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第五十二話 ~ナフェリアと魔術~




「………私の、知識は………お二人に比べたら、無いのと一緒です………。研究を行うなら………私以外の方が、いいんじゃないでしょうか………」

「確かに研究の方法自体は俺達でもできる。だけど、俺と師匠にはその素材―――正確には燃料を投入することが出来ないんだ」


実際のところ、師匠にその燃料(・・)の用意がないかどうかは分からない。俺たち自身に力がなくとも、手段としては扱うことが出来るかもしれないから。

仮に用意がなかったとしても、無理を言えば師匠ならばそれを生み出すことも恐らくは出来る。ライフェンブラーに会いたくないという師匠の意思は固いし、そこ逆手に取れば動いてもくれるだろう。

だが、それでも今回はナフェリアに頼んだ。これは、俺の我儘でもあるし、ナフェリアの成長のためでもある。


「………えっと、どういうこと………ですか?」

「ナフェリアにやってほしいのは、魔術(・・)の再現だ。あの旧第六外縁の隠し部屋に施されていたような、俺たち命核解者では扱えない力を振るってほしい」


ことり、と小さな音を立てて、ナフェリアの前に携帯式の錬金釜を置く。

錬金術ならば命核解者が研究に使う釜であっても、道具として問題なく使用できる筈だ。なにせ、系列は同じなのだから。


「え、え………?いえ、あの、私は………魔術なんて、使ったこと、ありません………」

「問題ないぜ。使い方は俺が教えるからな。ナフェリアには教えた通りに研究を行ってほしいんだ―――ただ、途中。魔力っていう俺たちには理解のできない原理、要素を加える必要がある。その点だけは、ナフェリア自身が掴まないといけない」

「………魔力」


ナフェリアには魔力を感知することが出来る能力が備わっている。けれど、それはまだ完全に自覚しておらず、不完全なものだ。人間の視界っていうのは普通は共有できないものだからな、自分が見ている風景、景色が他人と異なることなど知る由もない。

今まで私が赤色だと思っていたものが実は他人の感覚では青色でした、なんて言われても事実かどうかを確かめることすら出来ない。

この感覚のずれ、ぶれこそがナフェリアが持つ才能を隠してきた大きな原因なのである。


「ナフェリア。君は自分がどこか浮いていると思ったことがないか?どこか、他の人の言う現実とは違う場所に立っているような感覚だ」

「………はい」

「うん、だろうな。俺も初対面の時、君に対してそう感じたから」


―――ナフェリアの身体つきは、非常に豊満でやや童顔な顔立ちも非常に整っている部類であり、美人といって差し支えないどころか、街を歩いていれば振り返られるほどの美貌だろう。

だが、常にナフェリアは存在感が薄かった。影が薄いのではなくて、存在感が薄いのだ。俺たち一般人から見ると、どうしてもそうなってしまう。

師匠は分からないけどな。あとは、眠っているヴィヴィがもしもナフェリアを見たのであれば、その特性に気が付いたのかもしれないが………まあ、机上の空論のようなものである。あいつは未だ眠り姫なのだから。

とにかくだ。ナフェリアの見た目は人目を引くほどのものでありながら、街中で声を掛けられたりという事が極端に少ないのは、その持ち前の存在の希薄さが理由なのである。この点に関してはナフェリアの叔母さんも同じことを言っていたので、幼いころからのものであることは確定だ。


「魔術師としての才能を持ちながら、それを発現させていない人間は、世界という括りから少しばかり浮いてしまう………存在感の薄さは、そこからくるものだ」

「………でも、私の血筋は命核解者のものだと………魔術師の、血が混じることなんて………」

「それに関しては―――まあ、あれだよ。魔術師って急に生まれることもあるらしいからな、突然変異的な。生物の世界じゃ、そういうことは稀にあることだし、人間だって動物だからな。有り得る有り得る」


………本当に偶然かなんて、俺には言い切れないが。

そうとも。ナフェリアのその疑問は当然のことなのだ。数を減らしている、時代遅れの魔術師たち。血によってその能力を継承することの多い魔術という才能が、命核解者という現代では魔術師の対極に維持する存在に同時に引き継がれている。これは間違いなく異常な事である。

ナフェリアの両親。この子には申し訳ないが、ちょっとばかり調べておきたいものだ。大体の推測は済んでいるにしても、何を思ってそんなことをしたのか。生きていたのであれば、問い詰めたかった。


「私たちは魔術の扱い方を知っている。だが、魔術の起動媒体である魔力を持たない。銃本体を持ちながら弾丸を持たない状態だな。ナフェリア少女はその魔力を提供して貰えればそれで良い」


俺が考え込んでいる間に、師匠が俺のやろうとしていることを推理して話を進めていた。ちらりと目配せしてくるのは、こうして置けばいいんだろうという確認。瞬きで頷きを返すと、改めてナフェリアに向きなおった。


「魔術を使ってほしいなんて言っても、ここは出先だし複雑な魔術を扱うための準備も何もないからな。そんなに難しく考える必要はないんだ。ただ、魔力を生み出すためにはある程度のイメージと、自覚がいる。それをして欲しいってことだな」

「………あくまでも、魔力というエネルギーを生成してほしい、ということです、か?」

「その通り!俺たちはどこまで行っても命核解者だからな。普通の魔術師と同じ魔術の扱い方は出来ない。俺たちなりの扱い方をする。どうだ、やって貰えるか?」

「………頑張り、ます………」

「よし、ありがとう」


ヴィヴィも言っていたことだが、結局のところ普通の命核解者にとって魔力とは解明することのできない、扱いが面倒な燃料でしかないのだ。詳しい原理や生成方法の規則性を解明できないことは業腹だが、それはそれとしてバケツに魔力を液体として提供されたのであれば、俺たちはそれを利用する方法を生み出せる。

魔術師の魔術の扱い方からすれば外道邪法もいいところだが、俺は魔術師じゃないから知りません。ヴィヴィだって適当に使ってたし、大丈夫大丈夫。


「さて。それじゃあ魔力を生み出してもらう前に………魔術の説明をしないとだな」


まあ、殆ど受け売りなんだが。それでも魔術という法則、原理、仕組みを理解しておく方がナフェリアのためになるだろうという判断である。魔力という才能を持つのであれば、それを使いこなせるようになるのは自衛の一種なのだから。


「………良く分からない、何か不思議な事が出来る………超能力、みたいなもの………それが、魔術です………よね?」

「多くの人はそう思っていることが多いけどな。それが意外と魔術っていうのは科学的なんだよ」

「そもそも我ら命核解者は魔術師から生まれた。即ち魔術とは科学だ」

「………これは過激意見だから気にするなよー、ナフェリア」


魔術師と戦争したいんですか師匠。

因みに、魔術師たちを総括、管理する魔術師連盟は科学を魔術の劣化品だと定義している。選ばれしものだけが扱える魔力を持たない凡人が、魔力の代わりに自然から削り出した燃料、エネルギーを媒介に魔術の代替をしている、と。命核解者と魔術師はどこまでいっても水と油ってことだな、うん。


「ああ。あとその前になんで師匠に魔術を使ってまで認識操作をするかも説明しないとか。師匠、いいですね?ライフェンブラーの話をしても」

「………勝手にしろ」

「はーい、勝手にします」


何故やるのか、その理由がきちんとしていることは相手への理解を求めるという事。それはモチベーションの向上につながる。やる理由のない仕事をひたすらに流されて続けても、作業する側としては対処に困るからな。

とはいえあまり時間もない。双方とも簡単に、簡潔に説明するとしよう。







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[一言] ナフェリアの出生にも秘密が?
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