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「これが・・・『白銀の銃剣』」
アリスは祖母の形見ともいえるそれを、まるでかつての持ち主の温もりを確かめるように、しきりに持ち手を両の手で握り返している。
「おばあちゃん・・・」
そしてそれを抱き締めるように胸元へ持っていく。
その表情は亡き祖母に再会したかのような安らかな嬉しさに満ちていた。
「・・・これも忘れるなよ」
アリスの表情を温かい目で見守りながら、アシュフォードは箱の中に入っていたもう一つを手渡す。
それはティアマトーの刀身に合わせて作られた専用の皮袋だ。
アリスはそれを受け取り、その中にティアマトーを納めるーーかに思われた。
しかし何を思ったか、突然アリスはティアマトーで持ち手とは逆の腕を切りつけたのだ。
アリスの表情が一瞬痛みに歪み、アシュフォードも何をするのかと驚愕する。
だが、血がにじむ患部にティアマトーの刀身を近付けるとーー。
なんということか、徐々に傷口がふさがり最後には跡形もなく元通りの皮膚が再生されたのだ。
残ったといえばわずかに滲んだ血液のみ。
アリスはポケットから手拭い用の布を取り出すと、肌に残った血を、そしてティアマトーの刀身に付いた血を綺麗に拭き取った。
「そうか・・・それはティアマトーのーー」
「うん。
おばあちゃんが言ってた通りだった。
『ジェーンの血』を継ぐ者のみに、その真価が発揮出来る。
ティアマトーは持ち主に癒しの力を授ける・・・って」
ティアマトーに備わった不思議な力。
アシュフォードにも見覚えがあったのだろう。
それが一体どのような力で実現させているのかは分からないが、
アリスは祖母が言っていたことを確かめるため、自らの身体を張ってその力を垣間見せたのだ。
アリスは今度こそティアマトーを渡された皮の袋に納めた。
「ありがとう・・・アシュフォード、いやゼニスさん。
今までティアマトーを大事に預かってくれて。
お陰であたし、やっとーー」
アリスはアシュフォードにお礼を言いながら涙を滲ませた。
祖母の形見を無事に手にし、溢れる感動を隠しきれないようだ。
そんなアリスを最初は穏やかな笑みを見せていたアシュフォードだったが、不意に表情を引き締める。
「アリス・・・一つ、頼みがあるんだ」
アリスはアシュフォードの顔を見上げた。