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プロローグ ~命核解者の美少女変容~

人類がここまでの成長を遂げたのは、その根底に死への恐怖があったからだと思われる。

だってそうだろう?

誰しも、死にたくないから悪あがきをする。

生物を調べ、構造を調べ、自らの血肉とする。

―――その代表が、魔法を操る魔術師たちですら成し遂げることのできない、不老不死を目指し、生物を解体し、生命の真理を解き明かそうとする俺たち命核解者(アルケミスト)と呼ばれる者どもだ。


まあ、一つ訂正することがあるとすれば、俺自身は決して不老不死など望んではいないということか。

むしろ率先して死にたい。

しかし、それができない事情というものがある。

惚れた弱みというものか………人間にはしがらみという難しいものがあるのである。

兎にも角にも、俺が俺の初恋を成就させるためにも、この研究は完成させなければいけない。

………いやぁ、完成したんですけどね?


「生命の真理は無数に存在する……一生のうちにその真理にたどり着けるものもいれば、無駄に終えるものもいる、か。俺はどうやらたどり着けたみたいだな」


コツン、とガラスの容器に手を付き、その中にいる”少女”に視線を向ける。

目を閉じたままのその少女は、何も言わない。

当然である、なにせ魂が入っていないのだから。


「ほかの生命になど一切気を向けずに不老不死だけを研究した結果だな。金とかいろいろ気にしなかった結果だな……」


この研究を達成するために俺はいったいいくら借金をしたのだろうか……考えるのも恐ろしい。

それにしても、まぁ、うん……。

目の前のガラスの容器、少女以外には何も入っていないその器の中身であるその娘を見て、俺にもいろいろと思うことがあった。

いやね、俺もさすがにやりすぎかなって思ったんですよ。

何がやりすぎかって、その少女は俺の初恋の女性にそっくりだったのである。

もう双子かってレベルで瓜二つ。

あれですよ、憧れで作ったからこうなるのも仕方ないんですよ。

わかってください。

青春の残響ってやつです。

誰に言い訳してんだよ。

それはともかく、ずいぶんとしっかり作れたと思うわけよ。

透き通る翡翠色の髪、新緑色の瞳。神様が作ったのかと錯覚するほどの整った”少女”の顔。

淡く膨らんだ胸と、一切の毛の生えていない恥部。

あ、胸とかはあれね、創造ね。

俺あれだし、童貞だし。

初恋のあの娘に告るのが精いっぱいだったし、とてもね……?


「とはいえ、これ完全に成功したってわけじゃないんだよなぁ」


達成できたのは、”不老不死”の肉体を造るという一点のみ。

俺の身体を”不老不死”にできたわけではないのだ。

しかも、その不死だって”死なない”のではなく”死んでも生き返る”という、かなり苦痛の伴う不死だ。

不老不死になるために俺は俺本来の体を捨てなければいけないし、もともと不死なんて求めてない俺にとっては苦痛の一生が始まるのである。


「しかし……あれだ。若かりし頃の初恋ってやつぁどうも忘れられないものだな」


俺―――45歳。

近所ではお調子者の借金貧乏人として知られる爺にして、隠れた命核解者。

そして、おそらく世界初の”不老不死”の成功者である、えへん。


「ヴィヴィ………待ってろよ。お前に命のすばらしさってやつを教えてやるからよ」


死にたがりが何をほざいているのか………師匠のそんな言葉が聞こえた気がした。

違うんです師匠、俺が死にたがりなのは俺本来のせいではなく、ヴィヴィのせいなんです。

あ、俺の師匠はあれだぜ。

アリストテレスっていう、偉大な命核解者なんだぜ。

”不老”の真理を解き明かした正真正銘の天才であり、美少女であり、ただいまこの世界”ウロボロス”から失踪中の俺の師匠です。

どこ行ったんだろうなぁ……。

不老を解き明かしたことによってずいぶんといろんな人から狙われているみたいだし、その姿を隠そうとするのも分かるけどな。

その経験があったからこそ、アリストテレスは俺に「命核解者であることは伏せた方がいいぞ……」と忠告してくれたわけであるし。


「さて、じゃあこの身体ともおさらばと行きますかね」


ガラガラと、車いす(・・・)を回し、ガラスの容器の裏側に回り込む。

この体は下半身が動かないのだ。

それは、高所から落下したせいなのであるが………名誉の負傷である。

不便だが、嫌だと思ったことはない。

裏側には、少女の身体の入った容器とパイプのような物でつながっている、からのガラス容器があった。

狭い入り口からその中に入り、内側から火をつける。

体が焼かれていく感覚………しかし、それと同時に自分が何かに吸い出されていく感覚が生まれた。

その感覚を生み出している原因は二つ。

一つは、万物融解剤(アルカエスト)

命核解者がもっとも使用する機会の多い薬品であり、一番最初に作り方を学ぶ薬品である。

その性質はいたって簡単。

何でも溶かす、だ。

ただ、その用法を変え、成分や量を調整してやれば存在を縛り付けている形質だけを溶かすこともできるのである。

例えば、今俺が自身にやっているように、魂の外側……つまり、肉体だけを選んで溶かすこともできるのである。

万物融解剤の成分、量の調合は命核解者一人一人によって違い、命核解者の求めている真理を解き明かすために調整される。

この成分は各命核解者の秘奥であり、最も秘すべき秘密なのだ。

この成分を解き明かされてしまえば、命核解者は自身の研究した真理をすべて奪われるのと同義なのである。


「だからこそ、ほとんどの命核解者たちは必要な時にしか生命探求用の万物融解剤を造らない」


それ以外には、ただ溶かすだけの万物融解剤を持つだけだ。

さて、もう一つの原因――それは、ガラスの容器の上についたパイプである。

そこに設置されているのは、真っ赤な”賢者の石”。

本来生命を、不老不死を研究するはずの命核解者が……まあ、不老不死以外を研究しているのが今の主流でもあるが……石などの物質転換を探求した果てに生まれた、最も不老不死に近づいた(ただし俺を除く)といわれる研究結果だ。

実際のところは寿命や生命力を大幅に高める効能はあるものの、決して不老不死になることはできなかったため、かなり便利な石として使われるにとどまっている。

実際便利なのだ。

賢者の石は、万物融解剤を適量垂らすことで、しばらくの間命令通りの現象を起こす。

不可思議は魔術師の専売特許だが、賢者の石があれば似たようなことができるのだ。

俺は、この賢者の石を使って魂の吸い出しを行っているわけである。

溶かされ、外殻を喪った魂は本来であれば消えゆくもの。

ほかの肉体に定着なんてありえない。

しかしだ、賢者の石を使えばそのありえないをあり得るに変容できるのである。

……これ、師匠に教わった方法なんだけどな。


「不老不死を見つけたか!あのクソガキが!よくやったな。ご褒美をやろう」


といってもらったご褒美でした。

なお、ご褒美はもう一つ貰ったけど、それはキスでした。

やった、セカンドキスだぜ!

ファーストはもちろんヴィヴィだった。

……いつも疑問に思うんだが、この魂の定着技術どうやって見つけてきたんだろうな、師匠。

あの人の研究テーマは、かつては不老、今では進化だから、どこにも魂の解明を見つける余地なんてないと思うんだが。

どっかにオリジナルでもいるのかね。


「うーむ、思い出すなぁ」


とまあ、その二つの方法で生まれたこの吸い取られる感じに身を浸しながら、しみじみと思った。

焼かれている感覚は、あの塔の上。

吸い取られる――命が失われていく感覚は、ヴィヴィに刺された銀のナイフの感覚に近かった。

でもあの後キスされたから帳消しですよね。

そもそも、惚れた女になら刺されてもキスされてもうれしいのです。

それに、ヴィヴィは自分の意志で俺を刺したわけじゃないし。

本当に恨むべきなのは、あの状況を作り出したあの男……”人体創造”の研究をしていた”青の伯爵”と名乗ったあいつだ。

あいつのせいでヴィヴィは感情を奪われ、自由意思を奪われ、最後には自分の生命に絶望し、その命を絶とうとしたのだからな。

なんとか、一命は取り留めたが……その心を閉ざし、鍵がかかったようになっている。

ヴィヴィは、青の伯爵によってつくられた人工生命体……その本質には、不老に近しいものがある。

故に、彼女と添い遂げるには同じく不老不死になるしかなく(あ、師匠に出会ったのはその線です。不老教えてくれって言ったら殴り飛ばされました)頑張って研究を仕上げた次第なのだ。

ヴィヴィはいまだ、最期の場所から一歩も動いていない。

物理的、精神的双方から身を守る盾を生み出し、この三十年間誰にも侵されることなくあり続けている。

さて、その眠り姫様を、バーンと起こして差し上げるとしますかね―――!


完全に意識だけになったと感じた瞬間に、急激な移動の感覚に揺さぶられ………目を開くと、俺は少女の体に移っていた。

………これが、俺、命核解者オルトルートが解き明かし、愛する者に伝える”生命の目録”の物語である。

ただいまヒロイン不在のまま進行中!!!





………ヒロインの影が薄そう?登場が遅そう?つかネタばれじゃね?

安心してください、ちゃんとヒロイン出てきますから。

ほのぼの系目指してがんばろー(ほのぼのするとは言っていない。

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