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第七話 ~労働終了!初めてのお給金~



***




「はい、ではルルちゃん………もとい、オルトルートさん。お疲れ様でした」

「はは………いえ、こちらこそ貴重な体験でした………」


”花鳥風月”の人気の凄さはあれからもいやというほどに知らされた。

人の波が引かず、ずっと行列が続いていたのだ。ハナさんやサツキちゃんの手際はとてもよく、奥のおっちゃんも料理の速度も味も最高をキープし続けていたのだがそれ以上にひっきりなしに訪れるお客の量に目が回る勢いであった。

動き過ぎて太腿が痛いしな。もともと足はあまり使わない………というか使えない生活をしていたから自分の足を使ってこんなに動くのは新鮮だった。いや、懐かしいの方が正しいか?


「おや。髪の毛が乱れていますよ」

「え?ああ………大分走り回っていましたからね」


お盆を持ってあっちに行ってこっちに行ってを繰り返していたのだ、直す時間もなく髪は若干変な方に飛び出ている束がいくつかあった。

まあ俺一人じゃ時間あっても髪を直せないんだけどな!やり方分からないし!

玉簪の付け方の難しさには思わず辟易するというか。よくハナさんもサツキちゃんも簡単に付けられるものだと不思議に思う。


「今直してあげます。さ、お膝へどうぞ」

「え。………いやいや、流石に重いですよ?」

「サツキと大して変わりませんよ。さ、どうぞ」

「えっと………ええーっと。じゃ、じゃあはい。お願いシマス」


逃げられない謎の気配を感じたので早々に諦めて、ハナさんのお膝の上にちょこんと座らせてもらう。

掃除やら片付けやらが終わった店内、その椅子の上には今日初めて腰を掛けたので、お客さんの気分というか目線はこんな感じなのかとなんとなしに思っていた。

柔らかい椅子の感触にはあまり意識を向けないようにしつつな!


「オルトルートさん」

「は、はい」

「膝を開けて座るのはどうかと思います。特に今は和装なのですし」

「………あっ」


確かにこの座り方は流石に酷いか。なんというか、そう。汚い座り方過ぎて色々と合わない。

あまり広げすぎるとあれだし………見えるし、その。危ないところとかな?

ぺたんと両足を閉じると、その上に両手を置く。うん?いやこの体勢もなんかおかしくないか?

―――まあいいか。

色々と考えるにはちょっと疲れすぎてしまった。初めての労働で体力だけでは無くて精神力もがりがりと削られていたので、今は難しいことは考えられないのである。

ということで脱力して体重をハナさんに預けた。


「ふふ、いい子ですねオルトルートさん」

「子供扱いされてるような気がする………。あ、重かったら言ってくださいね」

「いえいえ。とても軽いですよ。………これでよし、と」


頭を撫でられているし子供扱いはもう確実だなこれ、でもまあハナさんにとっては俺なんて簡単に掌に載せられる存在であるわけだし、子供みたいなものといえばそれはそれで納得できてしまったりする。

それにあれだ。優しく愛でるようにして髪を優しく空いてくれるのはなんとも言えな気持ちよさがあって、決して悪い気はしないのである。

ということで髪を直してもらってもしばらくの間ハナさんの太ももの上に居座る。


「お給金は今サツキが用意していますからね」

「………まだ若いのにサツキちゃんは本当にしっかりしてますよね。お金の管理までできるんですから」

「私からすればまだまだです」

「はは、そりゃハナさんに比べれば」


ハナさんの経理能力やら把握能力やらは軽く超人的だ。魔術師とかその領域に足を突っ込んでいる気すらある。

いや。魔術師はあくまでも秘術を扱う才能があるだけで人間的能力が格段に優れているわけでは無い。そういった力はむしろ俺たち命核解者のほうがあるかもしれないな。

………そう考えると、ハナさんは命核解者に向いているのかもしれない。まあだからといって茨の道であるこっちの道に引きずり込もうなんて思わないけどな。


「あー!お母さん………!ず、ずるい………」

「サツキちゃんー」

「オルトルートさんもなんでそんなふにゃふにゃな顔してるんですかー!」

「いや、あんまりこういうことはされないもんだからついね………」


元男、それも車いす生活のおっさんだ。綺麗なお姉さん系美人の人妻というハナさんみたいな女性にこうして頭を撫でられる機会なんてあるわけがないのである。

こればかりは少女の身体になった役得かなー、死なないだけの非力な肉体だけど唯一これで良かったと思う。


「ところでさっき、最後の方よく聞き取れなかったんだけど?」

「い、いえ。なんでもないですよ!?」

「そう?んじゃ、いっか」


本人がそういうならね。


「はあ………お母さん、恨むよ………こほん。オルトルートさん、これ今日のお金です」

「ありがとね、サツキちゃん」


袋に納められているナーフコインを受け取る。

おお、多量の銀貨に加え、金貨すらある。ちなみに金貨は一枚だけで一万ナーフに相当する………あれ?


「あの、ハナさん。多くないですか?」


最初の約束だと五時間程度の働きと引き換えに一万ナーフ、つまり金貨一枚の筈だったのに、俺はそれに比べて銀貨も多量に貰っている。

銀貨は一枚で百ナーフ程度だが、袋を揺らせばカチャカチャと大きく音が鳴るほどに貰えば金額が膨れ上がっていることには絶対に気が付く。


「臨時ボーナスというやつです。今日はルルちゃんのおかげでいつもよりお客さんが来ていましたからね」

「いや、それは俺何もしてないですよ。単純にこのお店が良いお店だっただけです」

「いいえ。ルルちゃんのおかげなんです。………そうですねぇ、どうしても渋るのであれば、それでお洋服でも買っていただけると嬉しいです」


俺の表情を見てすぐさまフォローしてくれるハナさん。うん、やっぱり凄いわ、全然適わないぜ。


「分かりました!」

「きちんと、買うんですよ?あの服ではオルトルートさんの魅力が大激減です。意中の御人のためにも身体に合った服装は大事ですから」

「あ、はい………んー、それじゃあ今度手伝ってください。俺にはよく分からないので。サツキちゃんにもお願いしたいんだけど、いい?」

「よ、喜んで!えへへ~!」


いやあ、女の子って買い物がやっぱり好きなんだなあ。

一緒に買い物を手伝って、なんていうお願いでも喜んで一緒に来てくれるなんて。ありがたいものである。

何度も言うが俺には女性らしい服装とかそういうのは全く分からない。ついでに言えばヴィヴィもそういうのはほとんど知らない。

頭のいい女の子ではあったけど、あまり人間社会のことを深く知っているわけじゃなかったからなあ。それは色々と環境というものが影響してはいたんだが。

だからこうして教えて貰えば、今度は俺がヴィヴィに教えられるんだよなあ、なんていうちょっとせこい算段があったりもするのである。

だってさ!好きな娘の服を一緒に選ぶとか!すっごく良いと思わないか?!


「あら、また恋する乙女の顔をしていますね、オルトルートさん」

「ん?!恋するはともかくとして乙女って?!」

「事実オルトルートさんは今、可愛い乙女ですから」

「そう、だけ、ど、なんか違くないですかねぇ?!」


処女なのは事実だけどね!

まったく、あー本当に俺はこの家族には頭が上がらないなあ。今回もまたいろんな恩を回されてしまった。いつか返しきれるかな、これ。

それすら不安になるレベルだよ。………いや、返すさ。俺は悠久に生き続ける不老不死の命核解者なんだからな。

すとん、とハナさんのお膝の上から飛び降りると、二人に対して頭を下げる。


「お二人とも、んじゃまー、今日はありがとうございました!」

「はい。また明日、或いは今度もお願いします」

「私もルルちゃんと一緒に働くの楽しかったです、えへへ~」


三人、お客さんのいなくなった営業終了後のお店の中で笑い合う。

直してもらった頭の簪を撫でつつ、右手のお金の重みを確かめた。初めて自分の身体で働いて、自分で稼いだお金だ。ちょっと使うのがもったいなくなるが―――俺も弟子がいる身、きちんと弟子のために使うさ。手段と目的がいれ違うのは命核解者として致命的過ぎることであるし。

若干痛みの残る足を動かすと、ドレッシングルームへと戻る。さあ、労働の次は弟子のため、或いは自分のために研究をするとしようか!







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