P94
ーーその頃、屋敷の主、パリストは部屋で機嫌よく煙管を焦がし、愛用のカップで茶の匂い、味を楽しんでいた。
広い部屋には側近と思われる配下十数名が集まり、賑やかに飲み交わしていた。
彼にとって忌まわしいアシュフォードを始末したことで、目障りな壁が排除されたのだ。
これで後は今夜、再びアスピークの町へと赴き、上納金の値上げを切り出せばいい。
アシュフォードがいなければ奴等に頼る者などいない。
アシュフォードを始末したのは自分たちだという証拠もない。
彼らに大義名分がない以上、逆らえばそれは全て反逆と見なす。
上納金の支払いを断れば、奴等の町は潰されるのだ。
断れるはずはないーー。
パリストは飲み騒ぐ配下に、まだ目的は完全に達成したわけではない、と釘を刺した。
が、半分達成したようなものだ、と思い込んでいる彼は、配下の騒ぎをそこまで厳格に咎めはしない。
これで上納金が値上がれば、また自分の懐に金が転がり込む。
そんな未来を想像してか、込み上げる笑いを必死に押さえているようだった。
ーーそんな矢先のことである。
不意に部屋の入り口の扉が騒々しく開かれ、配下の一人がよろよろと中に入ってきた。
部屋にいた別の配下がどうした、と駆け寄る。
「ば・・・化け・・・物」
そう言い残して入ってきた配下は倒れ、そのまま事切れた。
背中には弾痕が一つ刻まれており、それが致命傷だったようだ。
一体何が起きたのか?
先までの賑わいが嘘のように静まり返る中、開かれた入り口の外にもう一人、姿を現した。
不気味に瞳を朱く輝かせた金髪の少女ーー。
「だ、誰だてめぇはっ!?
どうやってここまで入ってきやがった!」
倒れた仲間に駆け寄った配下が凄みを利かせながら、当然の質問する。
何も答えない少女・アリス。
玄関からこの部屋に到るまでも、パリストの配下が数名、配備されていた。
しかしながらどこの誰かも分からないこんな少女にここまでの侵入を許し、そして後から追って来るものは一人もいないーー。
ゆっくりと室内に踏みいるアリス。
朱色に光る瞳から放たれる形容し難い雰囲気に押されるように、声を荒げた配下が後ずさる。
「・・・開拓民風情が何の用だ。
ここを誰の屋敷だと思っている」
パリストが少女を睨み付ける。
格好からそう判断したのだろうが、開拓民が足を踏み入れてきた事に不愉快そうな表情を浮かべる。