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「な、なにをしている!殺せっ!」
パリストの焦りを隠せぬような声が響くと、配下たちもようやく覚めた。
一斉に懐からそれぞれの銃を抜き、アリスに狙いをつける。
「・・・アシュフォードさんの時もこうやって数に物を言わせてねじ伏せた、ってわけね。
まぁ、当然か。
そうでもしなきゃ、『瞬きの撃ち手』とも呼ばれたあたしの『おじいちゃん』が負けるわけないもの」
十数人から銃を向けられているというのに、アリスの余裕さは崩れない。
そんなアリスの態度に業を煮やしたか、パリストが怒り狂うように斉射の掛け声を上げる。
一斉に引かれた引き金、火を噴く数多の銃。
しかし不意にアリスの姿が消えたーーように見えた。
発射された弾丸は全て空を切らされる。
アリスは深くしゃがみこんでいた。
その所作があまりに素早いものだったため、星頂人には一瞬とは言え、消えたように見えたのだ。
そしてアリスはしゃがみこむのと同時に態勢も作っていた。
片膝を立てた、まるで短距離走のスタート前の体勢である。
そして敵が一瞬とは言え、自分の姿を見失った隙を逃さず、まるで自分を弾丸とするように発射、静止した身体を一気に加速させるアリス。
まず前に出ていた、足を庇う男に一気に距離を詰めると、そこから飛び上がり男の顔を足蹴にする。
それを足場にして更に高く飛び上がったアリスは、ティアマトーを下界へと向けてその引き金を引いた。
発射された『弾丸』がまず一人の眉間を撃ち抜く。
そして落下する過程でもう一発の弾丸が放たれ、それはもう一人の左胸を貫いた。
そうして着地したアリス。
周りには数人の配下たちがいた。
すると『一閃』が煌めくや、その数人の男たちは同時に喉仏を切断される。
この時、アリスが持っていたティアマトーは、元の短剣に『戻っていた』。
突き刺して使うような形状の短剣だが、刃の部分が『朱く煌めきながら』鋭い切れ味を発揮し、アリスがそれを振りかざすことで敵の喉笛を切り裂いた。
訳もわからぬまま、一瞬の内に仲間が次々に殺されていく中、残った者たちがなんとかアリスに狙いをつけ、ようやく引き金を引く。
ようやく訪れた反撃らしい反撃だが、それすらも通じず。
狙われていることを知っていたアリスは、咄嗟に骸となって倒れかけた星頂人の身体を支え、盾代わりにしてその弾丸を防ぐ。
それでもその『肉の盾』ごと撃ち貫こうと射撃を続けるが、再び銃へと『姿を変えた』ティアマトーが、肉の盾の脇から一人、二人と次々に『弾丸』の餌食にしていく。
最後にはその肉の盾すら敵に向かって放り投げ、数人が降ってきた骸に倒されて態勢を大きく崩す。
それでも骸に潰された状態から必死に銃で応戦するが、四方から降り注ぐ銃弾をまるで見切っているかのように、
軽やかな跳躍や左右に動くフットワークを見せつけ、最後には敵を討つーー。
アリスはまるで掴み所のない軟体生物のよう。
ただの一発も被弾することなく、確実に敵の急所を捉えて敵を倒していくのだ。