすればするほどに、加えられる力は強まって。


 何故……嫌よ。

 こんなのって、ない。

 誰か。

 たすけて。

 いや。

 こんなの、い、や……


抗うことを止めた。項垂れて。

 閉じた瞳から、熱いものが溢れて、落ちた。


「─────ごめん。神崎さん」

 腕が離れた。

「俺、こんなつもりじゃ……」 


 反射的に身をよじり、顔だけ振り返った。

 私の肩を掴もうとして伸ばされた手が、遣り場をなくしたまま力なく、宙に浮いて……


「嫌! 来ないで!! 近寄らないで……」


 見つめあう。

 悲痛な表情。

─────怯えた()


「本当に俺、そんなつもり……」

 空白の瞬間が破られると同時に、無意識に鞄を取り、ぱっと駈けだした。

「神崎さん!!」


 走る、走る。

 わけもなく走る。


 どうして、何故?! 佐田君……

 何なの? 一体、あれは何。

誰か、誰か。

 ああ……!


 靴箱に来て初めて足を止め、ぎゅっと鞄を抱き締めた。

外は雨が降り出していた。

 十一月の雨は冷たい。


 濡れても……いい。


 そう思った。


 走るわけでなく、とぼとぼ雨に打たれながら校門まで歩いて来た時、


「純ちゃん、入れてあげよう」


 背後から声がした。


雄大(ゆうだい)……」

隣のクラスの織田(おだ)雄大(ゆうだい)が、がちょう頭の()をしたブルーの傘を片手に、私の隣に並んだ。


「泣いてるの?」

「泣いてなんか、ない。雨の雫よ」

「ウソツキ」


 私は答える代わりにハンカチで顔をぬぐった。

「雄大、私ね。さっき教室でクラスの男子から好きだって言われた」

「それで何で泣くの?!」

「……抱き締められた。後ろから」

「やるなあ、そいつ。一体、誰だよ」

 私はぷいと横を向いた。

 雄大のあからさまな好奇心が憎らしかった。


「ごめん。気に障った?」

「大いに障った」

「でも、別に泣くことないじゃん。ふられる立場じゃなくて、ふる立場だろ。これも一つの勲章だと思って……」


「男だからっ!雄大は、男だから」


 噛みつくように叫んだ。

 私を見る。

「私の気持ちなんてわかんないよ……」

 視線を逸らして、呟いた。


「男だったらさ」

 雄大が穏やかに口を開く。

「誰でも。好きな女の子には触れてみたいって、思うよ。抱き締めたい、キスしたい、あわよくばそれ以上のことを……」

「聞きたくないっ!そんなこと」

「潔癖症だね。純ちゃん」

 雄大はそれ以上、何も言わなかった。

 私も何も言えずにいる。

 雄大の一言が期せずして、私の心に波紋を投げかけた。


 私は潔癖症なんかじゃない。

 映画や小説のワンシーンのように、一度でいいから男子から力一杯抱き締められたいと思っていたのは、私。

 現に私はあの時の、夕暮れの教室にいた守屋君を忘れられずにいる。

 あの時、一瞬感じた感覚を再びと、狂おしい想いにすら囚われていたというのに。

 けれど……


 いやよ。嫌だ。

 あんなのって許せない。思い出したくもない。

残っているのは、恐怖と嫌悪の感情だけだ。


「純ちゃんはさ、可愛いから。男が放っておかない」


私は、雄大の顔を見た。

 どういう顔してそんなこと言ってるの?

 ジョークにしたってできすぎている。


可愛い……か。


 そんなこと男子から面と向かって言われたのは初めてで何か、照れる。

つくづく私は男子に対して免疫がないと思う。


 いつの間にか、大通りまで歩いて来ていた。

 雨脚は一層早くなり、気がつけば雄大の右肩はぐっしょりと濡れている。

 私はハンカチで、雄大の学ランの湿り気を拭き取った。


「雄大。今日は(いち)()(もと)さん、どうしたの?」

「ああ、美樹(みき)はバレエの発表会のリハとかで、慌てふためいて帰って行ったよ」

 十組の(いち)()(もと)美樹(みき)さん。

 一年生の時からの雄大の彼女だ。

告白したのは一乃本さんの方らしい。

 けれど、雄大はいつも授業が終わると十組の教室まで一乃本さんを迎えに行く。

 交際当初から学内公認のカップルだ。

 傍から見れば雄大と私、いかにも仲の良い高校生カップルの相合い傘の風景だろうが、幼稚園で3年間同じ組だったという単なる友人関係に過ぎない。


 けれど、私のことを「純ちゃん」なんて呼び方をする男子は雄大くらいのものである。

 また逆に、私が「雄大」なんて名前で気安く呼ぶことが出来る男子も徳郎と雄大だけだ。

雄大から「純ちゃん」て呼ばれるのは悪い気はしないし、「ユウダイ」って響きも私は気に入っている。

 加えて、雄大の数学のセンスには目を見張るものがあり、解けない問題を持っていくと大抵すらすら解いてくれるので、私は大いに助けられている。

もっともその代償として雄大は、私の英語や古典のノートをちょくちょく借りにくるのだが、それもクラスが隣同士という気安さのせいに違いない。


「あ、バス来た!」

 突然、雄大が声を上げた。

 見れば、グリーンと白のコンビをした車体のバスが、前方に停まっている。

「純ちゃん、傘持っていき」

 そう言って、私の手にがちょう頭を押しつけた。

「え、だって。雄大は」

「遠慮するなって。あ、純ちゃん・・・」

 急に振り向くと、


「GOOD LUCK!」


 低く、耳元で囁いた。

 呆気に取られている私を残して、雄大を乗せたバスは走り去ってゆく。


 雄大・・・


 教室を飛び出した時、あんなにも昂ぶっていた感情が、嘘のように落ち着いていた。

 これも雄大が、私のヒステリックとも言える不安定な感情を、黙って受け止めてくれたせいだと思う。


 ゆうだいは、やさしい。


 がちょう頭にはまだ、雄大の手の温もりが残っている。


「ぐっどらっく・・・」


 小さな声で呟いてみたら、何だか少し元気が出てくるような、そんな気がした。




***


その日、帰宅してすぐに私はお風呂に入った。

11月の冷たい雨煮濡れた躰をひとまず、暖めたかった。

そして。

佐田君に抱き締められた……躰の感触を払拭したかった……

シャワーを念入りに浴びる。

素肌の自分を意識する。

いつか。

いつか、私にも、この肌を晒し合うような人が現れるのだろうか。

そんなことを考える。

でも。

今の私には全くピンと来ない。

私の躰は私のものでしかない。

誰にも触れられたくない。

ましてや……

あの時。

背後から抱き締められたあの時の感覚を思い出す。

背筋がゾクリとする。

嫌よ。

嫌だ。

"潔癖症"

雄大が言った言葉を思い出す。

確かにそうなのかなしれない。

私は誰のものにもなりたくない。

今は自分自身。自由でいたい。

湯船に浸かり、躰を両手で抱き締めながら、私はそう思っていた。




***


 その夜、約束通りお杏から電話がかかってきた。


『やっぱり、佐田君て、純のこと好きだったのね』

 携帯(スマホ)越しにお杏は言った。

「何よ、「やっぱり」て?」

『気付いてなかったの? 彼、いつも純のこと、チラ見してるじゃない。それに、よく話しかけてくるでしょ』

「チラ見、て……! それに、よく話すのは「済陵祭」だったし、席も前後だから……」

『そういう無自覚が純の罪なところよ。第一、純が倒れた時、真っ先に駆け寄って抱き起したのは彼なんだから』

「そんな……」

 私は絶句した。


 あの頃、私はクラス委員という立場上、普段は喋らない男子ともかなり話をしていたから、特に佐田君に気を回す余裕なんてなかったし、最近ちょくちょく話しかけてくるのも、単に席が近いせいだとばかり思っていた。

 けれど、佐田君がああいう行動に出た以上、お杏の推測は正しかったことになる。

 第三者が気付いていたことを当の本人が全く知らなかったというのも、間の抜けた話だ。


 でも、もしかしたら。

 意識的に佐田君の好意を無視していたのかもしれない。

 もしかして彼、私のことを……なんて意識するのは、好きじゃない。


『それにしても』

と、お杏は含み笑いをした。

『山口君、マジな顔してたわよ。彼、保健委員なのに佐田君に先越されちゃってさ』

と、意味深に笑う。

『保健委員て呼ばれたらすぐにでも純のとこ飛んでいきそうな感じだったわ』

と、お杏は屈託がない。

『彼、案外、やっぱり純が本命なんじゃない』


 こういう時のお杏は意地悪だ。

 私が彼に対してどれだけ憤慨しているか先刻承知のくせに、そんな話にもっていく。

 私は、彼がゆうに言ったとかいう「神崎さんにも色々言ったけどあの時は」という、あの言葉を思い出して不愉快になるだけだ。

 神崎さんには酔ってたから、なんて人を馬鹿にしてるとしか思えない。

 その後、彼は彼なりに反省しているらしいという話は、舞から聞いている。

 ゆうには相当頭を下げているということだ。

 けれど彼、私に対しては何も悪いことをしたという自覚がない。

 それが癇に障る。

 よくよく考えれば、彼は私に直接謝らなければいけないことは何もしていない。

 しかし、一旦口にすると、或いは本人を目の前にすると、どうしようもなく腹が立って仕方がない。

 到底、許せそうにない。


 許す──────何を一体。

私にそんな権限があるの?!

そう自問自答してみたりもするが、やはりこの話題が出る度にキレてしまうのだ。


 告白されたのは、これが二度目。


 一番最初は、高校一年生だった去年の夏。

 他校の二年生。登校中によく見かける。

 下校中に待ち伏せされて、つきあって欲しいと言われた。

 女子高生になりたてだった私は可愛いもので、単に(カレ)欲しさからOKしてしまったのが、そもそも間違いだった。

市内でも有名なお坊ちゃん男子校に通うその彼は、確かに品は良いがやたらと自分や周りの環境のことを自慢したがる嫌味な奴で、しかも、最初のデートの時から馴れ馴れしく肩を抱いてきたのに嫌気がさして、速攻別れてしまった。

 その別れる時がまた修羅場で、しつこい男ほど始末に負えないものはないと、つくづく思ったものだ。


 あの時のあいつと佐田君と、どっちがマシかなんて考えてみる。

 佐田君のことは、成績上位者一覧でよく名前を見るといった印象くらいで他のことは知らない。

 秀才肌で育ちの良さそうな感じだが、話していると時々、気障な物言いが癇に障ることがある。


 異性の誰からも愛されない人生を考えれば、どんな人であれ自分を好きだと言ってくれる人がいることは幸せなことかもしれない。


 けれど────── 


 どうしても、今日の告白を私は喜ぶことが出来そうにない。

 好きにはなれない、佐田君のことは。

 純は理想が高すぎると、皆が言う。

 けれど、それは間違いだ。

 ただ、私は妥協することが嫌いなだけだ。

今日の出来事は早く忘れてしまいたい……

 それが私の本音だった。







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