プロローグ~物語はこうして始まる!?~ 【イラスト付き】
作中、高校生の飲酒・喫煙場面が出て来ます。未成年の方は真似なさらないようご注意下さい。
尚、スピンオフ作品及び番外篇とは内容に矛盾があります。
どうかその点、ご了承下さい。
「ねえ、大成功だったわよね? うちのクラス」
その時、お杏は鏡に向かって話しけるように、そう言った。
「そうね……確かに。あんな盛り上がるなんて、全然思ってなかったわ」
脱ぎ捨てた制服をたたみながら、私はそう言葉を返していた。
「ほんとに大変だったわねえ、今度の文化祭。一時はどうなることかと冷や冷やしたわよ」
「それを言うなら私の方よ。野村君なんてとうとう最後まで、何にもしてくれなかったしさ。まったく」
「そうよねえ! 彼もクラスの代表委員長なのに、面倒なこと全部、純に押しつけちゃって。これだから、男子なんてものは。……純。ねえ、どうかしたの?」
「え、あ……何?」
「何じゃないわよ。さっきから心ここにあらず、て感じね」
鏡の中から私の方へと視線の向きを変えたお杏は、「具合でも悪いの?」と、私に問いかけた。
私は慌てて頭を振る。
しかし、一つ溜息のような息を吐くと、ゆっくり口を開いた。
「なんか……なんかね。妙に感動だったなあ、なんて」
「感動?」
「そう。だって、最初あんなに無関心でバラバラだったみんなが、最終三日間なんて必死で準備してたでしょ。前日なんて夜9時まで残ってさ。で、本番の文化祭当日になってみれば、これまた予想以上の大盛況で。……なんか。何か、すごい、燃えたな。なんて、思ったりして」
「で、燃え尽きちゃったわけね。純は」
そう言って、お杏は半ば呆れた目をしている。
そんなお杏を前に、私は再び言葉を続けた。
「何だかこうして終わってみると。無事、成功してほんとによかった、て気持ちは勿論なんだけど。でももう、あんな一つのことにクラス一丸になって打ち込んで盛り上がるなんてことないだろうなあ、て思うと。淋しくって、ね」
そう言うと私は、心持ち目を伏せた。
今日、十月十四日(日)。
今日この日は、我が済陵高、秋の文化祭「済陵祭」の最終日だった。
クラス委員だったばっかりにクラス参加の出し物の件で大いに苦労した私だが、それも終わってみれば、やったな!という達成感で一杯だ。
出し物は、無料のゲーム店「よろずや・くぼじい」。店名は、クラス担任の久保田先生から頂戴した。
お客さんに輪投げやダーツ、射的などで遊んでもらい、手作りのしおりやフェルトのリボンなどの景品を渡すという質素な出し物だったが、予想外に盛況で、文化祭が終了する前に全ての景品がなくなった。
その成果を、クラス全員で分かち合い、心から喜んだ。
しかしだからこそ、今日で全てが終わるのかと思うと、妙に切ないような、味気ない想いを今、私は味わっている。
「ちょっと、虚脱感。て、わけ」
そう呟いた私に、お杏は、
「純の気持ちはわかるけど。でも、燃え尽きるのはまだ早いわよ」
と、その言葉を投じてきたのだ。
「むしろ今からが本番よ。これが終わらなきゃ済陵祭が終わったなんて、誰も思いやしないんだから」
「何よ? これって」
「打ち上げよ、打ち上げ! 決まってるじゃない。その為に今、こうして用意してるんでしょ!」
「そうか。そうよね。打ち上げ、かあ」
お杏の言葉に思わず相槌を打つ。
何かと言うとすぐ悪乗りし、羽目をはずしてしまう済陵高生は、二年生ともなれば体育祭や文化祭の度に決まって「打ち上げパーティー」を企画して、酒だ煙草だと大騒ぎするのがもはや常識となっている。
御多分に漏れず我が二年一組も、男子は徳郎、女子は圭がクラスを仕切って、今夜の打ち上げを決定している。
それに参加する為に、済陵祭が終わった後、お杏のマンションに寄って私服に着替え、準備している最中なのだ。
「でも、私。全然飲めないからなあ」
しかし、昼間以上に意気揚々としているお杏とは裏腹に私は今一つノリが悪い。
「なんて顔してんのよ、純。飲めないなら飲めないなりに雰囲気を楽しんだらいいじゃない。今日のクラスのムードなら、きっと盛り上がるわよ」
そう言うとお杏は立ち上がって、全身を姿見に映して総点検を始めた。
そんなお杏の姿を私は見るともなしに見つめている。
黒のレザーのミニスカを完璧に、且つ上品に着こなしている。
薄くメイクを施したお杏は、いつも以上に更に何倍も大人びて見える。
「済陵のお杏」こと野瀬杏香と言えば、済陵生は無論のこと、近隣の他校生にもまで知れ渡っている存在だ。
その類稀な美貌。
ただのコーコーセイをやらせておくには惜しい素材だと、誰もが思っているに違いない。
そういう言わば「綺羅の存在」であるお杏とこの私の組み合わせが、傍には一体どう映っているんだろうと思ったことがないわけではない。
しかし、だからといって、妬みやコンプレックスという類の負の感情は不思議と持ったことがない。
羨ましくないと言えばそれは嘘になるが、私にとってお杏はかけがえのない一番の親友だ。
「そろそろ行きましょうか。もうあんまり時間ないわ」
小ぶりのシルバーラメのクラッチバッグを持ってお杏は、私の方を振り返りながら言った。
「うん。あ、ちょっとだけ待って」
大きな鏡の前に今度は私が立つ。
アイボリーの長袖コットンTシャツの上に、胸元がレース網のフューシャピンク色のAラインチュニックワンピを重ね着して、グレーのレギパン姿の自分がそこに映る。
さりげなく意識しているとわかる恰好かもしれないが、そこは女の子だから仕方がない。
男子はどうかしらないが、女子は皆きっとキメてくるだろう。恥はかきたくはない。
鏡の中の自分を見つめながら、髪を手で梳き、「CANMAKE」の淡いコーラルピンクのルージュをひいた。
***
ドアを開けると、薄暗い室内。
その闇を照らす派手なライトと装飾に目を奪われる前に、耳をつんざくような音量の音楽にまず圧倒された。
「いらっしゃいませ」
と、若い黒服のウエイターが待ってましたとばかりに皆を案内する。
どうやら一番奥の個室が予約してあるらしかった。
部屋に入ると、男女入り混じって座るように徳郎が言うが、私はお杏と二人、中央のテーブルに並んで座ることにした。
そして私は、なんとなく周りを見回している。
この打ち上げの集合場所は「白屋」前だった。
そして、6時半の集合時間には既に全員が顔を揃えていた。
女子は少なく十人に満たない。
男子もクラスの半分の十五人くらいだ。
しかし、男女共にその顔触れはなかなかのもので、役者は揃っているようだった。
こんな場に私がいてもいいのかしら・・・なんて想いが浮かんできたりするのだが、そんなことを口にすればまたお杏に呆れ顔をさせるだけだとわかっているので、私は何食わぬ顔を装い、席に座っている。
けれど、やはり気分は今一つ落ち着きを欠いているのかもしれなかった。妙にそわそわとしている自分を私は感じている。
それにしても、ここ「HAPPY・CHEKIN」は、あ軽いムードに満ち溢れている。
若い連中が飲む所なんてどこもこういう雰囲気なんだろうか。
そんなことを思いながら私は、周りに視線を遣っている。
「みんなグラス、持った?!」
早々と水割りを作っていた徳郎がグラス片手に立ち上がると、そう声を張り上げた。
その声で私は、お杏の作ってくれた薄いコークハイを手にする。
「それじゃ、今日の俺たちの大成功を祝して」
乾杯……!
威勢の良い徳郎の声が響くと、連鎖反応のように次々と乾杯の声が上がり、皆がグラスを重ね合う音がした。
次々と料理の皿も運ばれてきて、最初こそなんとなく硬かった皆の雰囲気も見る見るうちに和らいでいく。
「純、どうしたのよ。早く食べないと料理なくなっちゃうわよ」
五月の体育祭の応援団の打ち上げを一年と二年、既に二回経験済みのお杏は、場慣れした様子でそう言うとピザやフライドポテトを小皿に取り分けてくれた。
最近何故か食欲がない私は、今日もあまり食べたくはなかったが、お杏の気遣いを無にするのはなんなので一応箸を取ってみる。
「あ……吉原君、煙草」
その時、私は手を止め、ついそう声に出してしまっていた。
「他の奴らだってみんな吸ってるじゃん」
私の言葉が聴こえてしまったらしく、彼は訝しむように私を見た。
「うん、まあ。そうなんだけど。でも、吉原君まで吸うなんて、思わなかった」
「何? 俺、そんなマジに見えるって?」
「やだ。そんなんじゃないけどさあ」
そんな会話の遣り取りをしながら私は、この店に来て初めてやっと笑みを漏らしていた。
「神崎。これ、飲めよ」
一口飲んだだけで氷が溶けてとっくに水の様になってしまっている私のグラスを見たのか、吉原君は、新たに水割りを作って私の前に差し出してきた。
「あ、ごめん。私、飲めないから、いい」
「そう言わずに一口くらい飲んでみろよ。それとも、俺の酒は飲めないって?!」
などと、彼が絡んでくる。
「ちょっと、吉原君! 酔ってるでしょ?!」と言おうとした矢先、
「そうよ、純。さっきから全然飲んでないじゃない。グラス一杯くらい飲んでみなさいよ。その程度じゃ酔ったりしないから」
と、お杏まで口を挟んできた。
二人の勢いに押されて、結局私はグラスを手にした。
恐る恐る口をつける。
ごくりと一口飲むと、途端にアルコール独特のきつい味が口中に広がって、とてもじゃないがやっぱり飲めやしない。
顔をしかめてしまった私は、軽く首を横に振りながらグラスを返すと吉原君が笑っている。
「何? なんかおかしい?」
「いや、別に。ただ」
「ただ、何だって言うの?」
「神崎、ほんとに酒弱いんだなあと」
笑うように、いや、半ば呆れるようにそう言われても私は返す言葉がない。
そして。
いつの間にか料理の皿はほとんど空で、テーブルの上はすごい有様を呈している。
そして、座の盛り上がりようと言えばかなりのもので、ちょっとした乱痴気大騒ぎだ。
だいたい男子なんて、最初から水割りをロックかストレートで調子に乗っていくもんだから、ほとんどどうにかなっている。
女子の方も適当に酔いがまわっているらしく、ふと隣のテーブルを見ると、男子に肩寄せたりなんかして、にわかカップルも数組できている状態だ。
そんな中、吉原君もお杏も席を立ち、テーブルを移ってしまったので、私は一人取り残された形になった。
しかし、一人でいることはさほど気にならず、むしろ私は落ち着いて皆の様子を眺めていたりなんかする。
それにしても、すごい。ほんとに。
男子で素面の人間なんていないんじゃあないの。
あーあ、徳郎と美結妃。仲良くできあがって!
しかし────────
その時だったのだ。
或る情景に私の目は、釘付けになってしまった。
何……何で?
どうして?!
私は急に鼓動が早くなっていくのを感じている。
何で浩太朗君が……ゆうの肩なんて、抱いてるの……?!
一番隅のテーブルで、二人寄り添うように座っているゆうと浩太朗君……
私は愕然となった。
どうして……何故、浩太朗君がゆうと……
それより。
どうして。
どうして私、こんなにショックなの?!
何を動揺しているの。
そう自問自答してみるものの、自分でもわけがわからなかった。
わからないまま、私はやおら目の前のグラスにウイスキーをなみなみと注ぐ。
申し訳程度にコーラで割ると、私はほとんど一気にそれを飲み干したのだ。
トクン トクン トクン……心臓の音。
胸が、熱い。焼けつくよう!
しかし、頭はそれ以上に熱くなって収拾がつかない。
鼓動が速い。脈打つのがわかる。
けれど今更、私にはどうしようもできない。
もう……どうでもいい。
ああ、けれどどうして……!?
私は何を混乱しているの。
もう一度、あの二人に目を遣ってみた。
ああ。そうなんだ。私。何てこと。
思わず私は目を瞑った。
……ワタシ
コータロークン ガ スキ
ナンダ……
その時、私は初めてそう感じた。
そんな。
私が彼のことを好き、だなんて……!
突然、認識してしまったその自覚に、私は大いに動揺している。
その感情は私にとって、ショック以外の何物でもなかった。
浩太朗君のことは、嫌いじゃない。
けれどそれは恋愛感情などでは決してないと、私は信じていた。
彼を知る人間なら誰でも持つであろう好意であって、決して自分が彼に慕情を抱いているなどとは、私は思いもしていなかった。
なのに。
とにかく、今の私は彼の姿が正視できない。
優しそうにゆうの肩を抱いている、浩太朗君のその表情が……
混乱は一層酷くなる一方で、私はもう一度ストレート同然のコークハイを作ると半分無理矢理、喉へと流し込んだ。
そして、グラスを持ったまま、席を立ち上がった。
彼らはまだ二人きりでいる。
私はすっと近づいていくと平然と彼の隣に座り、テーブルの上にグラスを置くと、両手を彼の右腕に絡めながらこう言ったのだ。
「私も浩太朗君がいい!」
二人が一斉に私を、見た。
二人とも目の焦点が定まっていない。
「なによぉー、私の浩太朗君なんだからぁ」
「だって、私も浩太朗君がいいんだもん」
到底、素面では考えられない会話。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
二人の女子の間に挟まれた浩太朗君は、慌て気味。
ゆう。もしかして、浩太朗君のことがすき、なのかしら……た
そんなはずないのに。でも。
考えている内に私は、知らず知らず彼の肩にもたれかかっていた。
そして、ふと気がつけば、ゆうの姿はない。
「神崎さん大丈夫? 気分悪くなったら、俺に言いなよ」
彼が私の肩を抱き、私の顔を覗き込みながら、そう口にする。
完全に酔っているのだ。
しかし、私自身、さっきのコークハイがまわってきている。
理性はある。あるつもり。
けれど、体中の力が抜けてゆく。
浩太朗君にもたれかかり、彼の肩に顔を埋めるとそれ以上私は動けなかった。
気分、いい。すっごく。さっきからこの感覚。
溶けていってしまいそうな。
何故って、隣に彼が、いる。
私の肩を抱く浩太朗君が……
酔ってるんだ完全に。
わかってる。わかってるけど、でも。
いいの。今、この時だけでも。
私。最高に気分、いい……
「ねえ。浩太朗君」
その時、私はふと彼の名を呼んだ。
「ん、何……」
物憂げに彼は答える。
「つきあってる娘、いないの?」
おどける口調で、完全に酔ってるフリして私はそう問うた。
「好きな娘くらい、いるでしょ」
私の髪を梳いていた彼の手がその時、一瞬、動きを止めたことに私が気付かないはずがない。
「そんなこと……どうでもいいじゃん」
彼は一言、そう呟いた。
そして、その一言だけで彼はそのまま口を閉ざしてしまった。
そうか……なんだ。
そうなんだ。
すきなこがいるんだ。浩太朗君……
酔いが完全にまわり、朦朧とした意識の中で私はそのことだけをはっきりと感じていた。
そして───────
気がつくと、隣に浩太朗君の姿がない。
「大丈夫? 神崎さん」
その時、誰かが私にそう声を掛けた。
ゆっくりと顔を上げるとそこには、山口君の姿があった。
「まったく、いつそんなに飲んだのさ」
「平気よ。大丈夫なんだから」
私の隣に座り、世話を焼こうとする彼を私は適当にあしらっている。
何。彼、さっきから。いいかげんにしてよ。
そんなに馴れ馴れしく寄って来ないで。
露骨に顔をしかめているのに、どうやら彼には通じないらしい。
しきりに私の肩を抱こうとしている。
いい加減にしてよね。
そう思った時、
「神崎さん。俺とつきあってくれない?」
彼は耳元で囁くようにそう言った。
私は何も答えなかった。
答えるのも面倒で、あまりの馬鹿馬鹿しさに何も言う気になれない。
「俺、君のことが好きだから」
まるで少女漫画の台詞のような言葉を聞きながら、驚くほど私の気持ちは冷静だった。
「好きな人。いるのよね、私」
彼の顔も見ず、彼の手を振り払いながら私は、はっきりとその言葉を口にしていた。
途端に彼の雰囲気が変わる。
私の肩から手を離し、黙り込んだかと思うと、スッと席を立ち、そのまま彼は別のテーブルへと行ってしまった。
変な奴。どうでもいいけど。
依然、体中の力が抜けたまま、意識だけがうごめいている。
“好きな人。いるのよね”
この言葉を、単なる口実だと言い切ることが果たして私に出来るのだろうか。
否。
だとすれば。
私はやっぱり浩太朗君のことが好き、なの?
訳がわからない。
酔ってるのは歴然なのに、必死で自分は酔わないと思い込もうとしている。
しかし、ぐったりとソファに座ったまま体は動けずに、気分はどんどん沈んでいく。
酔ってるのに、まったくはしゃぐ気にならない。
動けない……
「ちょっと、純! 大丈夫?!」
その時、お杏が姿を現した。
「一体、どうしたのよ?! 最初は全然飲んでなかったのに」
もうここ出なきゃなんないのよ、と、お杏は少々困惑気味だ。
時計は後五分で午後九時になる。
一次会は終了というわけらしい。
「ねえ、立てる? ほら、しっかりして」
立てないはずがない。
その気になれば、一人でも歩けると思う。
ただ、動きたくないだけ。
ちっとも動く気になれない……
ずっと項垂れたまま、お杏の言葉にただ首を振るばかり。
立てるくせに。
歩けるくせに。
一体、私、どうしたっていうの。
「ほら、神崎さん。しっかりして」
その時。
そう言って、私の躰を支えてくれたのは……
「守屋、君……?」
こげ茶色の薄いフレーム越しに、彼はまっすぐ私を見つめていた。
「あ、守屋君。悪いけど純に肩、貸してやって。私、純のバッグ持つから」
ホッとしたように、お杏がそう言う。
私は促されるまま守屋君に連れられ、店を出た。
***
「馬鹿だよ。弱いくせに飲んだりするなよな」
私のおぼつかない足取りに合わせて歩きながら、守屋君がそう言った。
「だって。私。飲みたかったんだもん」
ああ、完全に酔ってる。
口ぶりも歩き方も、到底まともじゃない。
守屋君、右腕で私の肩を抱いて、私を支えてくれている。
私は彼にもたれかかって歩いている。
ちらりと視線をずらすと彼の手が見える。
細くて、節太の長い指。
私の肩を抱き寄せて……
今、私一体、どうなっているの?
どうして……守屋君が私の隣にいるの。
「守屋君。純、大丈夫なの?」
そう声をかけてきたのは、圭。
「気分は悪くないみたいだけど、このままじゃ帰せないね」
守屋君が答える。
いつもの静かな彼の声……
「江嶋さん、二次会どこであるの?」
「「HEVEN」に行こうって、徳郎達が言ってるから多分そこ」
「ディスコか……。ま、この際、どこでもいいから連れて行って暫く休ませないと」
「そうね。酔いを醒まさせなきゃ」
「神崎さん」
守屋君が私に呼び掛ける。
「はい」
「二次会、ディスコだけど、そこで暫く休めよ。このままじゃ帰れないだろ」
「……うん。ありがと」
操り人形のように歩かされ、そう答える私。
考えられないよ……