P9
「バカな・・・!」
右手で左肩の患部を抑えて鈍い痛みに耐えている。
眉間に大きくしわが寄り、すぐに脂汗が噴き出し始めた。
そんな中でも強い疑問の念を含んだ声を漏らした。
回避のタイミングは完璧だったはず。
現にバイスが向けている銃口の先は自分を捉えていない。
銃弾が曲りでもしない限り自分には当たらないはずだと。
「な・・・!?
て、てめぇ・・・!」
すぐに疑問の答えが明らかになった。
バイスの『もう一つの銃』が狙いをつけていたのだ。
抜かれて空のホルダーとは逆側の腰に付けられたホルダーに収まった銃。
それをホルダーに収まったまま銃口をデックに向けていた。
すなわちデックの肩を貫いたのは、
その二挺目の銃によるものである。
「へへへ、いい反応速度だったけどよ、
残念だったな?」
「てめぇ、嵌めやがったな・・・」
「悪いな。
これも戦略ってやつさ。
・・・おっと、ちなみにこっちの銃は安全装置が掛かったままだからな。
端から撃てやしないのさ」
「く、くそ・・・」
始めから握っていた銃は囮だったのだ。
真に狙いを付けていたのは二挺目の銃。
デックの動きに合わせ照準を修正し、そして発射。
その『隠し弾』は見事に命中したのだ。
デックの眼は一挺目の銃に注意が行き過ぎていたため、
もう一方の腕の動きが死角となっていた。
引っ掛けられたことに違いはないが、
ルールに反しているわけではない。
一挺目の銃は安全装置がかけられ弾を発射しておらず、
一回に付き一発の銃撃のみというルールも問題ない。
バイスの言うようにこれはれっきとした戦略であるのだ。
「くそったれ!」
痛みに耐えつつも悔恨の一喝が轟く。
しかし敗北は敗北として受け入れたようでそれ以上声は上げず、
淡々と懐から取り出した手拭いで傷口の止血を始める。
無傷の腕と動かないもう片方の腕に代わって器用に口を使い、患部をきつく縛り付ける。
するとまたその時に走った刺すような痛みに思わず苦悶の声が上がる。
「心配すんな。急所ははずれてんだろ。
あとは早めに帰って手当てすれば問題ねぇさ」
「ちっ!」
問題がないわけではないが、
適切な手当てをすれば命に別状はない。
しかしながらこの決闘のル-ル上では撃たれた以上は敗北。
もはや彼に撃つ順が回ってくることはない。
最初の脱落者はデックと決まった。