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紅砂を駆けるスタンピード ~blood of jane~  作者: 天王寺綾香
一章 カラミティ・ジェーン
82/265

P82

アシュフォードの手が伸び、銃を抜こうとする。

ーーが、その瞬間別の金属音がその動きを制止させた。


「は、はは・・・こりゃ参ったな。

銃を抜くことも出来ないかーー」


乾いた笑い声を上げるアシュフォード。

それはまるで先日の勝負を入れ替えたような結果となった。

あのときはアシュフォードが、星頂人パイオニアに銃を抜く時間すら与えなかった。

そのアシュフォードの高速を押さえてなおアリスが勝った。

それも圧倒的にーー。


アシュフォードの視界にアリスがこちらに銃を向ける姿がある。

弾薬がない銃の引き金が引かれ、撃鉄だけが空しく金属音を響かせたのだった。

切ない笑顔を浮かべたアリス。

何かを物語るようなその表情にアシュフォードは目を奪われた。


「マーサ・・・」


アリスの顔にマーサの顔を重ねたのか、

アシュフォードは小さく呟くと、感きわまったように瞳を潤ませた。


「ーーマーサとの別れ際も、こうして勝負をした。

あの時は賭けもしてな」


アシュフォードが構えを解き、それに合わせてアリスもゆっくり銃を下ろした。


「俺が勝ったら一緒になってほしいという賭けでな。

情けない話だ。

勝負を挟まなければ、気持ちを伝えることも出来なかったんだ」


「結果は・・・」


「今と同じさ。

抜く暇も与えさせてくれなかった。

瞬きの撃ち手が聞いて呆れるな」


アシュフォードが自虐的に笑った。

アリスは切ない表情のまま、それを見つめている。


「それが・・・答え、だったのだろうな。

その時、俺とマーサは道を違えた。

結局、最後まではっきりと気持ちを伝える事は出来なかった」


アシュフォードは後悔してるようだった。

自分の気持ちを、半端な勝負という形で濁してしまったことを。

例え応えてくれなくとも、自分の言葉で気持ちを伝えるべきだったとーー。


するとアリスはまた切ない表情のまま小さく笑みを見せた。


「気持ちはーー伝わってましたよ」


「え・・・?」


「おばあちゃんがあたしにゼニスさんの話を聞かせてくれてた時、いつも楽しそうだった。

辛い戦争の話の中で・・・ゼニスさんの話題だけはーー」


「そう・・・か」


「きっと・・・伝わってます」


優しく微笑んだアリスの表情に、アシュフォードは救われた思いだったのかもしれない。

後悔の念を抱いたまま死が近づいていた中、最後にこうして亡き相棒の血を継ぐ者と話をすることが出来たことを。

そして同じ勝負で負けることによって、わだかまりを吹っ切ったのであろう。

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