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ーーアスピーク・タウンから少し離れた平原にある、広大な土地を惜しみ無く使った星頂人、パリストの豪邸。
家の周りを高い塀で囲い、正門・後門にはそれぞれ彼の配下である星頂人が二人ずつ、武装し、見張りとして立っている。
更には正門を抜けた先の庭にも、同じ見張りが数人、日夜、目を光らせている。
どれもこれも強面であり、近づくのも躊躇するだろう。
・・・が、これまで誰かがこの敷地に無断で侵入しようとした例はなく、見張りたちにとっては楽な、そして暇な仕事であった。
ーー日も沈みかけた平原。
正門を見張っていた星頂人の一人が、新しい煙草に火を付けようとしている。
彼の下の地面には吸い殻がたくさん落ちていた。
「お、おい・・・、何か向かってくるぞ」
「あぁん?」
するともう一人が前方の彼方を指差しながら話しかけた。
まだ煙草に火を付けてなかったからか、若干苛ついたようにその方向を見る。
しかし確かにもう一人の言う通りだった。
何かが凄まじい速さでこちらに向かってきている。
「馬・・・か?」
「誰か乗ってんぞっ!」
徐々にあらわになる全体像。
猛烈な勢いで駆ける馬に乗るのは・・・疾走する風に柔らかな金髪をなびかせている少女ーー?
何はともあれこちらに向かって来ているのは確かである。
眼前に迫りつつある馬と少女を迎え撃つべく、二人は同時に懐から拳銃を抜き、すぐさま狙いをつける。
だが少女も動いた。
手綱を一時的に離し、片方の手はポケットへ、もう片方の手で腰のホルスターから拳銃を抜くと、激しく揺れる馬上で寝かせるように銃を構えると、それは火を噴いた。
放たれた一発ーー。
門番の一人の身体を銃弾が射抜き、そしてもう一人は構えた銃が突然の『衝撃』で弾かれた。
撃たれた門番が倒れ、もう一人が持っていた銃を地面に落とすと同時に、もう一つ何かが落ちた。
「き、金貨・・・?」
強い痺れに手を押さえながら門番はそれを見た。
その金貨こそが自分の銃を弾きおとしたのだ、と考える間もなく、ふと前を見上げると馬は既に眼前に迫り、
乗っていた少女の銃を持たない方の手がこちらに向かってきた。
何かを考える暇もなく、襟首をその手に捕まれた男の身体が空に持ち上げられた。
空に浮き上がりパニックを起こしたような悲鳴を上げる男。
だがそんな男の身体は砲丸のように投げ捨てられ、鉄格子の門を突き破った。