~私有地につき侵入禁止!~
その男は緊張していた。素早く辺りを確認し人がいないのを確かめ、最低限だけ開けた裏口のドアの隙間にスルリと入り込んだ。
今しがたまでドアの施錠が思いの外強固だったため解錠に時間がかかり、人に見られる可能性があったのだ。
「フゥー」
室内の様子をしばらく身動ぎもせずに確かめ、人の気配が無いとみて小さく息を吐いた。影に身を潜めると着ている黒染めの革鎧が溶け込むように目立たなくなる。
そう、男は盗賊だった。他人の家やダンジョンに侵入して誰にも気づかれずにお宝を盗みだす、そのスリルを求めて俗に犯罪プレイなどと呼ばれるプレイスタイルを好んでいた。
この家は「プレイヤーハウス」と呼ばれるタイプで、最初からすでに完成しているNPCの家とは違い一からプレイヤーによって建てられたものだ。後者と比べてセキュリティが堅いものの、中に高価な物が多いため、男のように上級の盗賊には狙い目である。
一週間かけて調べたところ、街道にポツンとあるそこそこな大きさのこの家は今の時間帯はプレイヤーがログインしていない事は調査済みだ。
現在のゲーム内時間は夜のため中にいるであろう雇われたNPCも寝ているだろう。動く物音がしないので確信を得る。
「‥‥いくか」
盗賊は夜目と足音を消すパッシブスキルが働いているのを確かめながら一歩、二歩と進みだす。さすがに外見からはわからない間取は盗賊のアクティブスキル「エコーロケーション」によりマップに反映される。それによると一階は応接間やバスルーム、キッチン、客間などで金目のものは無さそうだ。となると二階か。
階段を音をたてないように上がり、寝室に目星を付ける。
アクティブスキルの「生命探知」を使い人の有無を確かめると、横たわる人の反応があったが、これは想定内である。おそらくNPCでありよほどのヘマをしなければ気付かれる事はない。
そっとドアを開け中に滑り込み、ベッドの上を確かめるがやはり気付かれた様子はない。いつでも抜けるよう右手を添えた、腰の左側に提げたナイフは抜く必要は無いようだ。サッと見回してベッドの横のサイドテーブルが怪しいと踏む。
鍵のかかっていないそれの引き出しをそっと開けるとインベントリが表示され、中身がズラリと出て盗賊は思わずニヤリと笑みを浮かべた。
プレイヤーが必死になって集めたでろう品々をかっさらっていくのは、盗賊にとって甘美に思える瞬間である。盗まれたことに気付いたプレイヤーの顔を見れないのが残念だ。
しかし、全てを持ち出すのはアイテムに設定されている重量の関係で無理だ。
価値の高い物を持てる限界まで盗むと盗賊は立ち去る事にした。盗品を売り捌く算段をつけニヤつくのが止まらないのを自覚しながら出口へ向かう。
「チョロいな」
出口のドアを掴もうと腕を伸ばそうとした瞬間、盗賊は画面から消え去った。