表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅砂を駆けるスタンピード ~blood of jane~  作者: 天王寺綾香
一章 カラミティ・ジェーン
85/265

P85

「だめ・・・あたしもーー」


アリスの言葉も終わらない内に、アシュフォードはジェニファーに働きかけて前に進み始め、そしていざジェニファーを走らせようとしたその時だった。


「ーー行かないでっ!『おじいちゃんっ』!!」


感極まったアリスがその『単語』を口にしてしまった。

あまりに虚をつく、不意を射抜くようなその『単語』にアシュフォードも無理矢理ジェニファーを止めさせるしかなかった。

そして振り向くと、そこには涙を溢れさせる弱々しい『孫娘』の姿があった。


「アリス・・・今、なんて・・・?」


「ーー言う・・・つもりはなかった。

この思いは・・・封印しなきゃいけなかった。

でもーーっ」


アリスは涙ながらに語りだした。

アリスは全てをマーサから聞いていたのである。


マーサは生涯独り身だったこと。

そしてアシュフォードこと、ゼニスと別れたしばらく後、

マーサは娘を生むこととなる。

ゼニスの気持ちを知りながらその思いに応えなかったのは、ゼニスに災厄を招きたくなかったからだということ。


「では・・・お前が追う、母親は・・・俺のーー?」


アリスが小さく頷く。

アリスの母にしてマーサの娘、ヴァージニスはゼニスの娘なのだ。

顔も知らぬ娘。

またアリスが言うような、連れ添った夫を殺し、自ら災厄を振り撒く存在となっているーー。

父親でありながら何も知らなかった、いや自分が父親であったという事実すら知らなかったというやり場のない悲しみに、アシュフォードと名乗るゼニスはただ天を仰ぐしかなかった。


アリスもこの事は隠すしかないと思っていた。

故にアシュフォードと初めて会った時から、自らの気持ちを封印し続けた。

己の気持ちを欺くが如く。

彼は他人であると言い聞かせ、信じ込ませた。

今はアシュフォードとして第二の人生を幸せに過ごす彼に、こんな真実を知らせるのはあまりに残酷であるからーー。


しかし今、自ら死地に赴こうとする祖父を止めるためにアリスはその封印を解いてしまった。

皮肉と言うべきか、ゼニスは病気に蝕まれ最期が近いという中で、ようやく全てを知ったのである。

その心中は誰にも察することは出来ないーー。


「お、お願い!

おばあちゃんを恨まないで!

おばあちゃんは・・・ずっと、ずっと悩んで、苦しんでたの。

だから最後まで誰とも添い遂げたりなんてしなかった。

そんな資格は自分には無いってーー」


アリスはそこまで話すと遂に泣き崩れ、言葉すら発することが出来なくなった。

そんな孫娘の姿を見て、アシュフォードはジェニファーから下り、子供のように泣くアリスに近づいていき、

その身体を自らの両手で包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ