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ならばどうする、このまま二人が殺されたのを黙殺するつもりか、と町人たちがアリスに詰め寄るが、それを町長が諌めている。
アリスの言う通りであり、星頂人に迂闊に手を出す行為は皆のためにならない、と説得する。
「ーー大丈夫、あたしがいる。
あたしはこの町には何にも関係ない余所者。
あたし一人が独断でやった事にすれば、追われるのはあたし一人で済むから」
アリスが落ち着いた口調で淡々とそう口にした。
「アリス嬢・・・あんた、一人でやるつもりかい」
ランディが聞くとアリスは小さく頷くと、ずっと誰かを待っているかのように立ち止まっていたジェニファーに足を寄せた。
「お前・・・辛かったね。
ありがとう・・・。
マリアとアシュフォードさんをここまで運んでくれて」
その額を撫でながらそう投げ掛けると、それに応えるように一ついななく声を上げる。
「お前の主人の仇は、あたしがとってやるからーー」
その言葉を理解したのだろうか。
ジェニファーは進行方向を『その方向』へと変えた。
そしてしきりに足踏みを始め、今にも走り出すのではないか、と思わせる。
「お前・・・走ってくれるの?」
遠い距離を往復してきたはずのジェニファー。
身体に傷こそ無いものの、本来なら一度休ませてあげなければいけないはずだ。
しかしジェニファーの『その意志』を感じ取ったかアリスは一つ頷いた。
すると身軽な身体を柔らかく浮き上がらせると、アリスはジェニファーの背中に跨がった。
同時にジェニファーは大きないななきを轟かせ、暴走を始めそうなジェニファーをアリスは手綱を引き、足で腹部を押さえるようにして、落ち着かせる。
「ーーランディさん、教えて。
奴等の場所をーー」
ジェニファーと共に行こうとするアリスを、町人たちが制止する。
いくらなんでも一人で行くのは危険過ぎる、
それこそアシュフォードやマリアの二の舞だと。
しかしそんな町人たちがアリスの顔を見て凍りつく。
アリスは・・・笑っていたのだ。
朱色に輝く瞳が不気味に輝き、町人たちを見据える。
「心配しないで。
あたしは災厄を呼ぶ者。
そして災厄をもたらす者に、災厄を授ける者。
『災厄の衝動』を押さえられる奴なんて・・・この世にいない」
「『災厄』・・・」
町長がふとその言葉を繰り返した。
町長もこの時代を長く生き抜いた者。
アリスの言葉を聞き、表情を見て、何かに思い当たったのかもしれない。




