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「これは・・・布の切れ端?」
マリアが握りしめていたものをランディがじっと観察する。
「しかもただの布じゃない。
それは星頂人特有の良質な素材を使った布。
きっと凌辱されたマリアが相手の服の一部を引き千切ったのよ。
それは・・・マリアが見せた最後の抵抗にして意地。
あたしたちに対する・・・マリアの最期の言葉。
・・・無駄死になんかじゃない」
アリスは最初にマリアの亡骸を見たときから、既にこの情報を受け取っていたのだ。
人間らしい死に方が出来なかったマリアの言わば最期の『生きた証』。
短い間、共に過ごした中で、心通わせた二人。
アリスはマリアの最期の言葉を決して見逃したりはしなかった。
「しかしなぜこの二人にこんな惨い仕打ちを・・・?
まさかこの間の仕返しか?」
「それもあると思う。
でも多分・・・それだけじゃない」
「どういうことだい?」
「アシュフォードさんが邪魔だったのよ」
ランディの疑問に、アリスは既に何かを掴んでいるかのような様子を見せる。
あの星頂人がアシュフォードを消したかった理由とはなにか。
それはアリスがこの町に来たときの騒動を思い出せば、アリスにはあらかたの想像は付いていた。
その真の狙いをーー。
そしてその裏付けはすぐになされた。
同じく広場にいた町長・ビリーに話を聞くと、やはり星頂人は既に動いていた。
今日の夜、再び上納金について話をしたいという旨を伝える使者が数時間前に現れたというのだ。
アリスの推理はぴたりと的中していたのである。
「てことは何かいっ?
奴等は上納金を値上げしたいからアシュフォードさんを?」
「町人のみんなに慕われているアシュフォードさんが邪魔だったってことよ」
「たかが金の話じゃないか・・・っ!
それをアシュフォードさんを、そして娘のマリアにまでこんな酷いことをーーっ!」
ランディが吠える。
それに乗じるように男たちを中心に沸き立ち始める。
もう我慢ならない、アシュフォードの弔い合戦だ、全員で非道な星頂人を倒すんだ、とーー。
「ーー駄目っ!!」
アリスの叫びがそんな沸き立つ皆を黙らせた。
「駄目よ・・・もし、町全体で星頂人に手を出したりなんかすれば、例え、仇は取れても、
その後で星頂人に手を出した罪でこの町が潰されるーー。
そんなこと・・・アシュフォードさんは望んでない」
ふとアリスがアシュフォードの遺体を見遣り、拳を奮わせながら言う。




