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第五十六話 ~術式転写完了!!~



いえ、別にやましい気持ちがある訳ではないんですよ。

古来から伝わる伝統的な物も分類される、黒魔術。そう言ったものでは体毛を材料に用い、魔術を使う例がいくつか存在している。

人間のだけ、という訳ではなく、動物の体毛を使ったりという事もあるが、まあ魔力は髪に蓄積するものと考えられていたりと何かと体毛は魔術の素材として有用なのである。

………魔術師の才能を持つナフェリアの体毛は、術式の作成において必須ともいえる。決して、絶対に。やましい目的がある訳ではないのだ。


「あの、ちょっと………待っててください………」


―――当然、見るわけには行かないのでそっと錬金釜ごとナフェリアの前に差し出す。そして部屋のトイレに向かっていったナフェリアを見送った。


「オルトルート。良かったな、ナフェリアには生えていて。君には無いだろう?」

「煩いですよ師匠だって生えてないでしょういたいいたい!!!」


頭に爪をささないでくださいよ、事実でしょうが。

あと。俺の身体に陰毛の類が生えていないのは決して俺のせいではなく、ヴィヴィのせいである。あいつの身体に生えていなんだから俺に生えている筈が無いよな、って話。

クローン関連技術に言えることだが、同じ根からは同じものしか生まれない。まあ俺の研究はクローンとはまた違うんだが。


「あ、あの………終わり、ました」

「お………おう!!ありがとな、じゃあちょっとそこに座っててくれ」


錬金釜の中に、数本のアレが見えるが気にしないこととして。ナフェリアを部屋備え付きのベッドに座らせると、改めて術式の調整を行う。

………あ、体毛って下の方髪と同じ色なんだなぁ。まあそうか、構成している細胞は同一の筈。部分部分の環境によって多少の色合いの差はあれど、基本は同じものが生えてくるよな。

いや。何をガン見してるんだ俺は。首を振ると錬金釜の中に腕を突っ込み、中の液体を混ぜる。ナフェリアの体毛が溶け切れば、準備は終わりだ。

錬金釜から手を出すと、指にこびり付いたやや粘度を高めたそれの具合を確認する。真っ赤な液体である物の、匂いは無臭になっている。


「こっちは出来上がったな。それじゃ、あー。ナフェリア………悪いが、服を脱いでくれるか?」


指先から滴り落ちる錬金釜の中の液体、即ち液化した術式を見せながらナフェリアにそう言う。

これまた変態的な要望だが、これも決してやましい気持ちはない。というか、だ。

弟子にそんな気持ち抱くのは師匠として最低である。故に、俺は、何も思っていない!!


「全部………ですか?」

「ああ、全部だ」

「わ、わかりました………」


すん………と表情を消すと、服を脱ぎ始めたナフェリアの後姿を見る。

ああ。いや、本当に変な意味ではないんだが―――綺麗な背筋だと思った。俺の推し、というか最愛の女性はヴィヴィだが、ナフェリアはあいつにも負けず劣らずの美人なんだと改めて理解する。

そうだよな、生来の気質である透明さ………存在感の薄さがなければすれ違う人すべてが振り返っていてもおかしくない美人なのだ。


「あの………それ、で………どうすれば、いいです、か………?」

「ん。ああ、ベッドにうつ伏せに寝てくれ」

「はい………」


ナフェリアがベッドに寝たのを確認して、俺も錬金釜を持ったままナフェリアの背中の上に移動した。あれ、よく考えたらナフェリアは全裸だし、俺は上半身服着てないし、これ横から見たらかなりやばい構図なんじゃないかな。

横目で師匠の方を見れば、なんだかちょっと満足気というか、ご馳走様ですとでも言いたげな視線を向けていた。視線が煩いですよ、あっち向いててください。

………溜息を混じらせつつ、錬金釜の液体を手に取ると、ナフェリアの背中に落とす。


「………ッ、あ、れ………?!」

「少しだけ痛いと思う。―――術式っていうのは、肉体に宿るもう一つの神経組織と呼ばれることがあるんだ」


特に、術式は痛覚を始めとした体内外の五感を感じ取る感覚神経に酷似ているとされ、本来の魔術師同士の術式譲渡でも想像を絶する痛みを感じるそうだ。

新しく神経が肉体に張り巡らされる感覚、しかもプロセスとして外部手段によるものである以上、どれほど丁寧な手段を取ったとしても必ず皮膚に存在する感覚器、受容体レセプターに反応する。

今回、一時的な術式の付与であり、賢者の石を大部分の素材に用い、さらにナフェリアの肉体の一部であり、魔術的にも親和性の高い体毛を用いたためかなり痛みは軽減されているだろうが、それでも針を刺された程度の感覚はある筈だ。


「ごめんな。どうしても痛くて耐え切れないようだったら………言ってくれ」


その場合、魔術による穏便な潜入じゃなくて、師匠と主に武装や道具を駆使した強行突破策を取ることになるが。まあ、弟子のためである。


「大丈夫………です………。慣れて、来ました………から」


その言葉に頷きつつ、手早く術式付与を終わらせる。

―――俺やヴィヴィの肉体を用いた術式の作成及び付与は、俺達から作られた術式の元である液体を肉体に塗ることで完了する。

だが、ただ塗るだけでは意味がない。日焼けに使うサンオイルではないのだ、れっきとした発明品である以上は用法容量を守り、定められた手段をなぞらなければならない。

そして。その手段こそが、この紋様(・・)を描くというものである。

説明をいくら重ねても勘違いしがちな事実だが、術式とは魔術師の発明品だ。発明品である術式に魔力を流すことで、現実から逸脱した現象を発揮するのが魔術師という存在である。

つまり、不定形の現象である魔術そのものとは違い、それを生み出す術式には必ず、形が存在するのだ。物理的に触れるかどうかはまあ、別問題だが。

長い年月を重ねた魔術の術式は非常に複雑で難解な、生物の螺旋の如き紋様を持つというが、今回はそこまで複雑な物じゃない。そもそも、ナフェリアに魔力の使い方を自覚させるという点でもあまりにも難しい術式、複雑な紋様は描けない。


「もう少しだぞ」

「は………い………ッ」


背中に赤く浮かび上がるのは、葉脈のような一対の紋様。

彼女の背中に触れ、液化術式を媒介に体内を流れる魔力の神経回路を認識し、その上に紋様を乗せていく。

………思わず感嘆する。魔術師のエネルギー源である魔力の量は、魂の活動の活発さと体内に存在する魔力神経、その二つの要素によって決められる。

魂から生み出されるエネルギーの量が多くても、体内に魔力をストックするための魔力神経が未熟では魔力総量は落ちてしまうし、逆に魔力神経が発達していても魂の活動が緩やかでは膨大なタンクを生かしきれないという状況になる。

ナフェリアはまだ魂の活動、生み出される魔力量はそこまで多くはないが、体内に広がる魔力神経は質も長さも一級品である。それこそ、ヴィヴィにだって引けを取らない。

天才、この言葉が離れない少女だと改めて思う。

この子自身の術式が開花した時、どれほどの能力を発現させるのか。今から楽しみである。


「よし!!終わりだ」


紋様を描き終えると、ナフェリアの背中の上から離れる。そして、すぐに服を渡した。


「………ふ、ぅ………。………これで、えっと………私は、魔術を使えるんです、か?」


服で前を隠しつつ問いかけるナフェリアに頷く。


「そうだ。体表に広がっている術式に意識を向けられるか?まだ少し痛みがあると思うけど、それが術式が転写されているっていう証拠だ」

「………ん」


ナフェリアが目を瞑る。そして、それと同時に彼女の背中の紋様が赤く、淡く輝いた。


「………分かります………だけど、どうやれば、魔術になるんでしょう………」

「体内の魔力、それを流す魔力神経。それに体表の術式を繋げるんだ。魔力神経の上に紋様を描いたのは、それをイメージしやすくするためだからな。術式を下に、下に伸ばしてくイメージで」

「………、………。………ああ、なるほど………分かり、ました」


赤い輝きがその色を変える。

ナフェリアらしい、空色の色彩。そして、徐々にその光が止んで、ナフェリアの背中に書かれていた紋様がその姿を消した。

術式が消えたわけじゃない。ただ、体に馴染んだだけだ。つまり、肉体の一部、神経網の一つとして収まったという事でもある。

暫くすれば消えてしまう術式だが、それまではナフェリアの思うがままに動く。


「魔術………使えると、思います。あ、いえ………使え、ます………!」


意思を持つ瞳に、一瞬だけ圧倒された。

魔術師としての素質を徐々に開花させているナフェリアは、存在感の薄さを解消しつつある。この子は、本当はこんなにも人の注目を集める子なんだよなぁ、としみじみ頷いた。

やばいな、弟子が可愛い。しっかりと悪い男から守ってやらないと。

と。それは今考えることじゃないなっと。


「よし―――それじゃ、行くか!!第一外縁!!」






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